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恋愛短編まとめ

息をする群青

作者: 甘宮るい



 珍しく朝早く起きた。顔を洗っても冴えないままの頭でいろんなものを混ぜながら、僕は飛行機に乗った。

 北海道に引っ越したのは単に実家から離れたかったからじゃないか、と思うようになっていた。茶畑に囲まれたあの地元から出て一体、僕の何が変わったのか。もしかしたら周りの景色や環境が変わっても人はどこかに縛られている限り、意味がないのではないだろうか。

 ふと、思い立ってまだ少し寒さの残る北海道から春を感じさせる静岡に来たのはいいが、それといって何かをしようとかそういう考えは浮かばなかった。実家に顔を出す気も結局、起きない。空港の中をぼんやり歩いて、それから中退した大学の様子を見に行くことにした。バスを乗り継いで、着いた時にはもう腕時計の針は12時を示していた。大学の真ん前に立って、ずっと遠くの空を見つめる。大学の校舎の向こうにその空は、きっともっと広がっているんだろう。僕はまだ、そう思えた。

「高城くん」

 後ろから、懐かしい声がする。喜びと焦りが入り混じった。

「真柚」

 酷く乾いた喉から無理やりに声を出した。

「夢は叶いそう?」

 一昨年ここに置いてきた恋心が蓋を開けたように飛び出した。それと同時に僕は自分のことがあの部屋から逃げだしただけの、臆病な子供のように感じた。

 何も言えなかった僕と変わらない、今もやっぱり。

「ねぇ、高城くん」

 彼女の言葉はとても今の僕を責め立てているように聞こえて、そう受け取ってしまっている。僕を呼ぶためだけの短い言葉だとしても、受け止められない。

「私は高城くんには敵わないよ、いっつも置いていかれちゃう」

 でも、彼女の中の僕は綺麗なままなんだろうか。夢を追いかける、勇気ある青年にでも見えているんだろうか。それとも僕が本当はこんなやつなのを知っていて、そんなことを言うのだろうか。

「真柚の夢は、叶いそう?」

 彼女の夢が何だったか、そういえば知らなかった。知らないくせに、聞いてしまった。聞くのをやめられなかった。

「夢かぁ、あったけど無くなっちゃうかもしれない」

 そう言った彼女は下を向いて、誤魔化すように笑った。


 きっと僕の群青も彼女の群青も、今はまだ息をしている。それは気休めのような、浅い音を出して。

 僕が今、耳を澄ませば聞こえるだろうか。


オリジナルサイト(https://tukikage0123.wixsite.com/amamiyarui)

に最初に挙げた、2017年の夏に書いた小説です。

少し修正してこちらにも、と持ってきました。


評価等いただけると幸いです。

この時、外で書いたのを憶えています。空がとっても近くて暑い日の、青さが今でも残っています。



まだ君が僕を呼んでいる、という現代恋愛に少しだけファンタジーを足したようなお話を書いています。もしよければ。

https://ncode.syosetu.com/n1702ew/

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