6幕
「アレクか、直接こっちに来るの珍しいな」
ここは彫金師の工房「フェルノード」。南京錠を外注している工房なんだ。実はガインズ鍛治工房から紹介されたんだよね。鍛冶師のガインズは確かに作ってくれたんだけど、細かい仕事は彫金師の方が向いているんだって。
とりわけ仲の良い彫金師の工房で、スキル訓練所学校の同期だったらしい。姉が通った学院は戦闘職の学院で、訓練所は専門学校みたいなもんだから、別の学院のようだね。
フェルノードは強面のガインズと違って優男の印象だ。か細く、性格も繊細そう。腕も確かだ。僕の要求する南京錠を寸分の狂い無く仕上げてくれる。
「急ぎなんだ。ガインズさん通していると間に合わなくて。勿論、ガインズさんに仲介料は払うから、頼まれてくれない?」
筋を通さないと、こういった要望に応えてくれなくてもっと遅くなることもあるし、職人は嫌がる人も多い。利益を取れるだけ取ろうとする商人とはここが違う。だから最初からちゃんとわきまえた話を持っていくと快く応じてくれるんだ。フェルノードもそういった職人の1人なんだよ。
「フフ、アレクからは随分仕事を貰ってるんだ。構わんよ。それにな、アイツ、お前の仕事で儲けすぎじゃないか?」
何言ってんの、あの人、顔怖くて客いないんだよ? そう返すと爆笑される。本当にお互いを高め合っている職人の友というのは遠慮がないらしい。少しフォローするだけで何故か僕の評価まで上がってしまうんだから、人ってわからないもんだよね。
「コレなんだけど……なんとかこの値段で頼まれてくれない?」
箱の中身はミスリル延べ棒と金貨数枚。フェルノードの反応は僕の最初にとった反応と同じような固まりようだった。だけど、シェイナの甘い声が無い分ダメージは半分のハズだ。金貨もだいぶ差っ引いてるし。
「ォィォィォィォィ……どこからツッコみゃいいんだ……」
特急料金込みでお願いする。
「分かった。アレク……お貴族様の依頼ならガインズには黙っとけよ。巻き込みたくないだろ」
ゴメンな、フェルノード。巻き込んで。
「そんな顔するな。仕事だろう? キッチリ仕上げてやるよ。こんなもんお釣りがでらぁ」
お釣り返すつもり無いくせによく言うよね。肩を窄めるとまた爆笑された。
「じゃあ、今日は店じまいだ。帰れよ。何処にもってきゃいい?」
すぐにとりかかってくれるらしい。ほんとこの人は、ガインズと並ぶいい職人だよ、脱帽。
「ほんとに急ぎなんだ。泊まってもいいからここで待たせて。食事は自分で用意するから。なんだったらフェルノードの分も買ってくる」
そうかよ、じゃ頼まァ。片手を上げてそう言うと彼は工房の机にミスリルを運んで行った。もう目は真剣そのものだ。
さてと、飯を買いに行くか。作れませんからね、私。日本の時は昼は弁当屋さん、夜はコンビニだったから。あとたまにファミレスのサラダ食べ放題とかで栄養を補給してるつもりでいた、あっはっは。
彫金師の工房郡は商業ギルドからそう遠くはない。鍛冶と違ってハンマー音がそんなにしないからかな?
外はもう夕暮れだ。レンガ造りの家屋がオレンジ色の光を受けて輝いている。2階から吊るされ、渡されたロープから洗濯物を取り入れるおばさん達が少し忙しそうだ。外で遊ぶ子供を呼ぶ声がちらほらと聞こえる。漂ってくる魚を焼いた匂いやオリーブのいい香りが心地よい。
こんなにも穏やかな時間が流れているのに、所変わればスラムのように荒んだ場所もある。貴族達も今、時代の流れに身を置く場所を必死で探している。
スキルで全てを台無しにするこの世界で、人々は何を希望に生きているんだろう?
そんな事を考えながら、僕は市場にたどり着いた。食材では無く、屋台目当てだ。まだ夕食をするには早すぎる時間だし、物も直ぐにできる訳では無いし、ちょっとゆっくり見て回ろう。
そう思ったのがいけなかったんだ……。
次回は久しぶりのあの人が登場です。




