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 蹂躙劇が始まった。


 妖精魔法と精霊魔法が入り乱れて花を咲かせては消え、色とりどりのエフェクトが目の前に過ぎ行く。


 哀れなゴブリン達の骸は無く、小指の1寸程の魔石が残るばかりだ。その数およそ50。


 魔女姉妹の魔法が交互に繰り広げられ、僕と赤髪の戦士はただただ歩いているだけだった。


 ここはデラーマ城塞地下の地下牢に位置する廃墟。デラーマ公爵は地下を閉じた。理由はお察し、魔物が出るからだ。外聞を気にしての事だろうけれど、公には地下牢と言う暗い印象を残す場所を排除したことになっている。政策としてのイメージ戦略にしては杜撰な対処の仕方だ。地下牢を公開してしまえばそれも効果はあるのかもしれないが、魔物がいるんじゃそれもままならない。


 ある時、牢番が地下牢の囚人の食事を運ぶために侍女たちを中に入れた。そして強烈な匂いが充満し、囚人の悲鳴がこだましていたという。様子を見るために牢番が先を走ると、直ぐに引き返してきた。慌てた様子で侍女たちを、食事と共に追い返して、自らも地下牢から出て扉を閉じた。


 それからしばらくして領地から地下牢撤廃のお触れが出されたと言う。


 とにかくツルハシを持ったゴブリンが多い。もちろん武器ではなく、穴を掘り進めているわけなんだけれど、一体誰の指示なんだろう? キング? ジェネラル? しかも目的もわからんし。


「アレク、目的地はここだよね?」


 藤色の瞳のショートカットの少女、少しハスキーな声の魔女は、振り返って後ろの扉を指しながら僕に視線を向けてきた。


 小さく頷くと僕は扉に手をかける。中に入れるのは僕だけだ。マサテュールの時もフラクシスの時もそうだったんだ。何故か僕しか入れない。不可視の膜があらゆる人を遮る。そもそも扉自体、開けられたことが無いらしい。開かずの扉だそうだ。


 赤髪の戦士ゲルトレイルと魔女達は扉を開けたところを見た希少な存在なんだと、後で知ることになった。それでも、ここに入れることが知られるのは危険なことには変わりはない。3人は、いや、僕を含めてこのパーティーの秘密として僕達はもっと慎重に事に当たっていかなくてはならないかもしれない。


「サリア、いつものように結界は張っておいて」


 それだけを言い残して僕は【八卦神門】の祭壇室へと足を踏み入れたんだ。今度はどうだろう? 【鍵】レベルは足りるのか?


 恐る恐る祭壇の階段を上り、【門】の模様に手を乗せた。


 淡く光る祭壇。一気に光の柱が天井に突き刺さる。これもいつもの光景と化しているため驚きは無い。ここからだ……。


 全く予想できない事が起きた。


 光の柱から存在のハッキリしない淡い人が出てきたんだ。ビックリしすぎて声が出なかった。中性的な顔立ちで男か女かもわからない微妙な美しさだね。整いすぎている。でも発した声の様子から、淡い人は男性だとわかる。


『【八卦神門】の継承者よ、よく来た。名はなんと申す?』


 なんとなく古めかしい言い回しから、昔の人なんだろうなぁと言うのが僕の印象だね。声の調子からいくと青年? 中年かな? うーん、20~40くらいだな、範囲が広すぎるって? ごめんね。特定できそうにないや。なんせ存在が薄いもん。人が発する音波? そういうのが感じられないんだからしょうがないったらない。


 めんどくさい事にならなきゃいいんだけどね。


「自分から名乗るのが礼儀では?」


『……ハッハッハ。よもや、我を知らぬ者がここを訪れるとは思いもよらなんだ。すまぬな。我は【八卦神門】2代目継承者"サルトビ・クグモ"という』


 なんか聞いたことあるような無いような……うん、無いな。知らない人だ。日本人っぽいね。僕はこの世界の情報を知らなさすぎるのかな? 後で3人に聞いてみよう。


「そうですか……、僕はアレクと言います」


『素っ気ないのぉ、"サルトビ・クグモ"と聞いてもなんの反応もないとは……今は一体何年だ?』


 サルトビ・クグモと名乗った淡い人は幾分残念そうにしながらも話を続けようとしている。なんだろうこの状況……。ハイテクノロジーの様な気もするし、幽霊見ているような気もするし、どう反応していいのかさっぱりだよ。


