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5幕

「お久しぶりです。シュナイデリン様」


「フフ。シェイナでいいわよ」


 相変わらずの甘い声に当てられて、頬が緩みそうになる。危ない。ギルドの受付嬢だった頃の丁寧さは全く無く、貴族の気品が差し替えられたような感じかな。違和感が無いのが驚きだよ。


「そう言う訳にはまいりませんよ」


 そう言いながら僕は彼女の後ろに控える従者2人をチラ見する。アレだ、ギルド内にちょいちょいいたお付の人達。シェイナに絡んだ者をボコる人達に報告する伝令役の2人。彼らにも"お久しぶりですね"と挨拶しておいた。


 彼らは僕が認識していたことを驚いていた。シェイナは振り向いて「ほらね」と思わせぶりに言ってから彼らを退出させる。どうやら彼らを納得させる何かが、このやり取りに含まれていたようだ。


 試されていたみたいで複雑な気持ちになるけれど、シェイナは僕を信じてくれている側の様だから、それでいい事にしよう。さっきゲルトレイルに注意されたとこだし、直ぐに結論出して失敗しそうになるんだから。慎重にいかないとね。


 人払いしてくれたから僕は店舗に施錠(ロック)を掛ける。防音も込めてね。だってシェイナにタメ口きいているところを聞かれたらボコられる未来しか見えないもん。ボコり返すけどさ。そうするとまたややこしい事になりそうだし、指名手配犯とかはゴメンだ。安全確保必須でさぁ、旦那。


 従者が店舗を出る時に置いていった箱をシェイナは僕に開けさせる。中には希少金属が入っていた。


「ミスリル……」


「さすがアレクね。分かっちゃうんだ」


 悪戯っぽくシェイナが笑う。ミスリルを見たのは初めてだ。当然鑑定()たからわかっただけで、僕は驚愕に声を出せない。だって本物だよ!? ファンタジー金属キタよ。15年目にして初めてのご対面だよ! 嬉しすぎて涙が出ちゃう。


 感動に打ち震えている僕をシェイナは嬉しそうに待っていてくれた。矯めつ眇めつ眺めてはいろんな角度から検分している僕を、彼女が微笑ましいものを見る様な顔でいたのをぼくはハッキリ捉えてしまった。


「う、ゴメンねシェイナ。あまりに珍しいものだからつい……」


 恥ずかしさで顔の温度がうなぎ登りだ。


「いいのよ、面白いものを見れたから。やっぱりアレクは男の子なのねぇ」


 からかいに来たのかと思うほど、シェイナは楽しそうでなにより。だけど、ミスリルで僕に何をさせるのかはお察し。南京錠と鍵だ。これしか取り扱ってないからね、今のとこ。


 だけどねぇ、ミスリルの南京錠ってなんです? 超高級鍵。一体どんな値段付けたらいいかサッパリだ。素材持ち込みだから、高くはできないけれども。あ、アレだよ? ラノベとかでよくある鍛冶師のおっちゃんが、貴重な素材持ってきてくれたから"勉強代だ"って言ってタダで作るとか絶対にしない。そんなの主人公が得するだけで、負担を強いている事に違いない。鍛冶師も気付けよ! とドライに思ったものだ。主人公補正って奴かな? 知らんけど。仕事モードでお話だ。


「一旦預かりますね。値段は見積もりが出たらお屋敷に連絡します」


「それでいい、と言いたいところだけれどねアレク。ちょっと急いで欲しいのよ。コレでお願いできる? 特急料金込みでね」


 ウィンクしたシェイナと差し出された革袋の中の金貨たちを見て気絶しそうになった。金額の多さと片目パチリに息が詰まる。心臓がエラいことになるからやめて欲しい、切実に。


「……シェイナ、困り事の匂いがするけど」


 僕はようやく立ち直った後、仕事モードをあっさり脱いでから至って真面目にまともに彼女の顔を見た。そう言うと彼女は困った顔を向ける。


「アレク……大丈夫よ。とにかく鍵が必要なだけ」


 これは彼女なりのSOSだろう。悪いと思ったけど鑑定()てしまったから。


 状態:不安・極


 僕は不敬罪覚悟の上で、彼女を両手で包み、不安・極を解錠(アンロック)した。


「シェイナ、困ってるんならちゃんと言って。言葉にしないとダメだよ。巻き込むとか危険だとかは気にしなくていいから。どうしたら力になれる? 鍵以外でして欲しいことは何?」


 背中をポンポンと叩くとシェイナはしゃがみこんで静かに泣いた。貴族が人前で泣くことは無いらしいが、不安・極が解除されたんだから仕方ないよね。店舗を施錠しておいて良かった。


 僕の預かり知らないところで、事態は大きく動き出している。



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