六
「やあ! 久しぶり」
「「うわっ」」
ご挨拶だよねぇ、"うわ"だって。酷くないですか? なんて問いかけたら怒られた。なんてったって戦闘中だったからね。
この階層にいるモンスターはかなり強い。彼らが手こずることは無いみたいだけれど、これを僕達のパーティーでやれと言われて、果たして大丈夫か? 脳内イメージで戦ってみる……。うーん、なんかイケそうだよねぇ。【魔道・極】が2人いる時点でたいがいどこにでもイケそう。ピンポンも翅人もいるし。やはり僕と赤髪がネックになりそうだな……。
難なく敵を倒す彼らを観察するのは本当に楽しい。すごく勉強になるからね。パーティーのバランスがいいから、僕達と比較は出来ないけれど。
あ、酷いこと思いついてしまった。やらないけど。彼らがダンジョンのどこにいようと、傍に転移でやってこれるから踏破前に行けばあっさりクリアできてしまうんじゃなかろうか? やらないけど。ほんとだよ? さすがにモラルの何たるかは僕にだってあるはず。
ーーーーー
「それでは緊急会議を始めます!」
あらら、なんか始まった。紫色の髪を擁するお二人と赤髪の戦士が我が家の卓を占拠している。
バーンと叩かれたテーブルが心配だ。その衝撃で少しだけギシっと音がしたからね。まぁ、報酬から天引きして弁償してもらうからいいかぁ、壊してくれていいよ? あんまり気に入ってないんだ、このテーブル。コタツを導入したいんだよねぇ。
「はい! 議長、議題はなんでしょう?」
少しハスキーな声の持ち主が、会議開始を宣言した赤髪の戦士に質問をぶつけた。なんか嫌な予感がしてならない。
「俺とアレクの冒険者ランクアップについてだな」
「あ~、いるね」
ランクがバラバラだとどうやらパーティーで受けるクエストの上限が制限されるのと、仮登録中のパーティーを早く結成したいようだ。今は僕のランクが低いせいで、高収入のクエストが受けられないんだって。
はっきり言って僕はお金に困ってないから、3人で稼いでくればいいのに。もしくは僕をポーター扱いにしたらいいのに。結局のところ効率を重視するあまり、僕はランクを上げることに価値を見いだせないでいるんだ。同じパーティーなのに自分だけ呼ばれないのも悲しいことだけど。
この前の緊急依頼ではハブられちゃったからね、ランク低くて僕だけ。だから3人は僕のランクを上げたがる。ゲルトレイルもEランクだから最低でもDにはなりたいようだ。うーん。手っ取り早くダンジョンへ行ってみるかな?
「じゃあ、ダンジョンに潜ってみる?」
「いいね! みんなで行こう!」
ポーターでしか入ったことの無いダンジョンだから、きっと色々と足りないものだらけだよね? 装備や持ち物だけではなく、知識も。そんなに甘くないと思うんだけどなぁ。それに魔法使い2人に戦士にポーターだよ? バランス悪いしねぇ、新しい仲間がいるんじゃない?
あ、でもヒーラーと盗賊、デバッファー? は僕で事足りるし、いいのか……。相談すればいいかな? 先輩にちょうどいいのがいるじゃん。彼らは帰ってきてるかな? 僕は脳内でシュミレートされる【転移】先を確認した。対象はダンジョンの24階層にいるらしい。
「じゃあ、ちょっと先輩に聞いてみるよ。ダンジョンに必要なものとか心構えとか、ランクアップのコツとかね。手分けして情報を集めよう? 冒険者ギルドで手続きとか貸出可能なものとかの確認はゲルトにお願いね、頼んだよリーダー。ちょっと行ってくる」
この度の采配をゲルトレイルに任せて、僕は【鷹の爪】がいるダンジョン24階層へ飛んだ。
ーーーーー
「んで、今日は何用だ? いっつもいっつも突然だなぁアレク」
「事前連絡したところで意味無いでしょ? ダンジョンにいるんだから、ギルドの掲示板なんて、見ないでしょうに」
電話なんて便利なものは無いし、あったところで戦闘中にピロピロ鳴ったら余計に危険だよ。戦闘中じゃなくても歩きスマホどころか戦いスマホ? 危なすぎる。いつ罠にかかるかわかったもんじゃないね。連絡手段がほとんどないんだから文句言われても困る。しかも彼らは掲示板なんて見る機会はない。ほとんどギルドマスターに報告するんだから、受け付けにさえ寄らないんじゃないかな?
