4幕
「アレク、今のやり取りヤバくないのか?」
赤髪の男が僕に問いかける。先のやり取り、つまり闇組織との会話のことを言っているんだけど。これがまあ、殺されてもおかしくないものだったんだよね、普通なら。
「ゲルトは知らない? ジョージ・フォン・マグニアス伯爵の事」
「存在をって意味か? それなら勿論知っている。だけど、伯爵の陥っている状況は皆目見当もつかないな」
だよねぇ。そんな情報僕に入るほうがおかしいんだけど、入ったよね、今しがた。
伯爵は国の各地にある土地持ちの大貴族を指すことが多い。土地を持たない名誉伯爵なんてのもあるみたいだけど、この国にはほとんど居ないそうだから、だいたいそう言う認識でいい。セカンドに・フォン・が付くのが伯爵だ。
そして、各領地内のうち、子飼いの貴族が子爵、更に下が男爵という序列があるようだ。
因みにギルド長やシェイナたち公爵家は、ほぼ属国に近い広い土地を治める貴族なんだと。この国には王都の八方にそういった領地がある。つまり8人の公爵がいるという事だ。こちらはセカンドに・レ・が付く。
あんまり詳しくないんだけど、僕が知る貴族はこの程度だね。
「【獅子の】……なんちゃらのリーダーな、マグニアス卿と懇意にしてるんだよ、きっと。融通を利かせ合ってるんじゃないかな。だからどちらが転けても都合が悪いんだろうね。僕は金庫を開けたでしょ? 彼らの利になる事をしたんだよ。コレでなんか仕掛けてきたらちょっと驚くよ?」
「【獅子の咆哮】な……確かにな。でもよ、気を付けろよアレク。あんなやり方したら命を狙われるぞ」
そうそれ、咆哮。猛獣の吠え声って物理で一瞬、身を竦ませる効果があるんだってね。家畜の場合はパニックに陥って、囲いから出ちゃってパックリいかれることもあるらしいよ。
そんな【獅子の咆哮】、組織的には凄いらしい。王都の大体の事態を掌握しているんだって。情報網がしっかり張られているみたい。僕を鍵屋ではなく【鍵師】と言った事からも少しは伺い知れる。僕は他人に【鍵師】と名乗ったことは無い。
「そうだね。ちょっとカッとなるには早すぎたかも。よく失敗するんだよ」
確認せずに怒りが先に立ってしまうのはどうも悪い癖だ。心配して遠慮なく注意してくれるゲルトレイルは本当に貴重な存在だ。
「はい、コレ報酬」
先程稼いだ銀貨をそのままゲルトレイルの方へ放物線を描くように投げる。彼は何をカッコつけたんだか、人差し指と中指で挟み取った。このイケメン野郎め。
「おい、さっきの稼ぎ分じゃないか! 貰えないぞ」
「じゃあ返して」
手のひらを彼の方に向けるとサッと銀貨をしまい込むゲルトレイル。苦笑を禁じ得ないよ、全く。コレで何を食べるか考えてるんじゃないかな。いいけどさ。
「ちょくちょく護衛頼むと思うんだよ。今後の契約金込みって事でいい? 頼りにしてるよ」
おう! 元気よく返事をしたゲルトレイルは凄く嬉しそうだった。頼られたことがあんまり無いのかもしれない。斧術をもう少し鍛えてくれるといいんだけどね。
そういえば、不思議なことがあったんだ。スラムの地下に入った時ね。スキル持ちがシーダーしか居なかったんだよ。何故だろう?
国民の義務であるスキルを取得していない。できないのか、発現しないのか、迫害対象だから制限されている……? 全然わからない。知らない方がいいのかもしれないけれど、すごく気になる。
よくよくスラムの人達を鑑定たら、僕の脳内でだけれど、たくさんのスキルやジョブが灰色っぽく表示されていたから、スキルを持っていないわけじゃないみたい。スキル継承やジョブ継承もしていないから彼らの可能性を覗いてしまったんだろうか、うーん……謎だ。
ゲルトレイルは幾らか話を続けた後、ホクホク顔で帰っていった。
午前中を闇組織からの仕事で終えた僕は、午後から来るお客様をこの狭い店舗で待つことにする。とても楽しみだ。久しぶりにあの人に会えるから。