 時代の齟齬を感じているのか、暦を聞いてきた。言ってわかるのかどうかは相手に委ねようか。


「王国暦545年ですよ? ルクセンのね」


『……そうか。してアレクよ』


 あ、分からんかったな? 話題変えてこようとした。いいけどさー。ネチネチ聞かれてもわからんものはわからんし、淡い人も結構切り替え早い人なんだろうね。


『其方の【鍵】はまだレベルが低いな。……4くらいか。この【止門】のスキルを受けるには十分だが、全ての【門】からスキルを受けるには10はいるぞ』


 この人さっきから何気に重要な事をポンポン連発しているようだけど、待って欲しい。理解が追いつかないんだけど……。


「あの……そもそも【八卦神門】ってなんですか?」


 あ、淡い人がゆらゆらしてるのに口を開けて固まってる。仕方がないからスキルを授かった経緯を簡単に説明してあげた。このスキルありきの腐った世界についての僕の見解を混ぜて。


『……そんな事になっておるのか。嘆かわしいことよの。其方の言う通り、人の可能性を思いっきり制限されておるのぉ。作為を感じる。そうしている存在がおるようだ。我の時代では考えられん。人は確かに無限の可能性を秘めておるものよ』


 おお、共感してくれる人に初めて会った。なんか嬉しいぞ。


【八卦神門】は派生のないレアスキルで、その時代には必ず1人しか継承者がいないらしい。様々なスキルを発現できる特殊なものらしいんだ。確かに一般的な戦闘系や職業系のスキルとは旗色が違いすぎるよね。


 各門のスキルを得るには、【鍵】のレベルを上げる必要があるみたいだ。うん、フラクシス地下で知ったし。ここのスキルは得られるようだけれど、そもそも【鍵】のレベルってどうやって確認できるんだ?


『残念だが、【鍵】レベルが10にならんと確認できん。しかも10が限度だから、その時点で知る必要もなくなるの。理不尽なものだと思ったものよ』


 確かにね。


『【鍵】スキルは使用回数や新たな能力を使った時、新たな経験を積んだ時に上がったりしたのぉ。我もあまり意識したことは無いから断言はできんが。アレクセイ・ヴァレントよ』


 あ、名乗ってないのにやっぱりわかるんだね、名前。


『【鍵】と【八卦神門】は世界を変える力を有していると言っても過言ではない。もう実感しておるやもしれんが。だが、使い方は自由だ。好きにするといい。この世界に鉄槌を下すならそれもそれ、救いをもたらすならそれもそれだ』


 あら、自由なのね!? 意外だ。なんかさせられるんだと漠然と思ってたから。


『初代は「世界を救え」とか言うかもしれないが、気にするでないぞ』


 ぇぇぇぇ!? あんた大丈夫か? そういうのが目的じゃないのか? 物言いが古臭いのと割とまともと思ってたからてっきり核心をついた真理かと勘違いしかけたよ? 不真面目系か?


『疑うのも無理はないかの』


 なんか苦笑混じりだね、サルトビさん。


 サルトビ・クグモは世界を救ってから、その世界に裏切られた英雄らしい。だから世界に恨みはあれど、救う必要が本当にあるのか甚だ疑問なんだそうだ。おおう、ハードモードな人生を歩んだんだね。


 ちなみに初代はハッピーエンドの大団円で、熱血漢の勇者だったそうだ。【鍵】スキルでやりたい放題やって自分を強化しまくったらしく、周りに敵がいなかったんだって。一方、2代目は周りも強化してパーティーで強くなったらしいけれど、助けた国の上層部に裏から色々と手引きされて社会的に抹殺されたらしい。


 同じ世界を救う行為でも、結果がこうも違うなら、自分はどうすべきなのかよく考えろということみたいだ。分不相応な力を手にする弊害とも言える。


 宝くじが当たった人の生活が破綻するって聞くこともある。使い方次第で良くも悪くもまいた種が芽吹いて刈り取ることになるんなら、自分はこの強力なスキルをどう使うべきか……。


 サルトビ・クグモは僕にたくさんの知識を分けてくれた。ここも登録しておこう。新しいスキルと理解者を得て、僕はこの部屋を後にした。


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