表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍵屋無双 ~いや、すごい強いですよこのスキル~  作者: TAKUTOJ
10章 アレクの長い夢編
86/170

4部

 ウグイスが鳴いていた。清々しい朝だ。


 障子を開けると縁側と庭が視界を占拠した。素晴らしい。あてがわれた部屋はとても良い部屋の位置関係にあったようなんだ。いい部屋ありがとうサルトビさん。


 日本庭園の景色は本当に心を落ち着かせる。頬に当たるそよ風がまた気持ちいい。僕は縁側に腰掛けた。


 実はあれから一睡もしていない。眠れないんだ。眠くないし、疲れない。【召喚】された弊害、基特典なのか? これは有効活用すべきではないんだろうか? 後でサルトビに聞いてみよう。


 僕はふと気になってカガ・サギリの元へ転移した。


「おはよう」


 後ろから声をかけた。うん、だって転移先が何時も背後だからね。可哀想とは思うんだよ? 案の定彼女はビックリ仰天が絵になるくらいの驚き顔をして振り返ってくれた。


「貴方は……」

「僕はアレクセイ・ヴァレント。名前のほうがアレクセイだね。ヴァレントでもアレクでも好きに呼んでいいよ」


 カガ・サギリは幾分考えた末、「アレク殿」と呼ぶことにしたようだった。うーん、堅いね。じゃあ僕も「サギリ殿」と呼ぶか。


「サギリ殿はこの国の何を探りに来たの? ていうか、この国、なんて名前かな?」


 サギリは目を見開いたんだ。そりゃそうだよね。自分を捕まえた相手が、立っている所在地を把握していないとか、どんな冗談だと思うだろう。立場が逆でもそう思うし。


「怪しむのも仕方がないけれども、ほんとにここはなんて国? サルトビ・クグモは本当に知り合いだよ? 連れてこられただけだからね。詳しく聞いていないんだ。今日話し合う予定だったんだけどね。先に情報収集だよ。教えてくれない?」


 無邪気を装って首を傾げてみたけれども、捕まえたのは僕だ。通用すまい。しばらくの沈黙の後、サギリはポツポツと話し始めた。


「……ここはスメラギ国・サルトビ領。私はこの領地の軍事機密を探りに来ていました。サルトビ一族が力をつけた秘密が何なのかを……」


 なるほどね。めちゃめちゃ強いもんなぁ、スキルだらけで。


「ひょっとして、ここの人たち飛び抜けて強いの?」


 僕の疑問にあっさり頷くサギリ。【鍵】だとは思うんだけどね? でも『鑑定眼』を知らなさそうだから、何かサルトビ・クグモのオリジナルの強化方法があるのかもしれない。


「そっか。フェイナス国はサギリ殿のような【忍者】が多いのかな?……あ~、ごめん。興味本位だよ。サルトビには言わないから教えてくれない?」


 逡巡した挙げ句、サギリは頭を下げてきた。言えないらしい。ま、しょうがないか。彼女も仕事だしね。捕虜だけど。


「アレク殿が間に入ってくださって、待遇が良くなっていることには感謝しています。ですが……」

「仲間は売れないと?」


 無言で頷く。僕みたいな得体の知れない人には尚の事警戒はするか。


 彼女の部屋はだいぶ奥まった木の牢だった。そんな中に突然背後に現れるんだから警戒してもしょうがないよねぇ。牢に二人きり。


 僕はどっかりと胡座をかいて座り込んだ。サギリもそっと正座で座る。


「秘密は暴けそう?」


 何を言ってるんだこいつは!? と言わんばかりの驚きようで僕を見返す彼女は呆れた顔を初めて見せてくれた。ずっと緊張しっぱなしだったのだろう。


「捕まっているんですよ?」

「まあそうだね」


 肩をすぼめると彼女はふっと息を吐いた。達観したような、諦めの含んだため息だったに違いない。彼女は捕虜だ。情報なんて手に入らないだろう。


「サギリ殿は【忍者・下忍】ということだけど、実力はどれくらい? 中忍? 上忍?」


 次の質問にははっきりと驚愕が見えた。


「……アレク殿はフェイナス国をどの程度ご存知なのですか?」


 サギリの怯えように首を傾げる。なんだ? なんでこんなに怯えているんだろう。さっぱりだ。


「【忍者】は知る人ぞ知る存在なのです。その組織ですら認知されたことがないのに、なぜ組織構造まで知っているんです? 各国の上層部ですら【忍者】を知っている者は稀ですのに……」


 あらら、【忍者】珍しいんだって。ものっそい怪しげに睨まれているんだけど、どうしようもないよね? 自分をどうやって説明したらいいかすらわからないんだし。このあたりの質問は適当にはぐらかそう、そうしよう。


「フェイナス国についてはまったくもって知らないね。ただ単に僕の知ってる忍者が、君のフェイナス国の忍者の組織体と似ているだけなんじゃないのかな?」

「そんなはずありませんよ。【忍者】はレアジョブで、我が一族しか継承できないんです」


 藪蛇だったみたいだ。あんまりしゃべるとボロが出そうだけど、出たところで大した意味もない。僕はこの世界では異分子だ。


「へぇ、君の一族がねぇ。でも僕が知っているのは、カガ一族じゃないよ? 知っている一族だけでも十程は名前を挙げられるけど? 流石に詳しくはないけどね?」


 ばかな!? そんな叫びにも似た驚きを見せるサギリ。驚いてばっかりだね。この時代の忍者の発祥? 忍者の原点がここにあるのかな? それはそれで興味深いけどね。とにかく話題を変えよう。


「【武士】についてはどう? サルトビ一族は飛び抜けて強いって言ってたけど、フェイナス国はそんなに強くはないの?」


 苦虫を噛み潰したような顔はサギリには似合わないなぁ。させたのは僕だけど。がっくりと肩を落としてから言った。


「近隣諸国では強さで言えば、最低ラインでしょう」


 悔しそうだ。


「あのさ、人間同士で争ってる場合なのかな?」

「それはどういう意味ですか?」


 サルトビ・クグモは世界を救った存在だ。どうやって? 何を相手に? 成功条件はなんだ? それらがわからない。社会的に抹殺されたのなら、社会が最終ボスじゃないのか? 例えばこのスメラギ国の国王とかか? あるいはその腰巾着たち?


『魔王の討伐後、勇者の存在が邪魔になって』というようなシナリオとか……それは最初に透明サルトビに聞いたとき思ったことだ。彼の未来は変えられるのか? 僕は何をしてあげられるんだろう?


 返事のない僕に答えを諦めたのか、サギリは目を伏せた。


 朝の何気ないやり取りを僕は気にもとめなかったけれど、彼女は違った。


 歴史が書き換えられていくことに僕は気づいていなかったんだ。


 カガ・サギリとの邂逅はサルトビ・クグモにとって大きな力になることを、この時誰も感じる者はいなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