4刻
【怠惰の蛇】へ
目の前にいるアレクセイ・ヴァレントを頼れ。
まず、手練は下がらせろ。絶対に敵意を見せるなよ。
お前が信頼する気の置けない奴がいれば、1人につき金貨20枚をヤツの目の前に置いてやれ。それだけで意味が分かるはずだ。詮索はするなよ。あくまでも友好的に接する事をお勧めする。
必ずお前にとって利になるはずだ。
信じるか信じないかはお前次第だが。
最後に、この男は鍵屋だ。意味は解るな? 【獅子の咆哮】
胡散臭い手紙だ。実に胡散臭い。シーダー、何やってくれてるんだろうね? こんな書き方したら、怪しまれるじゃないか! どうやら【怠惰の蛇】らしい目の前の女性に、渡した紹介状の中に入っていた、何枚かの手紙の1枚を見せられる。
「これを僕に見せてどうするんですかね……」
「どうしようねぇ」
首を傾げる僕たち2人。【怠惰の蛇】は淡いピンク色の髪をショートボブにした目のキリッとした30代の女性だ。彼女はとりあえずシーダーの言う通り、5人を僕の見える位置に立たせ、金貨100枚を20枚づつ5つに分けて僕の目の前に置いた。
「はい。どうすんのこんな大金?」
僕はいろんな意味で苦笑する。目の前にポンと大金を置くこの人の精神と、金持ち具合。シーダーへの信頼の絶大さ。この人もまた【獅子の咆哮】に関わりのある人なんだろう。
「右から2人目の人と左端の人は退室させてください」
僕は20枚を【怠惰の蛇】へ返す。言われた通り、彼女は2人を退室させた。
「質問です。貴方の名前はこちらの皆さん全員がご存知ですか?」
「ええ。私の大事な家族よ」
なるほど。家族ときたか。
「では、ジャンヌさん。もう1つの質問です」
僕は彼女の名前を告げる。試した訳では無い。【怠惰の蛇】が組織名だと鑑定した時に分かってはいるけれど、確認をしたかったんだ。案の定彼女は驚いてくれたけどね。驚いたのは僕の方だけれど。
「【剣士】【戦士】【騎士】【暗殺者】、なれるんなら何になりたいです? ちなみにお勧めは【剣士】です」
「なんだい、謎かけか何か? うーん、じゃオススメで」
「素直が1番ですね、次です。お勧めだけ言いいますよ? 【双剣術】【剣術】【神速】【見切り】。コレは自分で選んでください。何を選んでも後悔のないものばかりだから、好みですね〜」
「何かの占い? うーん」
「選びにくいですか? 難しく考えなくてもいいですよ? 攻撃が好きか防御が好きか」
「攻撃だね」
「じゃ、【見切り】は外しましょう。小さ目の剣がいいですか、それとも大剣とか長剣?」
「うーん、小さい方が良い」
「じゃ【双剣術】か【神速】。これはもう自分で選んでくださいね」
「はぁ、何の遊びなんだか……【双剣術】だね」
僕はジャンヌに【双剣術】のスキルと【剣士】のジョブの解錠を施した。
ジャンヌ・フェイバーズ(32歳)
【怠惰の蛇】頭目
スキル【双剣術・下】
ジョブ【剣士】
「なっ!?」
力が宿ったのを感じたのだろう。目を見開いた。そして両手をにぎにぎしている。まだ自分に流れている力の実感に頭が着いていっていないんだろうね。この人、才能の塊だったんだ。きっと疎外されてきた王族や貴族の末裔なんじゃないかな? この流れで僕は横に立つ3人にも解錠を施す。
・【暗殺者】【投擲】
・【弓士】【節約】
・【治癒士】【詠唱短縮】
なかなかの逸材じゃないか? 火力過多なパーティーに早変わりだよ。3人も彼女と同じように変化に戸惑いながらも力の実感を感じているようだ。
