5回
「面目ない!」
DOGEZAだ。
目が覚めてすぐ、僕はとりあえずメンバーを前に平伏した。こっそり怪我を解錠したのはご愛嬌だ。包帯が巻かれた内側にもう傷の後はない。だけど、血の着いた包帯は物凄く痛々しいものだった。直ぐに捨てたい。
恐る恐る顔を上げたら、3人は心底安堵していたし、目に涙を溜めていた。
「よかった……」
何度も聞かされるその言葉は、魔女2人からだ。僕が吹き飛ばされた時、生きた心地がしなかったそうだ。
あの後、止められたサリアラーラの魔法が熊を襲ったらしい。ピンポンによって放たれた閃光が熊の目を射抜き、続いてもたらされたサリアラーラによる精霊を介さない魔法が熊を両断したんだって。エグい。
目の前の魔石をこっそり鑑定した。
ストロンガーベアーの魔石:希少価値のある良質の魔石
強い熊ねぇ。うん、吹っ飛んで意識を刈り取られた僕が言うのも間違ってるけれど、強いのうちのパーティーだよね?
6階層の最後の部屋、7階層の入口前に陣取って、僕達は休憩しているところだ。僕が倒れている間、ゲルトレイルに背負われて、魔女2人が戦闘を担当してくれていたらしい。あちゃー、やばい。お荷物街道まっしぐらだよ。
「アレク……ほんとごめんな」
謝られた。
ゲルトレイルは【軍師】として以前に【戦士】としての務めがあったし、油断したのは僕だ。謝られる意味がわからない。首を傾げると苦笑を返された。
「いや、あのな……お前、普段から強えから、ジョブの事を失念していたんだ。明らかに俺の采配ミスだ。俺がくらってたら多分怪我はまだマシだったろう。だからごめん」
確かにジョブを持ち出されると辛いね。やっぱり戦闘職はずるいよ。やるせなさが僕の胸を襲っている。身体能力においても、戦闘ジョブはやはり補正がかかるから、一般人とは隔絶した壁があるんだろう。
熊のデカさに驚いている場合ではなかったんだ。直ぐにスキルで対処しなければいけなかった。やれる事はあったはずだ。確かに一瞬のことだったかもしれないけれど、【鍵】を過信していた訳では無い。僕の使い方が中途半端だっただけだ。いや、そもそもデカさに気を取られて施錠すら意識になかったんだから情けない。
「アレクぅ、ごめんねぇ」
ヒックヒックとしゃっくりみたいに泣きながらリリアリーリが謝ってきた。聞き取りにくかったけど、よくよく聞いてみるとサリアラーラが傍に行って助けに行こうとしていたのを止めたのが、ずっと心に残る罪悪感としてあるようだった。
「リリア、それは謝ることじゃないよ。正しい判断じゃないか。むしろサリアを守ったんだろう? よくやったよ。それにね、僕が油断したのがいけなかったんだよ。心配かけてごめん。それとありがとう」
心のつっかえが取れたのか、リリアリーリは僕に抱きついてさらに泣いた。あー、女の子を泣かせるとか……去来した罪悪感が僕の心を蝕んでいく。どこかで【鍵】をセーブしている、出し惜しみしている自分と、それ故に失敗を繰り返す自分を許せそうにない。
落ち着いてきたリリアリーリは疲れからかそのまま眠ってしまった。精神的な疲れの方が大きかったのかもしれない。
そろそろ正座が辛い。DOGEZAからのやり取りに足を崩せていないんだ。リリアリーリが抱きつきながら眠ってしまったから、さらに身動きが取れない。痺れが僕の足に来ている。
「サリアァ、ちょっと助けて。眠っちゃったみたい」
足の痺れを必死で堪えて絞り出した声に、サリアラーラはギョッとした。慌てて妹を僕からそっと引き剥がしてくれる。リリアリーリを起こさないように丁寧に寝かせ、僕の横にちょんと座った。ほっと息を零した僕に魔女は言う。
「アレクセイ……わたし、怖かったよ。目を覚まさなかったらって」
「……ごめん」
魔女は首を横に振った。違う、と言う。謝って欲しいわけじゃないと。そっと彼女が僕の足に触れた。僕を諭そうと、慰めようとしてくれている雰囲気は十分に伝わったんだよ? でもね。
今足、痺れとるんじゃーーーーー。やめれーーーー。
なんとも言えない気持ち悪さと戦う僕の顔を見て、何を思ったのか、心配顔を向けてさらに追撃を仕掛けてくる始末。うげぇ。
サリアラーラは空気を読む上で、察する点で優れた娘だと思っていたのに。酷い。まぁ、悪意なんてこれっぽっちも感じないんだけどね?
「一旦、仕切り直すか?」
ゲルトレイルは決意を固めた上でそう言った。うん、確かにちょっと続けるのはきついかもしれない。この場所を【門】に登録して我が家へと飛んだ。リリアリーリを部屋へ運んで、今日は解散。
僕達の最初のダンジョンアタックは6階層で終わった。




