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8幕

 結局妹まで合流して、彫金師の工房に着いたところだ。


「アレク……なんだそのお嬢さん達は」


「えっと、押しかけ女房?」


 リリアリーリは爆笑しているし、サリアラーラは顔を赤らめている。本気にしてないよね? なんか怖い。


 盛大なため息を吐いたフェルノード(彫金師)は邪魔だけはするなよ、と買ってきた飯を僕と食べ始める。魔女姉妹はキッチンを借りて調理するらしい。


「で? どっち?」


「何が?」


「嫁」


 ぶほっと咳き込む。僕は面倒くさかったけど掻い摘んで事情を説明した。


「そりゃあお前、どう転んだって惚れるだろうよ」


 あー、やっぱりか。他人の口から聞くとそれが確定されてしまいそうで怖かったんだ。でも聞いてしまった。「状態」鑑定()る勇気もないし。


 大人に相談するって大事なことなんだなァ。


「アレクはどう思ってるんだ?」


 うーん。わからん。正直なところ、それどころじゃないから放っておいて欲しい。そう言うとまたため息を吐かれる。でもよく考えろと付け足された。


「アレク、お前はきっと3年前の事、いい事したと思っているだろう?」


 ん? 言ってる意味がわからない、とりあえず頷く。間違ったのか?


「いや、行い自体は立派なもんだよ。誰にでもできることじゃねぇ。俺だってガキのお前に尊敬の念さえ覚える。でもな、なんでもチャラにしちまうのは良くない。言っとくが、それは優しさじゃねぇ、お前のエゴだ。納得いかねぇってか? 逆の立場で考えろ。命助けてもらって、なんの恩義も感じねぇか? 返してぇって思わねぇか? その機会をお前は嬢ちゃん達から取り上げてるんだぞ。惨いと思わんか?」


 言葉も出ない。


 その通りだ。僕は姉やシェイナに感謝しているし、受けた恩は返そうと思っている。サリアラーラは言ってたじゃないか、"3年待っていた"って。僕が拒んだから成人まで待たせていた事になる。僕が"子供に負わすな"って言ったせいで。


 自分が判断した結果がこんな形で返ってくるとはね。いい事と自分で思っていることが、必ずいい事になる訳では無いのか……こんなにも人を縛っているとは思わなかった。


「でもよ、アレク。お前はほんといい奴だよ。望んだ結果じゃなくてもさ、悪い結果でもねぇだろう? 信頼とか友情とか……大事なもんを失ってねぇ。むしろ良くなってるからお前のところに人が集まるんじゃないのか?」


 フェルノードは僕の肩に手を置いて、続けた。


「まぁ、よく考えろ。まだ人生始まったばかりだろ、ひよっ子!」


 ピヨピヨ。


 フェルノードは自分の食事を平らげ、彫金の机に向かった。なんだこのカッコイイおっさんは。痩せっぽちのハリガネボディの癖に。僕もこんな大人になりたい。体格以外で。


 精神年齢は大人のハズなのに、完敗だ。


 僕はかじり始めてから徐々に少なくなっているホットドッグの最後の切れ端を口に放り込んで、彼女たちにどう向き合うかを考えていた。


 キャーキャー言いながら魔女姉妹が僕の座っている食卓にトレイを持って加わる。


「フェルノードさんはもう食べ終わったの?」


 うん、と頷いて返事をしておいた。答えなんてすぐには出せそうにもないなぁ。サラダを盛ったボウル皿と炒め物が目に入る。夕方嗅いだオリーブオイルのいい匂いがこちらにまで香ってきた。僕は興味無さげにボーっと頬に手をやり、視線をトレイから外す。


 だけど、炒め物の皿が僕の前にもスライドされてきた。目を上げるとリリアリーリが得意げに手を差し出して、皿をこちらに寄こした直後のポーズで固まっていた。


「フフン、お姉ちゃんの力作だよ?」


 あ、あんたのじゃないのね。僕はサリアラーラの方に目を移した。


「アレクセイも良かったら食べて。ちょっと作りすぎちゃって」


 語尾に"てへっ"て入りそうな、そんな顔をしている。やってないけど。これがまた自然にできるんだから"女は皆女優"って歌詞を思い出しちゃったよ。わざとじゃなさそうなのが逆に怖い。僕はありがたくいただくことにした。


「……美味しい」


 お茶の時も思ったけど、サリアラーラは料理系全般得意なんだろうか? ぼそっと言ったのに僕のつぶやきは拾われていたようだ。満足そうに笑みを浮かべていた。


「アラーラさん、これなんて言う料理?」


「だから、その残念な響きの呼び方やめてー!」


「アラーラさん……アハハ、アハハお姉ちゃん、残念そうアハハ」


「リリアまで……ぐすん」


 料理は彼女達の郷土料理で特に名前は無いらしい。香草と魚をオリーブ・オイルで炒めた物だったんだけど、これがまた頬が垂れそうになる美味しさだった。


「アリーリさんも作れるの?」


「アリーリさん……アハハお姉ちゃん、私も残念そうだアハハ」


 なんかのツボに入った様でリリアリーリはずっと笑いっぱなしだ。アレかな、箸が転げても面白いって時期のヤツ。からかいが通じない無敵の時期だ、コレ。


 リリアリーリに料理の腕は無いらしい。専らスイーツなんだと。それもすごいけどね。


 彼女達の食事が終わる頃には外は暗くなり始めていた。宿まで送っていこう。


 1人、工房までの帰り道、僕は彼女達との距離感を考えながらトボトボと歩く。


 どうしたらいい? 思考は悪戯に空転していった。

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