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「信じがたいな……」


 何度も首を振っては同じセリフを繰り返しているのは隣を歩く赤髪の斧戦士ことゲルトレイルだ。今しがた聞いた闇組織のドンの情報に困惑しているんだ。僕もだけれどね。この王都が魔物の襲撃に遭う。いずれは全国展開されるだろうということらしい。


 勇者召喚の儀式の波動? なるものが魔族の警戒を強めてしまうらしい。やらなければ魔族も気づかないのに、なんでそんな事するんだろうね? 魔族の侵略とかは予め決まっているのか? 貴族の権謀術数の一手だったらほんと許さんぞ。


 そして勇者は魔族にとって驚異の存在である。それはまぁ、わからなくはない。だけど、僕は魔族を妖精の秘境でしか見たことがない。もちろんこの国を出たこともないから世界のことなんて知らないことだらけだ。魔族はそもそもどこにいるんだろう?


「ゲルト、魔族ってどこから来るんだろ?」

「東の大陸からじゃないか?」


 東。コルトー公爵領側か。もしかしてコルトー公爵領が軍事国家並みの領地なのは魔族に備えるためか? あり得るな。でも襲撃が地下からじゃ目も当てられないね。


「地下から溢れ出る魔物なんて、恐怖以外のなにものでもないな」

「確かにね」


 ダンジョン10階層どころの話じゃなくなるね。



 -----



「ダンジョンはしばらく閉鎖されるみたいなの」


【虹色の翅】の集合場所、僕の家だ。もうパーティーハウスと言っても過言ではない。4人共ここに住んでるからみんなの家なんだけどね。ダンジョン閉鎖を教えてくれたのはサリアラーラだ。


 彼女たちには冒険者ギルドへ、10階層の情報を得てくるようお願いしていたんだ。それがなんと閉鎖という流れらしい。ギルドも情報を得ているということだろう。一時的なものらしいが、今は入れないんだって。


 ダンジョンアタックを敢行している冒険者たちが帰って来次第、完全閉鎖になる流れなんだとか。脳内で【転移】先のリストの一部である【鷹の爪】の面々に標準を合わせてみると、彼らは29階層にいた。もうすぐ帰ってくるかもしれない。


 もしかしたら冒険者ギルドから襲撃に合わせて強制依頼が出されるかもしれない。王都防衛戦のような。戦闘系のスキル持ちはみんなそうなるんだろうか? 騎士団や兵士は間違いなく国から駆り出されるだろうけれど冒険者ギルドはどう出るんだろう?


「そうか。なら俺達のすることは選択肢が限られてくるな」


 いろいろ考えていそうな赤髪は、僕たちを順番に見て、僕のところで目が合うと少し眉を上げた。頷いて先を促す。


「【虹色の翅】はマグニアス伯爵領へ拠点を移す」


 先の手紙で内容は伝えているからか、魔女たちにも混乱はない。


「いつから移動するの?」

「出来るだけ早く。最速で明日出発」

「明日っ!?」


 ゲルトレイルは闇組織から得た情報をわかり易くかいつまんで説明した。


「「……」」


 二人共二の句が継げないでいる。そりゃそうだよね。こんな荒唐無稽な話信じられるわけがない。王都はいつも通り多少の治安の悪さを差し引いても平穏で、魔物が跋扈するような場所ではないんだから。だけど彼女たちもデラーマ地下を経験済みだから、あり得ないとは思っていないんだろう。


「アレクセイ、お貴族様のお仕事どうするの?」

「う~ん……それなぁ。もういいんじゃない? それどころじゃなくなってきたし」

「「ぇぇぇぇ」」


 心配したサリアラーラの問いかけに対する曖昧な返事に、魔女二人はなおも不安そうに反応を返してきた。


「考えてみてよ。もうすぐ避難勧告が出されるっていうのに、わざわざ北のドヌマンに行けるわけないよ?」

「……そうだけど」


 なおも貴族のお仕事を無視しようとする僕に対して不安が隠せないようだ。受けるべきなのかな?


「偉そうだった冒険者さんが達成報告出してるはずだし、もうここへ届いたことは相手方も認知しているんだよ? リスクがありすぎるんじゃない?」


 貴族のある者たちは本当に何をしても許されると勘違いしているものもいる。特に若い世代がそうだ。親の築いてきた信頼や実績を踏みにじってしまうこともあるらしい。俗に言うボンボンの悪行だね。彼女たちはボンボンが絡んだ場合を心配しているということらしい。平民ではかなり危うい立場に立たされることになるから。


 でも僕にはフラクシス公爵とマグニアス伯爵のエムブレムの刻印付きギルドカードがある。見せてあげればたいていそういう難局は乗り切れると思うのだけれどねぇ。


「まぁ、とにかく明日出発のめどを立てられるように各自準備をしておいてね」


 僕は挨拶回りに行かないと。鍛冶工房と彫金師工房と商業ギルドだね。この家はどうしよう? 結構気に入ってたんだけどなぁ。商業ギルドに相談しようか。


「アレク、あのね。ちょっと相談なんだけど……」

「うん、なに?」


 リリアリーリが一度姉を見て頷きあった後、僕へと視線を戻す。


「私達の荷物ね、森の小屋の方の」

「うん」

「妖精の秘境の、アレクの土地に預けても構わない?」


 なるほど、考えたな。一つ返事で承諾しておく。


「もちろんいいよ? 例のクローゼットはどうする? マグニアス伯爵領の新居に設置する? なんだったら小屋ごと移動させちゃおうか?」

「「ぇぇぇぇ、そんなことまでできるの!?」」


 ドヤ顔をお見せしておいた。


「それじゃ、私達の準備は終ったも同然だけど……」


 魔女たちの荷物は常に最小限に抑えられている。王都に滞在するときの彼女たちのスタンスなのだそうだ。この家に住みだしてからもあまり変わらない。ゲルトレイルに至っては完全にこの家に拠点を移したから、荷物をまとめればそれで終わりだ。


 あら、僕だけが明日出発できるか怪しくなってきた。やること多いんですけど。





 この時ばかりは、挨拶回りを引越し後にするべきだったと後悔することになるなんて思いもよらなかったんだよね。

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