5部
本来の歴史はこうだ。
サルトビ領に忍び込んだカガ・サギリはサルトビ一族の秘密を知り、急いで領地脱出を計ろうとした。しかし、【武士】達の追撃に遭い、捕まる。サルトビ・クグモに知らされることなく、彼女は軟禁され、処刑された。
骸は無残にもフェイナス国に届けられ、戦争となる。
弱小国フェイナスは戦に敗れ、スメラギ国・サルトビ領地とされた。【忍者】は解散させられ、カガ一族は各地に散っていったとされている。ただ、それを確認できた者はいない。
サルトビ一族は力を増し、フェイナスの富をほしいままにした。軍備が増強され、向かう所敵なしと噂されるまでに成長を遂げる。精強な【武士】集団としての強さだけでなく、富をものにし、周辺諸国だけでなく、自国の他領からも羨望の眼差し、妬み、あらゆる目がサルトビ領地に集中した。
フェイナス国が弱小でありながら、国としての体裁を保てていたのは、言うまでもなく【忍者】の存在だ。間者としての情報収集能力が高く、隠密性に優れ、戦闘もこなす。
スメラギ国の上層部は【忍者】の存在を知っていた。子飼いにしたいとも考えていた。彼らの情報収集能力を持ってすれば、天下統一の足がかりになるだろうとまで考えられていた。
サルトビ一族は自分たちの情報が漏れることを危惧し、【忍者】を解散に追いやる。これがスメラギ国の王族との軋轢になることは想像もできなかっただろう。武勇に優れた彼ら【武士】達は自分たちの強さを傲り、間者の価値を見誤っていた。
軍備を整えたサルトビ領地の【武士】達はその数を増していく。
突如として起きた津波や地震、台風などの大災害。魔物の大量発生。大地に空いた大穴から瘴気が溢れ出し、魔族が地を襲った。
世界は揺れた。
人々の混乱に乗じて勢力を拡大していく魔族。驚異を認識した頃には人間社会は窮地に陥っていた。破竹の勢いで魔族は世界に侵食していく。ようやっと危機に慌てた各国の首脳達は力を合わせて魔族に対抗することになる。
サルトビ一族が活躍していくのはここからだ。唯一魔族の進行をくい止め、押し返している領地がサルトビ領だった。鍛えられ、強化されていた【武士】達による反撃は魔族を圧倒していた。指揮していたサルトビ・クグモの下に各国の優秀な戦士たちが集まり始める。
次第に焦り始めた魔族側が、軍をサルトビ領へと集め始めていた。隊長クラスや軍団長、将軍など、力の強い魔族が集結しつつあった。拮抗し始めた状況を打開したのがサルトビ・クグモだ。彼は配下の者だけでなく、集まった戦士たちにも強化を施していく。
強くなっていく彼らの実力はその結束をも強化されていった。サルトビ一族はもはや一族ではなく国になりつつあった。
魔族を追い返し、大穴を塞ぎ、人の世界を取り戻した頃にはサルトビ・クグモは英雄だった。
疎んじた各国の首脳達は裏で彼の評判を落としにかかる。やってもいない罪を被せ、配下の者たちへの離間の計を施し、仲間割れを計る。一気に転落の人生を歩むことになったサルトビ・クグモは世界を呪って死んだ。
その影にカガ一族の怨恨があったとは誰も気づくことはなかった。




