テーマ「音」
やっほー!
と遠くのほうで聞こえた気がした。波の音がうるさい、気のせいだろうか。
おーい!
もう一度声が聞こえた。気のせいではないらしい、振り返ると防波堤の上を歩く人影がこっちに手を振っている。乱視のせいで5人くらいに見えるけど多分一人だろう。手を振り返して合流を待っているとあと少しのところで相手が足を踏み外した。
「わっつ!」
外国人のような反応だと思いつつ手を取るとギリギリで落下を阻止できた。それでも引き上げるのは骨が折れそうだと思っていると視線の先の彼女が笑う。
グイッ、と力を込められ二人して落下する。彼女ならやりそうだと思ったがカバンごと落とすのはやめてほしい。
――ドポン
音のない世界、ぼやけた青い世界の彼女はやはり笑っているようだった。
「カバン水底に沈んじゃったっぽい」
「俺のもどっかいったんだけど」
「楽しかったしいいでしょ」
冗談じゃない、防波堤の下じゃ陸に戻る手段がなく、浜まで百メートルほど泳がされた。
「うー、びしょ濡れなんだけど。家寄っていい?」
「お前の家すぐそこじゃないか」
性懲りもなく防波堤を歩いている彼女の向こうに夕日が沈む、鐘の音が夕方を告げる。