第2話
「ちわーす!」
練習スタジオに美紀が入ってくる。
すでにバンド、パーマネントのメンバーは集まっていた。
楽器の調整をしている。
そのなかの若いギター担当の下野輝が話しかけてきた。
「おまえ、アイドルっていってたけど、『高木美紀』なんて検索しても出てこないんだけど…」
「ああ、高木美紀は本名なんで… アイドルは、清水美希って名前でやってます」
「ん? 清水美希? 清水美希ってガールズ30の?」
ガールズ30は少女30人で結成された超有名アイドルグループである。
「何? ガールズ30?」
周りのメンバーが驚く。
「えっ? おまえ、ガールズ30なの?」
「はあ… 末席の末席ですけど…」
「超一流アイドルじゃん!」
「いやー、アタシ、あんま熱心じゃないんで、握手会とか10人ぐらいしか並ばなくて… 肩身狭いっす…」
「まあ、たしかに清水美希ってあんま聞いたことないわ」
すると、下野がいった。
「たしかガールズで、最近、男女交際で謹慎くらったヤツが清水美希だったような…」
「はあ… よくご存じで… だから、今ここに来れてるんですけど…」
「え? 何? 恋人いるの?」
「アイツは恋人でも何でもなくて、大学のときのバンド仲間です。なんか写真撮られて」
「ホントか~?」
「なんすか? 興味あります? こんな話?」
「あるある」
「中学生っすか? グループ抜けるために、曲作ってるんですけど、それに協力してもらってただけです」
「へえ、おまえ、バンドやってたのか」
「はい、大学時代ライブハウスで歌ってんの見つけられて、今の事務所にスカウトされたんですけど、拾われたのってアタシだけで… しかも、アイドル… バンド仲間には申し訳ないと思ってますけど」
「バンドはファンク?」
「まあ、そうです」
「ふ~ん、そうなのか~」
「だから、ガールズ30でも浮きまくってて… あそこってほとんどのメンバーが研修生から上がってくるんですよ。それに、スゴイ体育会系なんですよね。上下関係厳しくって。ダンスとかも得意じゃないんで、叱られっぱなしで、ツラくて…」
しんみりと聴き入るメンバーたち。
それに美紀は気付くと、
「アタシの話はいいじゃないですか。それより練習しましょうよ!」
「そうだな」
「でも思いますけど、歌にダンスなんて、オージェイズぐらいのダンスで十分ですよねえ」
「いいわけねえだろ! 30人のあんなダンス見てられねえわ!」
練習が終わって、帰り支度を始めるメンバーたち。
美紀が栗山に尋ねる。
「とりあえずこれからのバンドの活動は?」
「GWの頭にウチの理容店の商店街の企画で、商店街の客集めのためのライブやって、そのあと定例のライブハウスかな」
「わかりました」
「でもいいのか? ガールズのメンバーがこんな地方のしょぼい営業で」
「ガールズの仕事より全然楽しいですよ。あっちの仕事には先がないですもん」
「いやあ…おまえにとっては、そうなのかねえ…」
「ファンクを人前で歌えるだけで、前に進んでる感はあります」
「後退じゃなきゃいいけど」
そして、GW初日。
商店街の空き店舗に機材を持ち込んでのライブである。
「おはようございま~す」
美紀が入ってくる。
「お~」
栗山たちが答える。
時間前になって、メンバーが集まる。
栗山が演目の説明を始めた。
「じゃあ、『フラッシュライト』演って、『ワンネーション』演って、『バスティンアウト』演って…」
そして、チラっと美紀の方を見る。
「『スーパーソウルブラザー』演るか?」
「えっ? あれですか?」
「面白かったからな。 演るんなら演ってもいいぞ」
「みなさん練習とかは?」
「ベテランなめんなよ」
「え~知らないの私だけですか? ずるいなあ」
「あれなら、主役になれるぞ」
「わかりました。演ります」
ニヤリと美紀が笑う。
曲は進んで、美紀の曲となった。
下野がギター弾く。
メンバーが歌う。
♪パパパパパパララ~
スーパーソウルブラザー スーパーソウルブラザー
パパパパパパララ~
美紀のリード。
♪そいつのことを話させて 彼の味は甘いチョコレートバーのよう…
官能的に歌い上げる。
少々ワル乗りしすぎたようにも思ったが。
歌は完璧。演奏もすばらしかった。
ライブは大盛況。
とはいっても、客は50人もいなかったのだが…
控室でメンバーたちはしゃべった。
「よかったですね」
「ああ、サイコーだ」
「やっぱり女がいると、曲にメリハリが出るな」
「誰です? ファンクは男だけの音楽だなんていってたのは!」
「アハハハハ!」
すべてが楽しい1日だった。
美紀は新しい一歩を歩み始めたのだった。




