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9幕

 王都にある貴族街区のフラクシス公爵家邸宅の前にたどり着く。


 今は王都の最後の鐘が鳴ってから体感で1時間くらいかな? 日本時間にして夜10時くらいだろう。


 貴族街を歩くのも慣れてきたもので、大体の配置が掴めてきた。8大公爵家が城廻に集中していて各傘下の伯爵、子爵、男爵という具合に八方に広がりを見せる。


 8大公爵家の邸宅の位置も、領地の方向が同じように配置されている様だ。わかりやすい。


 真南にあるフラクシス公爵家、その門番に挨拶をすると、すぐに通してくれた。玄関口を潜ると、正面には左右に別れて登っていく階段がある。エントランスで待つことなく、すぐに執事が左の通路へ誘導しながら客間へと導いてくれた。


 ドアの前で執事がノックするとすぐに返事が来る。


「鍵屋のヴァレント殿がお見えです」


 入れ、という短く、幾らか野太い声が聞こえた。執事が先に入り、僕を促すように招き入れる。洗練された動きに緊張が高まってきた。


 僕は何人いるかも確認する暇もなく咄嗟に跪いた。ちらっとだけ見えたけど。まぁ、施錠対象確認で何人いるか目を閉じていてもわかるんだけどね。ちなみにソファに座っているのは、真ん中が髭、右がイケメン、左がシェイナだ。立っているのは、各後ろにいる従者の方々。特徴までは見えなかった。7人だ。


「夜分遅く大変失礼致します、アレクセイ・ヴァレントにございます」


「うむ、堅苦しい挨拶はよい、シュナから聞いている。顔を上げて楽にするといい」


 シュナだってさ、公爵家ではそう呼ばれているのだろう。シュナイデリンって長いもんなぁ。僕はゆっくりと顔を上げる。正直、貴族の礼儀など知らないから、適当だ。


 遅くに来たのに、3人は仕事してたのかな?


「ヴァレント君、できたのか?」


 できなきゃ来ねぇし、なんて言えるはずもなく、僕は用意した小箱を取り出して"こちらに"と言いながら、執事に手渡した。執事はすぐに中を検め、真ん中の髭、フラクシス公爵に恭しく渡してくれた。献上の時はこういうポーズ取るのね、おっけー覚えた。


 公爵は中身をそっと取り出すと、ほぅと息を零した。


 左右の2人も顔を近付けて食い入る様に見ている。


「登録はどなたがなさいますか?」


 僕はミスリルの南京錠と鍵について、話さなくてはいけない。


 3つの鍵を用意しているけれど、この3本、魔力登録機能付きで、それぞれに3人分登録可能なのだ。最大9人がこの鍵で解錠可能になる。


 だけど、南京錠の方にはそれがない。こちらも登録機能を付けたかったのだけど、9人も登録する技術がなく、諦めたんだ。こちらも3人登録にすると結局後の6人が無駄になってしまうから。


 僕は予めシェイナに説明しておいたから、つらつらと同じことを説明する必要がなかった。受付嬢のスキルや元々の効率重視の姿勢がここでもしっかり出ている。流石だ。


「全てこの3人で頼む」


 右手に魔力を薄ら張ってもらい、鍵と魔力を範囲指定して南京錠に結びつけるイメージで登録は完了する。3人は確認のために開けたり閉めたり回している。


「では確認のために執事さんや従者の方々にも試して頂いてはいかがでしょう?」


 髭が片眉を上げ、顎をクイッとすると、従者3人もソファを回り込み、それぞれの主人の鍵を手にした。南京錠が回される。


 すっと鍵は差し込まれたけれど、回らなかった。


「うむ、確かなようだな」


 最後に手に渡った執事の手には、しっかりと拭き布があてられて指紋などが拭き取られている。なんだこの執事、すげぇな。でも僕は貴方をセバスチャンなんて呼ばないんだからね。


 一瞬だけ僕はシェイナにドヤ顔をお見せした。ほんの一瞬だよ? 彼女も声には出さなかったが、口端を上げた。


 僕はさっきから脳内をうるさく行き巡っている言葉に対して、ようやく頷くことができる機会を捉える。でもまずは確認だ。


「公爵様」


 フラクシス公爵はさっきみたいに片眉を上げて僕の呼びかけに、続きを促す。


「上にいる間者、泳がせているんです?」


 この時点で僕は忍び込んでいた者を行動施錠(ロック)していた。


 従者達がザワっとする。イケメンが従者に頷くと、一瞬で消えるように動いた。


「よもや我らの厳戒態勢を掻い潜る者がいようとはな……」


 僕は部屋に入る時、跪きながら施錠対象を確認したんだ。目の前の6人のさらに頭上にも対象者がいた。


 ノット

 間者

 スキル:【隠蔽・上】

 ジョブ:【暗殺者】

 行動施錠中


 なかなかの人材だね。シーダーじゃ負けるんじゃないか? 「獅子の咆哮」のリーダーは同じ【暗殺者】でもスキルが【統率】だったからな、スキルで差が出る。1対1なんてしないだろうけどねぇ、シーダー。


「ヴァレント君……いや、何も言うまい。大儀であった。帰って良いぞ」


 僕は恭しく礼をとって、この場を辞する。でしゃばっても仕方ないし、貴族には貴族の戦い方があるのだろう。


 だけど、僕はシェイナのところへ、何時でも駆け付ける用意はできていた。こんな屋敷に忍び込める手練がいるんだ、安心できるハズがない。


 見送りにはシェイナだけが来ている。そっと耳打ちした。


「シェイナ、部屋で待ってて。1刻したら一人でいて」


 返事を聞く暇はない。すぐにエントランスに着いたから。後は執事が対応するみたいだ。


 邸宅を背に僕は闇の中に消える。



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