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テーマ「太陽」

 私は昼間を知らない、だから太陽を見たこともない。衛星軌道天体「シエヌアル」の中層区第四セクターに私の家はある。外の人間は「夜の街」と呼んでいるここには他の地区にもあるような投影型太陽は無く、最小限程度の照明だけが偽物の地を薄く照らしている。偽物だらけのこの街で私は死んでいく運命なのだ。



「みんなおはよう!」

 教室に勢いよく入ってくる明るい毛の彼女はいつもこの挨拶を口にするがこの街でその挨拶を口にするものはそういない。いわゆる夜の状態がずっと続いているこの街の人々にとって朝、昼、夜とはただの時間の区切りでしかなくなんの意味も持たない。

 そんな暗い街であの挨拶を使う彼女は表層区に住んでいる子だ。他の地区に住んでいる子達は通う学校を自由に選ぶ権利があるからうちに来てもおかしくは無いがわざわざこんなところに来るとはよほどの物好きなんだと思う。言ってしまえば変態。

「マイズさんおはよー」

 一部の活発なほうの子達が返事する。その中にはやはり何人か他地区から来ている子も。彼女達によるとマイズさんは「太陽のような子」らしい。初めて聞いた時は当て付けかと若干の怒りを覚えたが彼女達の常識や現実から大きく逸脱しているのは私のほうだからここで私が怒るのはおかしい。

「太陽、ね……」

 見たことの無いものへの興味は濃く、図書館の本を読み漁ったりデータベースから画像を見たりしたがどうにも太陽と彼女は結びつかない。核融合により熱エネルギーなどを放出する天体と明るい彼女、明るいという意味では正しいのかもしれないがそれならマグネシウムリボンとかフラッシュライトでも良いのではないのだろうか? よく分からない。

「ツキさんもおはよう」

「……おは、よう」

 口が慣れない。

 ニコニコと嬉しそうに立ち去る彼女を見ながら挨拶だけのために近くまで来たことに驚く、私なんてその辺の観葉植物よりも気に留める必要はないのに。



 学校は好きではない、勉強などしなくても今の時代知識ならすぐ手に入るのにわざわざ時間をかけて苦労する意義がわからないしなにより学校で教えられることは退屈だ。

 空のことばかり考えていたら放課後だった、物語だと窓の景色で時間を知るらしいが永遠に黒しか写らない窓を見たところで何も分からない。

 家に帰るのがなんとなく憚られたので使う人のいない音楽室に寄って時間を潰そうかと思ったら扉の向こうで音がする。ショパンの想夜曲、美しいピアノの旋律を外で聞いているうちに教室の中が気になった。

誰が弾いているのだろう。意を決して扉を開けるとグランドピアノを手なずけるような手つきで音を奏でる見慣れた明るい髪。

「あら」

「え?」

 完全に意表を突かれた、まさか彼女がピアノを弾いていただなんて。確かにどこか金持ちそうな印象はあったがピアノを弾くなんてステレオタイプ的金持ちじゃないか。静かな嫉妬心を隠していると席を立った彼女が近づいてくる。

「絶対来ると思ってた」

「まさか」

 夜想曲最後の一音が残響する教室で私達は初めて言葉を真面目に交わした。

正直これもう少し先まで書きたい

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