戦闘が終わった【鷹の爪】はモンスターの出ない部屋、25階層への入口にあるスペースに入ってから、僕の話を休憩がてら聞いてくれた。
ダンジョンには各階層への入口に必ずモンスターが出ないスペースがあり、10階層事に必ず転移陣が設けられている。冒険者達は束の間の休息を取ることが出来るんだ。もちろんスペースに限りがあるから、殺到すると誰かが次へ進まないといけなくなる。暗黙の了解で、先に来たものが出る決まりなんだけど疲労具合や状態によっては先を譲ったり、お願いして休憩を優先することもあるらしい。
24階層に来ている冒険者なんてほとんどいないから、【鷹の爪】の独占と言っても過言ではない。過去に60階層を確認した冒険者パーティーがいたようだけど、70年ほど前の記録でそれ以降は誰も30階層すら見ていないんだ。このパーティーに王都が注目しているのも無理はない。どこまで行けるんだろうね? 頑張って欲しい。
「持ち物はそうだな……これくらいでいいんじゃないか?」
「ランクアップの塩梅は……」
「ダンジョンにおける立ち回りはこうだね……」
などなど一通りのアドバイスを貰ってウンウン納得していると、リーダーのドレクスラーがおもむろに台無しなことを口にした。
「アレク、お前ランクアップしたいのか? だったら俺たちから推薦状出しといてやるぞ? Aランク特権ってやつで。お前十分実力あるしよ」
Aランク特権。ランクA冒険者が推薦する冒険者を昇格させるシステムの事だ。ギルドの昇格試験合格以上の効果がある。通常はランクアップのために必要な依頼達成数や人格、昇格試験をギルドの試験官が付き添いながら確認する訳なんだけど、それをすっ飛ばすことができるんだ。もちろんなんの関係もなく推薦するなんてことは出来ない。一緒に行動した実績がある僕にだからこそ適用できる裏技だ。
ギルドはランクA冒険者にいくつかの特権を与えているが、責務も当然あるみたいだ。難しい依頼だけでなく、人材育成の方面でも要求されることがあるらしい。この点で、僕に推薦状を出させることで、彼らは人材育成の要求を一旦果たすことが出来、僕は昇格ができる。うん、どちらにも利のある素晴らしい提案だった。タイミングも。
【鷹の爪】はダンジョンを主な活動にしているから、なかなかAランク特権を使う機会が無い。まぁ、そんな時間はないという事だ。彼らにとってもデメリットは無く、むしろ僕に何かを返すいい機会だなんて考えているあたり、遠慮する方がかえって申し訳なくなるね。
「それはそうとアレクよお、お前らまだパーティー名決まってないのか? いい加減仮登録期間終わるぞ?」
そうなんだよね。仮登録もそのままにしていると期間満期で登録解消されてしまうんだって。なおかつ同一人数同一メンバーでの再申請に半年の期間を開けられてしまう。ギルド側の譲歩でもあるらしい。ハッキリさせろという事だ。事務処理上書類が無類に増えていくことを懸念しているんだって。
「参考までに聞いていい? 名前の付け方とか選び方とか」
「そんなもんないな」
「適当だね」
「閃きとか?」
「目の前にあったものをヒントに?」
「……かん?」
なんだこいつらは……。どうやって「鷹の爪」って付けたんだ? 討伐部位に鷹の爪があったからか? まさか唐辛子じゃないだろうし……全く参考にならん。全員答えてはくれたよ? でも何この反応。
後半はグダグダだったけれど、有益な情報とランクアップの目処を貰って僕はダンジョンを後にした。




