第5話
スマホからは、曲が流れていた。
♪いつも見てるね 私のこと
いいたいことがあるのなら
ちゃんと 言葉にしてほしい
私だって 同じなの
いつもキミを 見つめてる
だからわかるの このことが
カンチガイじゃないよね
熱い視線 本気だよね
本気で私を思うなら
愛してるっていってよね
ガールズ30の新曲『愛してるっていってよね』である。
美紀はそれを見ながら思った。
「あの娘たちも先に進んでいるんだなあ…」
と同時に思い出した。
あのつらい日々を。
『先輩』伊藤仁美にこってり絞られた、あの練習を。
季節は夏に向かっていた…
「ちわーす!」
いつもの練習スタジオ。
「ん?」
下野がスマホで音楽を聴いている。
美紀がイヤホンをスマホから引き抜くと、ガールズの『愛してるっていってよね』の曲である。
「下野さん。マジ、ドルヲタっすね」
「いいだろ。誰に迷惑かけてるわけでもないんだから」
「まあ、いいっすけど… ちなみに誰推しなんですか?」
「滝本結衣…」
「へえ… アイツ、元ヤンキーですよ…」
「やめろや!」
「ホントですよ。振入のときにあんまりアタシができないから、胸ぐらつかまれて『殺すぞ、コラぁ!!』って凄まれたことがありますよ」
「やめろよ! 夢みさせろよ!」
「いや… ホントにいい娘なんて、アイドルにはいないっすよ…」
栗山が声をかける。
「そろそろ、練習始めるぞ」
練習終わり、みんなが楽器を片付けているとき、栗山がいった。
「今年は夏にビッグステージを用意した」
メンバーがいった。
「え? どこ?」
「サマフェスだ」
サマフェスといえば、夏に開催される大きなロックフェスティバルである。
海外からもアーティストが参加する。
「マジ? オレたちがサマフェス出るの?」
栗山がいった。
「ちょっと、昔の仲間に交渉してな」
下野が叫んだ。
「スゲーじゃん!」
「まあ場末のインディーズのステージだけどな」
しかし、美紀は戸惑いを隠せなかった。
「うれしいだろ?」
栗山がこう聞いてきたときも、モゴモゴしながらいった。
「え? でも… サマフェスって、たしかガールズ出ますよね?」
「そうさ。まあ、あの娘らはSステージだろうけど…」
「会わないか、Sとインディーズじゃ…」
「なんだ? こわいのか、ガールズが」
「なんていうか… トラウマなんですよ… 芸能界の一番イヤな時期だったから…」
「おまえ、まだガールズのメンバーなんだっけ?」
「レギュラー落ちしてますけど、一応メンバーです」
「どうするんだ? これから?」
「これからっていうと?」
「アイドル、続けるのか?」
「ちょっと、まだ、わからないです…」
「そうか…」
ここはガールズの練習場。
伊藤仁美が後輩たちを叱咤する。
「ちゃんとしろぉ! こらぁ! そんなダンス誰に見せんだよ!」
泣き出す後輩。
「泣いて何とかなんのかよ! ステージで泣いて何とかなんのかよ!」
メンバーの宮武ななが出てきて、伊藤に頭を下げる。
「すいません。あとでキツくいっときます」
「甘やかすんじゃねえよ! 宮武!」
そこに、リーダーの山川亜里沙が入ってくる。
メンバーが挨拶する。
「おつかれさまですッ!!」
「おつかれさま」
そして伊藤にいう。
「ありがとう、仁美。がんばってくれてるのね」
「いえ、自分は自分の仕事しているだけです」
「ごくろうさま。みんな、仁美のいうことをよく聞くのよ」
「おつかれさまっしたッ!!」
山川は去っていく。
伊藤がいう。
「もう一回!」
メンバーが声をそろえていう。
「お願いしますッ!!!」
「いやあ、地獄だったな、あれは…」
風呂に入りながら美紀が回想する。
「音楽なのに、全く楽しめなかったわ…」
そしてフェス当日。
Sステージの控室では、ガールズ30がリハーサルをしていた。
「じゃあ、これでOKだね!」
「はい」
休憩に入る。
小グループに集まって、話をするガールズ。
「私、さっき、バンドのヤツにナンパされた」
伊藤が眉間に皺をよせていう。
「アイツら私らが恋愛禁止って、知らないのか?」
メンバーの滝本がいった。
「恋愛禁止っていやあ、さっき清水見かけたわ」
伊藤がいう。
「なに? 楽屋挨拶にでも来たの?」
「いや、こっちには来なかったよ。ただのオフじゃないかな」
「客として来てたってこと?」
「たぶん… フフフフ」
「なに?」
「アイツって、いつものダッサイ私服でさ!」
「あははは!!」
「アイツ、あいかわらず芸能界なめてんなぁ…」
こちらはインディーズステージ。
リハーサルする美紀たち。
「緊張してるか?」
「ええ…まあ…久しぶりの大きなとこですから…」
「ガールズの客に比べたら全然少ないだろ」
「でもこれでダメだったら、ほかに行くトコないっていうか…」
「あんまり気負うなよ」
「でも何でなんです?」
「ん?」
「なんでサマフェスなんです?」
「オレらももう一度、陽の当たる場所に出たかったのさ。そういう意味じゃ、おまえに感謝してるんだ」
「アタシ、何もしてないですよ」
「いいきっかけだったのさ」
「はあ…」
「ところでさ。おまえホントにファンク好きか?」
「好きですよ! もちろん!」
「その割にあんま歌ってるとこ見ないけど」
「ウソついたりしてないですよ」
「好きなら好きでいいんだけど… いうなら今だぞ…」
「…ファンク好きですよ。好きだけど… ソウルの方が好きかな…」
「だろうな」
「いや、でも栗山さん、ファンクの人じゃないですか。だったらファンク好きで行った方がいいかなって」
「フフフ、そんなことだろうと思ったよ」
「ファンクも好きですよ」
「そうだな。おまえのことはちゃんと見てやるよ」
「このライブで燃え尽きないでくださいよ。ちゃんとプロデュースしてもらわないと」
「わかってるさ… じゃあ『ステップインザライト』といくか」
「栗山さんなら、なんでも出来ますよ!」
そして、ライブは始まった…
そのライブは伝説として語られ、今でも栗山を語るのに引き合いに出されるほどだ。
美紀はその後、栗山のプロデュースでアルバムを作る。
R&Bファンには評判は良かったが、あんまり売れなかった。
しかし、美紀はその後も芸能界をしぶとく生き残り曲を作った。
そのうちの何曲かは、何年も歌われるものになった…
EDは、The Temptations Feat. Rick James「Standing On The Top」を聴いていただけると嬉しいです。




