第4話
「ちわ~す!」
美紀が練習スタジオに入ってくる。
準備をしていた下野が声をかけた。
「お? なんか晴れ晴れとした顔してるな」
「ええ。ちょっと困った案件が解決しまして…」
「ふ~ん」
栗山がいう。
「定例のライブまでラストの練習だ。気合入れていくぞ!」
そして、練習が始まった。
練習終わりに美紀は栗山に呼び止められた。
「おまえ、1人でできる曲あるのか?」
「キーボード出来ますから、弾き語りなら何曲かありますよ」
「今度のライブで一曲弾かせてやる。練習しとけ」
「え? いいんですか?」
「まあ、おまえにもメリットがないとな、と思ってさ」
「いや、ボーカルやらせてもらえるだけでも、ありがたいですけどね」
「ガールズとじゃ規模が違いすぎるだろ」
「いやいや、好きなもので食ってくって、大変ですよね…」
「とりあえず、曲よろしくな」
そしてライブ当日。
ライブハウスの前は人が大勢いた。
「へえ、結構客入るんですねえ」
下野が答える。
「バカにしやがって。オレたちだって、それなりに客付いてるよ」
「まあ、栗山さんですもんね」
「いや、でもいつもの客じゃないヤツらもいるな」
ガールズ30の清水のうちわを持った客がいる。
「あ! すいません… なんかネットで噂が流れてるらしくて…」
「べつにいいんだけどさ… おまえ、ファン付いてるんじゃん。こないだ握手会に誰も並ばないっていってたけど…」
「なんかアレでしょうね。コイツだったらオレでもイケんじゃね?みたいな男が来るんですよ」
「わかる気がする…」
「え? いまアタシ見て、いいましたよね。なんすか、それ!」
「アイドルって、かわいいもんな…」
「下野さん、ドルヲタですもんね」
「え? オレ、そんなこといった?」
「いわなくても、わかりますよ。アタシのこと知ってたじゃないですか」
「まあな…」
「そのとき思ったんです。コイツ、相当のドルヲタだな、って」
「いやガールズのメンバー知ってるぐらいは普通でしょ!」
「どんだけ底深いんすか、下野ドルヲタ愛…」
下野が客を見て驚く。
「ちょっと待て… アレ、色川美晴じゃないか?」
「え?」
「いや、ピュアの色川美晴じゃないか?」
ピュアはトップアイドル3人グループ。
色川はそのリードボーカルである。
「なんで、色川美晴がこんなライブハウスに来るんだよ?」
「栗山さんのファンなんじゃないですか?」
「今まで一度も来たことねえよ!」
そして下野はふと気づく。
「おまえ! おまえだな! おまえ、ピュアとなんか関係あるんだろ!」
「どんだけ底深いんすか、下野ドルヲタ愛…」
「アタシ、ガールズに研修生じゃなくって入ったっていいましたよね」
「うん」
「実は、その前にアイドルグループに加入してまして、それが…」
「ピュア?」
「ピュアじゃないですけど、その前身グループです」
「……」
「当時ラブリーっていう3人グループだったんですけど、色川とアタシはそこのメンバーだったんです。色川の家ってスゴイ金持ちであの娘はそれでデビューできたんですよ。CD作ったら1万枚ぐらい親が買ってくれるんで。アタシは音楽のサポートしてくれってメンバーに入れられたんだけど、途中から色川がめんどくさいこといいだして…」
「?」
「まあそれは今のピュアの方向性でもあるんだけど、女の自立とか、女として、みたいな曲を作りたがるから、アタシがダサいって反対してたんです。そうしたら…」
「そうしたら?」
「ある日、アンタはクビだっていわれてメンバーから外されまして…」
「……」
「でも、あの娘、グループ名の『ラブリー』は嫌だから『発展途上』にしようとかいってたのを、なんとか『ピュア』にしたんですよ。『発展途上』じゃ絶対売れてないでしょ」
「でも、天下のピュアだからなあ」
「まあ、あの方向性は間違ってなかったんですよね… その後、アタシは誰かにプロデュースを頼もうとしても、ピュアの仕事した人とは絶対仕事してもらえなくて、曲が全く出せなくなっちゃったから、とりあえずガールズに入れられたってワケです」
「え? なに? ピュアから圧力受けてんの?」
「べつに仕事するなって、いわれた訳じゃないでしょうけど、やっぱり敬遠されるんですよね」
「あるんだな、そういうの…」
「で、今は現役離れてる栗山さんに曲のプロデュースをお願いしに来て、現在に至る…、ってカンジです」
それまで黙って聞いていた栗山が苦笑しながらいった。
「じゃあ、今日は頑張らないとな」
「いつもどおりでいきましょうよ。ファンクで仇とるなんて似合わないですよ」
ライブが始まった。
『フラッシュライト』『バスティンアウト』とカバーで始まって、栗山のMVPの曲を演る。
美紀はああいったが、いつもよりメンバーたちは演奏に熱がこもっていた。
「じゃあ、新加入の美紀に演ってもらおう」
約束の美紀の曲だ。
キーボードに向かう。
演る曲については色々と考えていた。
ファンクの名曲… 好きな曲…
…しかし、ふと思いついた曲を弾き出した。
印象的なピアノの音…
おもむろに歌い出す。
♪あなたを失った日… その日は自分を見つけた日…
栗山がニヤリと笑った。
「ハニコンか」
♪あなたが去って 思い返したわ
愛が私を見捨てたと感じた
でも 時がたって 涙が乾きだしたら
あなたは本当は愛していなかったと気づいたわ
愛をわかりあってこそ 人生はすばらしい
あなたを失った日 その日は自分を見つけた日
あなたの愛は縛るだけで 慰めてくれなかった
愛されてたのに 幸せじゃなかった
ずっと夜は1人だった
あなたがいなくなるとき 扉を開けたの
私が見たことのない世界への扉を
あなたを失った日 その日は自分を見つけた日
あなたは自身を傷つけただけ それは私を強くしたの
美紀は歌い上げ、ライブは終わった。
栗山を見ると、美紀はいった。
「あんなこといってたのに、曲で仇とろうとしちゃった」
栗山は笑っていった。
「いいさ、ファンクは本音の音楽だからな」
その夜、美紀のスマホに何年かぶりに、ピュアの色川美晴からのメールが届いた。
“おっさんとジャレ合ってても 世界は変わらないよ”
美紀はそれを見て爆笑し、すぐに削除した。




