7部
今は昼下がり。随分長いこと話していたようだ。サルトビ・クグモとの会合はものすごく有意義だったんだ。彼の仲間の強化の仕方を教えてもらえたのは僥倖だ。そのうち【虹色の翅】の強化の参考にさせてもらおう。というかそのまま強化させていただこう。ウシシ。
鑑定の使い方を知らなかったんだから、きっとメモを残しても彼には読めないんだろう。口頭で教えるしかない。いやあと絵で解説していくか……。
だけど必須だと思うんだ。鑑定眼。何かにつけても便利だし。範囲指定や応用、状態施錠と状態解錠について。知り得る知識を叩き込む。
一つ教えるごとに彼は目を輝かせていた。実際、僕がいる以上彼が実践することはできないんだけれどね。試したいから早く帰ってほしいなんて思わないでほしいところだよ。
でも彼の【鍵】のレベルは、対をなす【八卦神門】のレベルがそうであるように僕より高いはずだから、きっと僕よりも【鍵】でできることは多いはずだ。なのにこの体たらく。許すまじ。と思ったところでどうしようもない。やっぱりスキルはイメージ次第なんだろうなと改めて思ったんだ。
僕は鍵屋だ。今も過去も。鍵を使うことにおいて人よりも一歩先んじていると自負している。ただ開け閉めだけが鍵の役割ではないはずだから。そして発想も自分だけではなく、薄れつつあるけれど日本で受けてきた教育や詰め込んだ知識、鍵屋としての経験、テレビやラジオ、インターネットからの情報の奔流から受けてきた。活かさない手はない。
それにサルトビ・クグモの仲間の強化方法も目を見張るものがあった。渡した知識の量とは比例しないけれど、これも彼との交流の結果だ。
昼食が運ばれてくる前に僕はサルトビ・クグモに確認したいことを尋ねる。
「【忍者】ってレアジョブなんだって?」
「ああ」
いつからか僕たちは友達のように話すようになってきた。だいぶ打ち解けてきたんだ。ちょっと気が楽になったんだよね。堅っ苦しかったから。アレク、クグモって呼び方も変わった。二人のときだけだけどね。
「情報を得るなら彼らを味方につけることだよ」
「フェイナス国を?」
「違うよ。【忍者】のカガ一族」
「どうして?」
どうしてって、情報といえば忍者でしょうよ。あ、あんまり認知されていないんだっけ? 僕は忍者についてのあれこれを教えてあげた。この時代の【忍者】ではなく僕が知っている忍者についてだ。そしてその構造も驚くほどおんなじで、カガ・サギリが驚いていたことも教えてあげた。
「驚いた。間者だとは思っていたが、それほどとは……」
「【忍者】を大事にすることだね」
「ではあの者は返したほうがいいか……」
うん、間違いなく返したほうがいいね。なんだったらこっちの情報を少し渡して、協力体制が築けないか打診してみてはどうかな? フェイナス国ではなく、カガ一族との契が結べるかどうか。
「だが、間者を返すとなると少しややこしいことになる。部下が納得しないだろう。材料がな」
部下を納得させる材料?
「驚いた。クグモが命じれば済むことではないの?」
「うーん……そうなんだが。あまり雁字搦めな統率を取りたくはないんだ」
独裁者ではないと。なるほど、主人公補正か? いや、彼の培ってきた人格を補正だ何だって評価するのは良くないね。
「それじゃ、サギリ殿のところに行って話し合おう。三人寄れば文殊の知恵って言うし、いい案が浮かぶかもよ?」
しばらく沈思黙考した後、僕の提案を採用することにしたサルトビ・クグモは僕をお供に彼女のいる牢へと赴いた。彼は即断即決をしない慎重派なんだろうな。まぁ事態が切羽詰まれば【首領】が発揮されるのかもしれないけれど。
「カガ殿、貴方を釈放しようと思う」
開口一番サルトビ・クグモはそう言った。カガ・サギリはまたしても驚いた顔を向けている。いろいろな覚悟をしていたのかもしれない。間者の扱いはその国その領地その組織で様々だ。まさかなんの被害もなく釈放されるとは思ってもいなかっただろう。
「その前に、いろいろと話しておきたいことがある。よろしいか?」
「はい。わたしに決定権はありませんので」
牢から出て、客間に向かう。昼餉のお膳が三人分運ばれてきた。会食といこう。煮物、お造り、味噌汁、銀シャリのご飯、漬物、小鉢に醤油が入っている。和食をいただけるのは本当にありがたい。
クグモとサギリのお箸のマナーや所作は見ていて美しいものだった。右手で摘んだお箸を左手で迎えるように下から添える。摘んだ右手は右方向へスライドされて下側へと移動した後箸を持つ独特の掴み方へ。うん、綺麗だ。
ある程度食事が進み、箸を置いた時、カガ・サギリは居住まいを正し、正座の状態で体をサルトビ・クグモの方向へと向けた。
「単刀直入にお聞きする」
「はい」
「カガ・サギリ殿はサルトビ領の強さの秘密を探りに来た。そうだな?」
聞くというより確認の方が強い言い回しだった。途端にクグモの雰囲気が変わった。場に重圧がかかるような重い空気が張り詰める。サギリは頷いた。ここは隠してもしょうがない場面だ。頷くしかないだろう。
しかしサギリは僕と相対したときほど動揺を見せてはいなかった。捕まった事実が皮肉にも彼女の成長を促したのかもしれない。その凛とした姿は彼女の美しさを引き立てるものでしかなかったけれども。