「ジャンヌさん、あなた達【怠惰の蛇】も闇組織なんでしょ? 僕はマグニアス伯爵の裁判の行方が気になっていてね。あの人が有利になるように動いている【獅子の咆哮】にも同じことをしたんだよ」
「マサテュール公爵か……?」
まだ自分に起きていることに半信半疑な彼女だが流石、裏の人間はなんでこうも話を進めやすいんだろうね? ボソリと零した彼女の呟きは、自身が行うべき事を計算している者のそれだった。
マサテュール公爵領を調べる。この地にはマグニアス伯爵を始め、善政を敷く貴族も居れば、悪政を強いる者もいる。これはどの世界も共通の理かもしれない。だからといって、自分が関わった善者を悪意に晒したままでいる事はできなかったんだ。
僕は弱い人間だ。色々と間違うし失敗も多い。でも僕には事態を動かすだけの能力があるのも事実だ。だからマグニアス伯爵を放っておこうとは思えない。この【鍵】の力の及ぶ範囲で頑張ってみよう。それはきっとシェイナの助けにもなるはずだから。
胸にチクリと痛むものを感じながら、【怠惰の蛇】との打ち合わせを進めた。
「これなんだけどね……」
ジャンヌが執務机の引き出しから取り出した封蝋付きの封筒を出してくる。魔法が施されていて、受取人本人しか開けられない仕様になっているんだって。
公爵家への手紙
差出人:○※✕■▽
受取人:マサテュール公爵
【魔法封筒】受取人またはその許可のある者しか開けることは許されない。許可なく開けると燃える。
こんな魔法があるのか……。正直凄いと思った。検閲無視の連絡方法が取れるのは大きい。安心して手紙を出せるんだから。
差出人は受取人が手にしたら見えるようになるらしい。
こんなもの何処で取ってきたんだよ……。
ゴクリと唾を飲む。
僕は手紙を手にするとすぐにジャンヌへ返した。
『魔法封筒を施錠しますか はい/いいえ』
はいを選択。
ジャンヌは意図がわかったのか戸惑いなく、あっさり手紙を開けた。潔いな!? 手に汗握る場面だよね!? ため息しか出ないよ、全く。
「燃えたらどうしようって思った?」
正直にコクリと頷く。彼女はようやく、僕との邂逅で初めて笑った。青臭い焦りを見て、余裕が出たのかもしれない。少なくとも僕より修羅場をたくさん超えてきたんだろう事は伺えたんだ。悔しくないもんね……ちくそぅ。
中を検めるとジャンヌは一時停止した。ピクリとも動かなかった。動揺から立ち直ると今度は僕に見せようとする。僕は首を振った。
「ここから先はあなた達の仕事でしょ?」
「わかってるけど、鍵屋のあなたにしか出来ない事がある。助けてくれないかしら」
ウィンクしながら彼女は手元に戻ってきた20枚の金貨をまた僕の方へと寄こす。何このお姉さんの潔さ!? いろんな意味で全く断れる気がしない。
僕は2回目のため息をついた。
同意と受け取ったのか、ジャンヌは3人のスキル持ちになった者達へ向き直る。
「仕掛けるよ? 5日後ね。それまで力を試してきなさい。丁度いい依頼がギルドにあったはずよ、いい?」
「「はい!」」
力強い返事が返ってくる。冒険者ギルドの討伐依頼のアレだなと頭の中で思った。サリアラーラが悩んでいた依頼の中に、大量発生中のゴブリンの殲滅があったはず。彼女も参加を表明し、腕試し、試運転をするようだ。確かに慣らしておかないと、いい仕事はできないからね。
「アレクセイと言ったかしら?」
「ええ」
「5日後城へ入るから、同道をお願いするわ。公爵がいない今しかチャンスは無いしね」
何この雁字搦めな感じ。でも不思議と嫌とは思わなかった。そこに開けられないものがあるのなら、行くしか? ないよね〜。いい加減このワクワク、治まらないものかな。




