3限
カランカランと来客の音がいつにもましてけたたましく鳴り響く。そして「ヴァレントはいるか!!」というだみ声がプライベートスペースにまで聞こえてきた。
なんだろう。嫌な予感しかしないんだけれど……。
「はい、ただいま」
とりあえず急いでいる風を装って店舗に出る。
「お待たせいたしました。いらっしゃいませ」
四十五度の角度に曲げたお辞儀で対応だ。入ってきた人数は二人。おっさんとおっさん。もういいや、これで。胡散臭さ丸出しだから、お客とも思えないんだよねぇ。南京錠を使うようにも思えないし。冒険者風の装備だし。
「お前がヴァレントか?」
幾分高圧的な態度ではあるが、まだ用向きがわからない。なんだろうなぁ。
「はい、キーセレクト・アレクの店主、アレクセイ・ヴァレントでございます」
うむ。という感じの横柄な頷きでおっさんは首を少し上下させた後身を乗り出してきた。
警戒度上昇。状態鑑定。
おっさん
状態:威圧
自動施錠が発動して僕には威圧の影響がない。訝しんでいるおっさんは首を傾げながらもなおも凄んできた。
「こんなな若ぇののためのお使いかよ、ちっ」
おっさん、心の声ダダ漏れなんだけど? 舌打ちも良くないよ? とりあえず後ろ側のおっさんを行動施錠しておく。
「それで私に御用でしょうか?」
下手に行っておこう。早く用を終わらせてほしい。
「ちっ。これをお前に届けろとよ」
おっさんは封筒を僕に手渡してきた。しかしなんだこの態度と、封筒のしわくちゃ加減。郵送のクエストを受けた駆け出しの冒険者な感じかな? 相手の印象を悪くするこの態度はまさに荒くれ冒険者だね。ちょっと力に自身があるけれど、登録したてで討伐クエストが受けられなくて不貞腐れているのかな……。
まぁ、いいや。サインをしてお引取り願おう。そそくさとクエスト完了のサインを書いて渡してあげたけれど、ひったくるようにして完了報告書までくちゃくちゃにポケットにしまうおっさんに呆れた。
「なんだ!? 文句あんのかよ? ああ?」
あちゃ、顔に出てたかな? いや、この手の輩はものすごい敏感なんだろうなぁ。ちょっとした仕草でも己に向けられる悪感情をキャッチしてしまうんだから。その素晴らしい感覚をどうか魔物相手に発揮してくれませんかねぇ。
「いえ、良い武器をお持ちだなと思って」
誤魔化す。
「おぃ、なんだお前、見る目あるじゃねぇか」
はぁ、ちょろい。少し目を細めたのを、武器に興味が湧いたことにしておいたんだ。おっさんは一気に機嫌を直した。ただ、腕時計をしている人に「いい時計されてますね」という感覚で言っただけだ。こだわっている人にはとても効果のある言葉だと思う。
「いえ、冒険者さんですよね? お届け物ありがとうございます」
「ふん、じゃあな」
行動解錠して無事におっさん達を外に出してから僕は店舗に施錠をした。居間へ戻る。
「なんだった?」
不安そうに尋ねてきたのはサリアラーラだ。
「うん、お届け物みたいだ」
僕は受け取った封筒をヒラヒラさせて彼女に見せてあげた。作戦会議の途中の来客だったから、もう一度仕切り直しだ。
【虹色の翅】が揃う部屋で再び先の封筒を開けようとして、違和感に気づいた。クチャクチャの封筒も差出人が同じなのだ。
こんな綺麗な字を書く人の封筒をめちゃくちゃにするなんて許すまじ。そう思ったところであんまり関わりたくないからなんにもする気は起きないんだけれどね。今度絡んできたら塩対応を心がけよう。
「どうやら同じ人からの手紙みたいだ。ギルド留置と直接依頼かな? クエスト扱い?」
「届くかどうかわからないから2通出したとか?」
「うーん、キャンセルの手紙だったりして」
まぁ、開けたらわかるよね? あーだこーだ言ったところで仕方ない。僕は2つ同時に封を開け、最初に届いた方をゲルトレイルに渡し、クチャクチャの方を自分で読むことにしたんだ。赤髪は一瞬躊躇ったけれども開いて読んでくれた。どうせ知らない宛名なんだからかまわないと思ったんだよね。
「鍵屋の仕事依頼のようだな」
「こっちも」
仕事先はドヌマン公爵領の貴族街。男爵家の金庫の解錠と新設。全く同じ内容の手紙だ。
「行くのか?」
ゲルトレイルはこちらを一瞥した。魔女たちも僕を見る。どうしようねぇ。
「とりあえず無視するか」
「「「えっ……」」」
え、なに? 行きたいの? 3人の反応がわからず首を傾げてみた。
「仕事やらないのか? 鍵屋だろ?」
「アレク、お貴族様の依頼を断るの?」
「2通来てるんだから、すごい急ぎだと思うんだけど……」
三者三様のお言葉に納得はする。そうなんだけれどねぇ。お仕事舐めてませんかこの人? 大事な仕事ならもっと信頼できる人に託すべきだったのでは? こんな大事な物をくちゃくちゃにするような人間に頼る人の程度も窺い知れると思うんだ。
「でも、アレクセイ。こうは考えられない? ……内密に届けたかったから、あるいは邪魔されたくなかったからこういう手段でしか渡せなかったとか」
まともなことを言ったサリアラーラに驚愕の顔を向けてみた。考えてもいなかった事態だね。うん、あり得るかも。それにわざわざドヌマン公爵領から手紙を出しているあたり、僕の知っている人かもしれないんだ。でも知り合いにドヌマン出身者なんていないんだけどなぁ。
「あ、あのねアレクセイ。なんで私にそんな驚いた顔をするのかな?」
君のこと察しのいいお馬鹿さんだと思ってたからだよ、なんて言えるはずもないから発言は控えたものの、ぶすっとされてしまった。勘は衰えていないらしい。このやり取りもなんだか久しぶりだなぁ。
「まぁ、本気かどうか図らせてもらうよ」
「どうするんだ?」
僕はクチャクチャの方をヒラヒラさせた。
「こいつを送り返してみる。そして金額を提示する」
3人は顔を青ざめさせた。
「それはまた大胆だな……」
「大丈夫だよ。これがあるからね」
僕は紐で首から下げているギルドカードの裏面を全員に見せてドヤ顔を向ける。
「じゃあ、お返事待ちの間は10階層に行ってみない?」




