4限
ドヌマン貴族へのお返事をしたためた後、僕たちは再びリビングと言う名の会議室に集まってダンジョンについて話し合う。
「あの、アレクセイ……ほんとに大丈夫? お貴族様の依頼をこんな形で保留にしちゃって」
「どうだろうね? 貴族という時点で嫌なんだけど、この手紙の出し方がなぁ……」
貴族には絶対従わないといけないか? 立場上そう思うのも仕方がないことなんだけれども。でも実はそうでもない。この国の体制が貴族のあり方を幾分抑制してくれているんだよ。
トップの公爵から末端の男爵に至るまで、誰がミスを犯しても格好の餌食にされる腐った社会だし、責任が上のものへと波及するようにできている。どの貴族も8大公爵領のどこかに必ず配属というか傘下にいる。中立の貴族が存在しないからだ。中央の王族直轄地の貴族はもちろん公爵家の傘下にはいないけれど、これはまた別の話。
だからどの貴族も醜聞が立つような行為を極力避けたがる。この手紙が冒険者に委ねられ、冒険者が差出人との間柄をよく思っていないのなら、印象を悪くするためにわざとさっきのような態度で来たのかもしれない。所詮その程度の信頼関係しか得られないような人柄かもしれないし。
「うーん……そうかもしれないけど」
サリアラーラの意見はこうだ。マグニアス伯爵やフラクシス城塞関所での件から察するに、手紙はこの店舗に着くまでにいろいろな邪魔が入る用に仕掛けられていたんじゃないかと。良い貴族の足を引っ張る者は非常に多い。自分の手を汚さずに自分に非難の目が行かないように巧妙に他の貴族領出身者達を使うんだ。
まっとうな意見を述べるサリアラーラにまたしても驚かされた。僕は沸点が低いからついカッとしてしまうけれど、こうして一緒に考えて意見をくれる魔女の態度は本当に貴重なんだ。体の熱が少し引いたのが自分でもよくわかった。
「サリア、よくわかったよ。ちょっと冷静になった。でも差出人を試すのは変わらない。次の態度で、この仕事を受けるかどうか考えてみるよ」
「うん、それでいいと思う。これで何らかの問題があったら私も責任重大だよ」
本人が行きたがらない仕事の仲裁をして問題だらけでした、じゃ目も当てられないしね。その意見にも概ね頷ける。でも僕の考え方が全て正しいわけでは決してないんだから、諫言をくれる仲間の存在はありがたい。
ゲルトレイルもリリアリーリも納得顔で僕たちのやり取りを見ていたから、サリアラーラの意見は彼らの総意だったのかも。パーティーとして何が最善かをみんなが考えてくれている。そう思うと一旦冷めた僕の体はポカポカと温かさを取り戻していくようなそんな感じがした。
「それじゃ、アレク。俺たちは地下に行くとして、サリアとリリアに10階層の情報収集を頼むけど、どうだ?」
「そうだね。お願いできる?」
マグニアス伯爵領への引っ越しの段取りとして闇組織のリーダー、【獅子の咆哮】のシーダーに会いに行かないといけない。僕はゲルトレイルを伴って行くから当然彼女たちは手が空くわけだし。一緒に行かないのか? 嫌だよあんな陰気なとこに魔女達を連れて行くのは。
サリアラーラとリリアリーリはお互いを見合った後、こちらを向き直ってから。
「「わかった」」
と声を揃えた。
僕はもう一度サリアラーラの意見を考えてみることにした。マグニアス伯爵は善政のお人だ。その伯爵が幽閉されるなんて事件が起きた。立場のかなり強い方だったのに、そういうものに巻き込まれる。この手紙も何らかの作為があってくちゃくちゃにされたり、届けてくれる冒険者たちがすり替えられたのかもしれない。
つくづくどうしようもない社会だよね、貴族。貴族に生まれなくて良かった。
そんなことをつらつら考えながらも地下へ行く準備を進めた。
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ココココン、ココン、ココココココン。
王族のエムブレムのある地下の扉に、無駄に多いノックをカマしてみた。案の定ドアはすっと開いた。
「どうぞ」
ドアが開く前に大きなため息が聞こえたけれど、無視だ。失礼しちゃうよね。
「そろそろ来る頃だと思ったからな」
闇組織のドンは聞いてもいないのにすぐに開けてくれた理由を教えてくれた。うん、どうでもいい情報ありがとね。
ドアを開けてくれたのは、秘書のような出で立ちの黒縁メガネが似合いそうなひっつめ髪の女性だった。初めて見るね。
ソファーに促された後、彼女は僕にお茶を入れてくれたんだけど、ゲルトレイルにも座るよう促して、彼のお茶も持ってきてくれたんだ。ゲルトレイルは後ろに立つ予定でいたみたいで、少し逡巡した後、僕の頷きで隣に腰掛けた。等の彼女はシーダーの後ろに回った。
ここはもうお互いを探り合うような場所ではなくなっているんだ。それでいいと思う。こちらを見ていたシーダーも苦笑気味だ。だけど言葉を待っている。
「マサテュール公爵領、じゃないか……マグニアス伯爵領への引っ越しの件だけど」
そう切り出すとシーダーは頷いて続きを待つ。
「時期はどうしたら良いかな」
「できるだけ直ぐが良いだろうな」
「理由を聞いても?」
シーダーはぐっと顎を引いてからこちらを試すように見た。言っても良いのか? という探りなのか、幾分威圧的な気配がにじみ出ている。
隣のゲルトレイルに少し目をやると、彼は変な汗が額から流れていた。
自動状態施錠。
状態:安定
僕にスキルがかかった。
「恐らくだが、間もなく王都は襲撃に遭う」




