2の時
「シェイナ、普段屋敷にいる人達は今全員いる? 通いの人とかはいない?」
転移門からフラクシス公爵家のシェイナの傍に来た。間髪入れずに必要なことを聞く。シェイナは驚きはしたものの、すぐに回答をくれる。
「通いはいないわ。全員我が家に今いるわよ?」
頷きを返して、この邸宅を範囲指定。部外者が入れないように施錠した。もう厳戒態勢より強くないかな? 簡単な説明だけしておく。
「一応、スキルの鍵を掛けたから、余所者は僕以外は入れないからね」
目をシェイナに合わせると、彼女はハッとした顔をした。【鍵】の使い方の有用性に驚いているのだろう。
「アレク……あなた」
何故スキルを開示したのか、シェイナにはわからないのだろう。ずっとはぐらかしてきたからね。でも守ると決めたのなら、必要な擦り合わせはある。何が出来るのか知っておいて貰わなければ、不幸な行き違いも生じるハズ。
「僕に出来ることは少ないからね。シェイナ、気をつけて」
「アレク、なんて言ったらいいのか……驚いてばかりよ。ありがとう」
「フフ。どういたしまして」
「こんな時間に来るんだから……勘違いしたらどうするの? 悪い子」
僕は何も言い返せなくて多分口をパクパクしていたと思う。金魚のように。確かにやべぇなー。追求されないように開口一番で色々仕事を進めたのに。結局このザマだよ。
シェイナはからかい上手な上に甘い声だから、ほんと勘弁して欲しい。勘違いするのこっちだからね?
例えばシェイナが公爵令嬢ではなくて、貴族でもないのなら、僕は彼女に想いを寄せただろうか? 伝えただろうか? うーん、撃沈される未来しか見えないな。僕は彼女に安心感をいつも覚えてたんだ。
多分、姉の代わりを求めていたのかもしれない。そして、シェイナも僕を弟に重ねている。この家にいるイケメンに失礼だと思うけど、ギルドにいた頃に、お互いをそんな目で見ていたんだと思うんだ。
だから、恋愛感情よりも姉弟関係のような繋がりをお互いに自然に求めていた。それはとても切なく淡い期待。間違いは起こしてはいけない。
「シェイナ、僕は貴方が好きだ」
あれ? 思いっきり間違いを起こした? 何言ってるんだ自分!? 二の句は告げることはできいない。僕の目から変な液体が零れているから。必死で抑えようとしているのが馬鹿らしいくらい、流れ落ちるんだもん、どしよ?
シェイナの顔は水越しに、歪んで悲痛に見えた。近づいて彼女は僕の顔に布をそっと当ててくれる。きっと彼女もわかってくれたと思うから、そんな顔をしているのだろう。
思えば、身分違いの恋をずっと患っていた。この人がずっと気になっていたんだ。成就することはないって、無理な事もわかっている。だけど、言わずにはおれなかったんだ。口からスルッと出た言葉は偽ることの無い気持ち。
「ありがとう、アレク。私も貴方が好きよ」
シェイナは僕の背中に手を回してひっついた。
それも束の間。
「じゃあね、シェイナ。元気で」
もう会うこともないだろう。
僕は転移門から消える。
シェイナは僕に当てた布で自分の顔を押さえていた。




