2回
「アレクセイ……あの、ここってさ」
困惑気味のサリアラーラは目の前にある下りの階段を指さした。
「うん」
「5階層への入口だよね?」
「そうだよ?」
僕以外の3人はポカーンと口を開ける。あまりにもあっさり4階層を突破したものだから。
「いやいやいや、待てよ。アレク、おかしいぞ流石に」
「何が?」
「何がってお前……」
非常識だなんだと騒ぎ出す3人はほんとにどうかしてるよね? だってそこに見えてる入口があるんだから進むでしょうよ。でもアレだよ、ちゃんと【鍵】スキル使ったからあっさりいけただけで、【鷹の爪】でもこうはいかなかったんだよね。
事は3分前に遡る。
ーーーーー
「いよいよ、極悪の4階層ね。なんだか緊張してきちゃった」
珍しくサリアラーラが弱気だ。ここで命を落とす冒険者達もいるくらいだ、心してかかろうという意気込みさえ感じる。ゴクリと唾を飲んだのは誰だったか……。
4階層の入口を潜るとまたなんにも無い20畳の空洞がお迎えにあがってくれる。もてなされる訳では無いけれど。そして階段を降りれば直ぐに三差路に出くわす。
真っ直ぐ進めば5階層への入口だ。でも進む者は居ない。普通なら。
いきなりの落とし穴が歓迎してくれるんだ。ギルドで何度も聞かされる、最早通説の当たり前の知らない者さえいない程のお話なのだ。「愚かな者は真っ直ぐ進め」という皮肉のこもった諺ができるくらいの有名な話なんだ。僕も子供の頃に聞いたことがあるくらいだし。
で、僕はこの落とし穴に施錠をかけたんだ。予想通りでしょ?
3人はそうではなかったみたいなんだ。僕は彼らが安心できるように声を出して詠唱したんだよ、ちょっと恥ずかしいんだけどね。厨二心が下火になってきたからあんまり声には出したくないんだけれど、やるしか?
「アレクセイ・ヴァレントの名において命ずる……かの罠に静かなる眠りを! 施錠!」
落とし穴:施錠中。【1分保存中】
一応【保存】も使っておいた。後で解錠しに来るのめんどくさいしね。僕は詠唱を終えて静かに歩き出した。いやぁ、詠唱ってほんとダサいよね……以前はノリノリでいけたのになぁ。
「アレク! おい! 真っ直ぐは危ないってあれほど……!」
静止のお声が後ろからかかったけれどお構い無しに進む。ドンドン進んでいく僕に慌てて3人も走って着いてきた。
あまりにゆっくり歩いているからか、彼らに緊張感が見られない。
「あのさ、あと10秒くらいでここまで来ないと落ちるよ?」
5メートルくらい離れてから、振り返って彼らに告げる。2、3秒呆けた彼らは一気に走り込んで僕を追い越して行った。
「見てて」
息を切らせた彼らが僕の後ろに戻ってきたから、そこら辺にある大きめの石を拾って、来た道に投げる。
ガコン!
床が真ん中から左右に別れて開き戸よろしく開いた。
ヒューーーーーーーーーーン……ゴーーーーーン。
石がかなりの距離を落下して着陸したようだ。
彼らを見ると餌を貰う前の金魚のようだった。10秒前にいた自分の身を想像して恐ろしくなったのかもしれない。
「じゃあ、進もうか!」
務めて明るく僕は掛け声をかける。また彼らを追い越して先頭を歩くけれど、目的地はすぐそこにある。ほら5階層への入口だ。
ーーーーー
「4階層をこんなあっさり……」
「間違いなく最短だろうな……」
「左右はどうなってるのかしら……」
それぞれ放心したままだ。早く立ち直って欲しい。これからこんなことばっかり続くんだよ? 驚いてばかりじゃやっていけないと思うなぁ。
ふと思ったことがある。
僕がいないパターンだ。彼らは罠解除をどうするだろう? 盗賊を雇うかな? 自力で行く? 【鍵】は強力だ。彼らのダンジョンアタックのやる気を僕が左右してしまわないか? 依存しだしたら窮屈にならないだろうか? 身勝手な思考をして慌てて打ち消す。ダメだ、僕は本当にソロ向きなんじゃないかな?
「アレクセイ、何考えてるかわからないけど……ちゃんと相談してね?」
不安が顔に出ていたみたいだ。なんでこうもサリアラーラは鋭いのかな? いや、3人とも僕を見ていたから全員が鋭いのかな。
さっきの思考を伝えてみる。
「そんなことか……あのなアレク」
「……うん」
「俺達はパーティーだ。結成したてだけど。んで、お前がいないパターンなんて考えるわけないだろ? いなけりゃダンジョン行かないと思うぞ?」
「そうだよ、スキル云々の前にパーティー組んでないと思うし」
贅沢な悩みだったらしい。仲間に恵まれたんだろうね。うん、いい仲間だよ。
5階層へと進む。




