8部
2日の滞在を終え、密かにカガ・サギリを送り出そうとした僕とクグモと配下の二人は、サルトビ領の端の僻地へと来ていた。
間もなく国境というところで、別れの挨拶のために向き合っている。
「こんなところまで申し訳ありません。サルトビ様、アレク殿」
「いや、達者でな」
僕は頷くだけにとどめた。あんまり別れは嬉しくないものだ。ここでの出会いは僕の人生に直接影響をもたらさない。なんせ住んでいる時代が違うんだから。だけど人と人との繋がりは決して時代や世界の枠には収まらないのだと思う。こうして出会った彼らとの友情は僕の何かしらの強さへと変わっているはずだから。
お互いが別れの挨拶を済ませ、距離を開けようとしている時だった。矢が飛んできたんだ。
「敵襲!!」
配下の二人が飛んできた矢の方向を向いてサルトビの前に壁になるべく躍り出た。相次ぐ矢の襲来を刀で弾くという芸当を見せる彼らの剣技は一流だった。【剣術・極】は伊達じゃないということだ。
時間稼ぎの矢の襲来が終わる頃には、僕たちは囲まれていた。全方位範囲指定なんてできるはずもなく、僕は背後に回った者たちだけに行動施錠を施す。矢が厄介だった。
森から僕たち目掛けて飛んでくる矢はかなり正確なんだ。悔しいことに僕の【鍵】の効果範囲外から飛んでくるものには対処が難しい。効果範囲に入った矢を止めることは可能だけれど、それに集中する訳にもいかない。色んな角度から飛んでくるんだ。
多勢に無勢という言葉があるけれど、この言葉を実感する時が来るなんて思いもよらなかった。襲い来る背後の者たちを蹴散らし、その数を減らすことに成功はしている。でも数が多いんだ。どこから来たんだろう。まぁ聞いてもわからないんだけれどね。
かなりの戦闘時間を費やして、疲労困憊になる4人とは違い、【召喚】された僕は元気いっぱいだった。囲んできた連中を順番に行動施錠して回り、打倒していったんだ。
「アレク殿、ありがとうございます、助かりました」
少し4人と距離があったけれど、囲んできた者たちの最後の者たちが倒れた後、サギリは僕にお礼を言った。手を上げて返事をする。
油断していたわけではなかった。恐ろしいほどの斉射が4人を襲ったんだ。
僕は彼らの傍に転移する。
死の間近って不思議といろいろなことがスローモーションで見えるものなんだね。人間の脳の処理速度って本当に馬鹿にできない。一瞬の出来事のハズなのに……迫り来る大量の矢を前に僕は両手を広げて叫んだ。
見てろよ、クグモ。【鍵】はこう使うんだ。
後ろの4人の息づかいまで聞こえるほど、僕は集中力を高めていた。
「施錠!!」
矢の雨は僕の顔の前で止まった。そして勢いを失ったかなりの矢は真下へ、僕の足元へとガラガラと音を立てて散らばった。
次の一斉掃射の前に僕はカガ・サギリに合図を送った。一瞬ためらった彼女は疲れた足を必死に動かして国境を越えに走る。そして、サルトビ・クグモの配下の2人は矢が飛んでくる前に、弓士を片付けるために走り出そうとした。
「だめだ!! 矢の餌食になる!」
転移で逃げるために僕はあてがわれた部屋を【門】で選択した。
次の矢がもう迫っていた。
「施錠!!」
今度は先程の矢の半分ほどが僕の目の前で止まった。
落ちる前に僕は転移を発動する。
遅かった。
いや、転移は間に合ったんだ。
だけど。
ほんの少しの時間差で迫っていた矢が僕を。
3人は無事だった。僕の部屋でしっかりと僕を囲んでいる。
「アレクっ!!」
「若っ、揺らしてはいけません!」
「早く医者を!」
必死で僕を呼ぶクグモを見て、僕は安心したんだ。良かった。せっかく【鍵】の使い方を伝授したのにこんなところで死なれちゃ寝覚めが悪いよ。薄れゆく意識に身を委ねることもできたけど、なんだかもったいない気もする。医者なんか呼んでも意味ないのに。
最後に言ってやろう。
「クグモ……【忍者】は必要だよ。世界を恨んじゃだめだ」
サルトビ・クグモは泣いていた。僕の目はすっと閉じていく。
こうして僕は死んだ。




