ep03
9歳になった。
姉は12歳。ついにスキル継承の年齢だ。お転婆だった姿はなりを潜めて女性らしい言動も増えてきた。ミーナは美少女だ。村のリーダー的な存在でもあったが、途中でリーダーをジャンに譲り裁縫師を目指して頑張り始めている。食い扶持を稼ぐためにできる事をやっておきたいという事らしい。
でも、授かるスキルで人生はひっくり返る。例えばミーナの得るスキルが戦闘系統のものならば王都や町に引っ張られ、騎士団や兵士にされるだろう。それを嫌って冒険者になる者もいる。
人々は驚く程落ち着いている。スキル継承が当たり前の世界で生きてきたからだろう。僕には考えられないことだ。はっきり言って気持ち悪い。目指したい目標に向かって生きていくことができない。なりたい職業にも就けない。厳密にはそうではないけれど、適正スキルじゃなければ、職業で活かせない。死にスキルになってしまう。
例えば、【裁縫】を持っていて職業が戦士、兵士、騎士じゃ、なんにも役に立たない。逆も然り。
ただ、本人の努力によってある程度授かるスキルを予測できることもあるらしい。産まれてから集中的に訓練を積んでいたり、親の仕事を手伝って、親の職業に必要なスキルを手に入れる者も確かにいる。
それもひと握りの人間に限られるけれど。そんな環境に身を置ける者は貴族や豪商くらいだろう。
だから、産まれた時から持っている僕のスキルは本当に異常だ。12歳からスキル継承を経て、スキルを磨き始めるのだから、アドバンテージが酷い事になっている。
記憶を解錠してから4年間、この【鍵】スキルを鍛えるのは楽しいものだった。ドアというドアをこっそり開けまくっていったんだ。村長宅の倉庫を開けて本を読んだり、鍛冶師の現場を覗いたり。極秘の製法があるらしく、絶対に見てはいけないなんて言われていたから、ついね。
そうやって鍵の付く所は全て開けた。スキルを「使」えば開けられるし、閉じられる。あ、これ密室殺人成立するやつだ。やばい。使い方間違えないようにしないと。
村の最後の鍵を開け閉めした時に異変が起きた。
【鍵】のレベルが上がったらしい。
まさかあんな事になるとは夢にも思わなかった。