1刻
「まいど、鍵屋です」
軽い口調で挨拶をしただけなのに、ビクつかれてしまった。頑丈な紋章付き扉をそっと開けただけなんだけどなぁ。
「返事がないからお留守と思っちゃったよ。よかったよかった」
何の問題もないというテイストで動けない人達をよそに、僕は高級ソファーに勝手に座る。後ろに立つのはおなじみの赤髪のシャン……じゃなくってゲルトレイル。彼からいつものように静かな吐息が漏れる。
【暗殺者】シーダーを施錠から解放して、こちらに招く。
「鍵、新調したとこなのに……」
「こんな簡易な鍵で身を守れると思ってるの? そっちの方がビックリなんだけど?」
ガックリと肩を落とす、闇組織のドン。かなりのお金を積んだらしい。ご愁傷様だ。
「そういえば、あの短気な人、今日はいないの?」
本題を出さないから若干イライラしているシーダーをよそに、僕は自分のペースを守る。
「あれはアレで役に立つところもあるんだ……」
流石に【統率・極】の言う台詞は重いね。多分采配とかも得意なんだろうな。適材適所に人員配置したり、指示出すのも得意なんだろう。
「マサテュール公爵領に行くんだけどね」
それだけでシーダーは察したようだ。実に話の分かる人は恐ろしい。僕は金貨を5枚机に置いた。部屋にいた全員がギョッと驚く。ゲルトレイルも例外では無かったようだ。あんまり見たことないんだろうな。
「少ない?」
シーダーは首を振った。足りるらしい。領地についてのほとんどの情報を貰う。気前がいいね。どっちが? うーん、僕か。
「ココを出る前に聞いておきたいんだけど……」
スラムの人がスキル、ジョブを持っていないのは何故か。シーダー以外の3人が僅かに身動ぎした。タブーなのだろう。だけど彼らに施錠しているからこちらに向かってくることはない。
「おい、アレク」
ゲルトレイルが止めに入って来ようとするけれど黙殺した。
「……彼らは元王族の末裔だ。そしてその側近、元貴族。70年前のな。あんまり古くはないが、知ってる王都民は少ない。隠蔽されたからな」
部屋にいる3人の動けない者達は苦虫を噛み潰したような顔をしている。彼らもその人達の1部なんだろうね。
なるほど、闇に葬られた人達の住処って訳だ。70年の間苦渋を舐めてきた人達の怒りは深い。
「クーデター起こす人はいないの?」
直球勝負。
「スキルがな……」
「あったらやる?」
「……そう考える者もいるだろうな。ココにゃいないが」
シーダーは自分のスペースを指して手を広げた。なるほど。闇組織はあくまでも闇組織って事か。
「【隠蔽】、【索敵】、【聞耳】、【神速】」
僕は右手で指折り数えて続けた。シーダーは怪訝な顔をしているけれど、話の腰を折る事はしなかった。
「【盗賊】、【暗殺者】、【執事】」
今度は左手で数える。
「スキル1つ金貨1枚。ジョブ1つ金貨1枚。格安だよ? この3人に付けたいものがあれば受け付けるけれど」
何を言われているのか、理解出来るだろうか。シーダーはハッとした。やはりドンは一味違うようだね。3人にも行動解錠をしてやる。
シーダーはソファーに仕込んでいた革袋を取り出した。へぇ、そんなとこに。彼は僕のそばにある金貨に手を出さずに、自分の懐から出資した。やるな、お主。
「全員【暗殺者】」
すっと金貨3枚が寄越された。
「それぞれに【隠蔽】、【索敵】、【聞耳】を頼む」
また金貨3枚が横に並ぶ。
僕は3人の灰色になっているスキルとジョブを強制的に解錠した。脳内でずっと。
『○○のスキルを解錠しますか はい/いいえ』
『○○のジョブを解錠しますか はい/いいえ』
と流れてくるから。
何に導かれているのかわからないけれど、悪人には選択を迫らないメッセージが、この人達には来るから。コレが答えなのだろう。
外のテントに住む者達の中にも選択が出た者がいる。無視したけれど、本当は必要なことなのかもしれない。
「シーダー、あの短気な人は無理だよ? この3人は素質があっただけ。それに慈善事業じゃないからね。次は1つに付き10は貰うからね? 資質のある人で僕の能力の及ぶ範囲でだけれど」
「……なぜ、ここまでしてくれるんだ?」
3人の喜びようと自分に流れている醸し出すオーラが全員から発せられている事に気づき、ドンは本当に彼らに能力が宿った事を知った。
「マグニアス伯爵は顧客だからね。アフターサービスだよ」
そう言うとシーダーは初めて豪快に笑った。
「とんだアフターサービスがあったもんだな!」
「助けられる?」
ドンはしっかり頷いた。
「こんな力を貰ったんだ。失敗は出来ないだろうよ……なぁ?」
「「「おう!」」」
「じゃあ、まいどご贔屓に」
頼もしい返事を聞いた僕はすぐにココを後にした。
しかる後、マグニアス伯爵は無事、無罪を勝ち取ることになった。なんたって無罪だからね。
捻じ曲げる要素を全て排除していった闇組織の暗躍は誰にも知られることはなかった。




