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桜神生徒会

 

 繰り返して午前の授業。

 今日は体感十五時間くらいに感じる。

 特に今行われている二限目の数学に関しては、微分積分、うんなるほど分からん。

 俺は頭が柔らかいから仕方ないか〜、などと途方に暮れたように俺は首を曲げて睡眠学習へと移行する。

 すると、カツカツとヒールの音が近づいて来て、教科書の角のような部分で叩いた衝撃が頭に走る。


「荒木くん、あとで生徒指導室」


「またですか‥‥‥」


「いやなら起きてなさい」


「へいへい‥‥‥」


 叱責という名の昼飯の約束を述べると、見慣れた女教師は踵を返して教壇へ戻る。

 いやだって、スミレちゃんの授業つまらんのだもん‥‥‥でも、このクラスの男どもはスミレちゃんに嫌われまいと数学の授業に関しては本気で受けていた。こいつらの目、必死すぎて怖い‥‥‥。


 そんなこんなで午前中の授業を何とかクリアし、俺は弁当を持って目的地へ向かう。

 すると、突然誰かに腕を引かれた。


「あらぴー! 一緒にご飯食べよっ?」


 そこでは西条がこちらをにんまりと笑顔で眺めていた。ま、眩しい‥‥‥。

 西条とはこないだの公園の件があってから、なんだか俺だけぎこちない感じになっている。

 しかしこいつはそんな事気にせず、『諦めない』という気持ちのもとに動いているんだろう。


「わ、わりい。スミレちゃんのとこ行かなきゃだからさ」


「へぇ? わざわざお弁当持って?」


「ぐっ‥‥‥ま、まぁその後どっかで食うからさ! じゃあな!」


「あっ、あらぴー! むぅ」


 図星をつかれそうになったので、俺は足早にその場を後にする。西条が拗ねているように見えたのは見なかったことにしよう。


 廊下へ出ると、案の定、俺は凛に捕まってしまった。


「だぁーっ! 次から次へと!」


「ケンちゃん? まさかスミレ先生のとこに行くってわけじゃ、ない、よね?」


 凛が鋭い眼光でこちらを睨みつけて脅しに近い口調で攻めてくる。怖ぇよ! いつから俺より覇王色出せるようになったのんこの人!? 恋なのか!? これも恋のせいなのか!?


「き、今日は授業中の居眠りの件でな! 逆らえば成績落とされるから!」


「むぅ、だめ! スミレ先生がケンちゃんを狙ってることくらい知ってるんだから!」


「狙ってねえよ! 俺も流石にアラサーに手を出すほどじゃねえ! てか、俺は凛と付き合ってるだろ?」


「そ、そうだね。う、うんまぁ‥‥‥」


 俺の言葉に、凛は急にしおらしくなった。

 これはチャンスだ‥‥‥! このまま上手く巻けば勝利確定演出!


「俺が好きなのは凛だけだ、この言葉に嘘偽りは無い」


「け、ケンちゃん‥‥‥」


 目を瞑り、体をモジモジさせている。

 俺はこの隙を狙い、そろりとその場を立ち去った。

 危なかったぜ‥‥‥とりあえず早く行かないと、スミレちゃんに何されるか分からないからな‥‥‥。


「失礼しまーす」


「あ、健人! ようやく来たわね、座って」


 俺が気の抜けた声で生徒指導室へ入ると、窓際で黄昏ていたスミレちゃんが、ソファーへ誘導してくれた。

 なんか黄昏ていた時すごい神妙な面持ちだったような‥‥‥? 何かあったのだろうか。


「今日も俺と飯食うだけ?」


「う、うん。ま、まぁね!」


 俺がスミレちゃんの視線を捕えるように見つめて言うと、何やら焦った様子で視線を逸らしてきた。

 これは絶対、何か裏があるな‥‥‥?

 俺は広げた弁当の唐揚げをつつきながら、スミレちゃんに訊ねる。


「それで? 本当は何の用事よ」


「へっ? な、何も無いわよ?」


「アホ、流石に俺もそこまで鈍感じゃねーの。スミレちゃんが隠し事する時はいつも視線を逸らして冷や汗かくから、分かりやすい」


 俺がトドメの一撃を放つと、スミレちゃんは「ぐはっ!」 と撃たれたようにソファーにへたれこんだ。

 やはりこの女、侮れないな‥‥‥隠すの下手だから世渡り下手なのか?


「はいそこ、失礼なこと考えない」


「ナチュラルに心読まんといて」


「まぁ健人には話さないとだったから、いいわ」


 そう言うと、スミレちゃんは姿勢を正して、真剣な面持ちで話し始めた。


「生徒会顧問教師になってしまったの」


「‥‥‥は?」


 俺はその言葉に驚きが隠せなかった。

 いやいや、だって生徒会顧問ってしっかりしていて厳格な雰囲気が出ていてクソ真面目なガリ勉教師の仕事だろ? なんでこんな、残念天然無念独り身三十路教師が生徒会顧問にグハァッ!」


「思いっ切り声に出すなぁぁあ!!!」


 思わず声に出てしまった言葉のせいで、スミレちゃんから鉄拳制裁が下された俺だった。

 心の声というものは、自然たる万物の根源、溢れ出てしまうのも無理はない‥‥‥と思ったところで俺は意識を戻す。


「あぶねえ‥‥‥悟り開くところだったわ。それで、なんでまた生徒会顧問なんかに?」


「そ、それがね‥‥‥前の顧問がほら、その、辞めさせられたじゃない?」


「あー‥‥‥そんな事もあったなそういや」


 つい最近、生徒会顧問であった社会科の男性教師が、会長へのセクハラやらなんやらで解雇されたと聞いた。しかし、あくまでそれは表向きの話で、実際のところ、会長がその教師を気に入らないと思っただけで、事件をでっち上げたという噂をよく耳にする。

 まったく、ひでえ話もあるもんだな‥‥‥と思っていると、


「だからね、私押し付けられちゃって。ということで健人! あんたには生徒会に入ってもらうわ!!」


「‥‥‥」


「もしもーし」


「‥‥‥‥‥‥って」


「ん?」


「‥‥‥‥‥‥はぁぁあああ!?」



 平穏な日常というのは、俺には訪れないらしい。




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