3幕
「1つ確認しても?」
紋章付きの扉が開いてから、僕達は応接用のソファに導かれる。沈み込む体に身を委ねる訳にはいかない。でもここで眠りたい。座り心地抜群なんだよ~。
僕の真後ろには冒険者のゲルトレイルが立っている。護衛だ。目の前に座るこのハゲが今回の依頼主、闇組織のドン。
シーダー(35歳)
闇組織【獅子の咆哮】リーダー
スキル:【統率・極】
ジョブ:【暗殺者】
おうおう、ほんまもんやん!? うわー、こりゃ凄い。まともにやり合ったら、ゲルトが死ぬな。彼は地味な茶色い開襟シャツにシルクっぽいズボンを履いている。頭はさっき言ったハゲ、左頬に傷がある。
彼は僕の質問に片眉だけあげて続きを促した。
「盗品を開けさせて、僕は犯罪者の仲間入りに?」
そう言うと、彼の後ろに立つ男が殺気を発した。ドンは左手を水平にして彼を無言で諫めに入る。消さない殺気そのままに彼は1歩後ろに下がった。
この部屋には4人いる。外には3人。一応警戒は薄いがされていた。
「ならない、と今は言っておこう」
「今は、ですか……」
なんかムカついてきた。こっちは下調べをして必死に考えて来たのに。事情はあるのだろうが、それはイケナイ。この闇組織はかなり力のある組織だそうだ。そして、この組織の故に国が持ち堪えている部分もあるらしい。
殺気を放つ男に目を向ける。話の腰を折り、敵対的な三流。
部位:呼吸器20秒施錠
殺気が収まり、苦しみ出す。無意識からの呼吸ストップに不意をつかれて膝をついた。そしてドンにもこの男にも行動施錠。
「ダメですよ、情報隠蔽は。ちょっとイラッときました。犯罪者にならないならハッキリならないって言えばいいものを。何故勿体ぶるんです? それとも開けなければ犯罪者扱いだったとか?」
最高責任者だから舐められたらイカンとか、そんなちっぽけな矜恃で僕達を威嚇したつもりなのか、そんな事を丁寧に聞いてみたら、涙目で謝られた。【暗殺者】は正面攻撃に弱いのかな?
「一応聞いておきたいんだが、何故コレが盗品だと?」
シーダーは半ば諦め気味に尋ねてくる。
「コレね、ウチで卸した南京錠。シリアルナンバー付き。わかる? シリアルナンバーって?」
この南京錠は限定モデルだ。僕オリジナルの。これを買ってくれた貴族には犯罪歴は無かった。そして、魔力登録済の鍵。3人しか登録できないが、便利な機能なんだ。鍵があっても本人と登録した後の2人しか開けられないという2段構えのセキュリティ。さらにこの金庫の小箱にもオプションで魔力登録をお願いされたから南京錠が壊れても開けることは出来ない。
この世界の人には開けられない、真似出来ない僕のオリジナル仕様。わからない訳が無い。因みに誰が登録しているのかさえ、僕にはわかってしまうから。
掻い摘んでシリアルナンバーについて説明してやると、ドンは降参して、事情を話すことにしたらしい。
「内容は当然言えないが、ココにはお貴族様の不正の証拠が収められているらしいんだ。でも鍵を取り上げられた依頼主が、軟禁されて事態はますます深刻になっている。そのお方が人を寄越して、ウチにこれを預けてきた。"開けて活用してくれ"との事だった。だが、開けられなかった。それで、【鍵師】のあんたに依頼を出した」
なるほど、こちらの情報もしっかり掴んでいるわけだ。
「で? 僕が犯罪者になるパターンはなに?」
「あんたが"開けられない"と言う嘘ついた場合だ。あんたはこう尋ねたろ、"開けさせて"ってな。開いたらそれで良かったが、開けないという場合も予想された。まぁ、俺の答えが脅しを含む言い回しだったのは事実だが……」
事態はあっさりひっくり返されたと。僕は息を吐いてから最後の質問をする。
「分かった。じゃあ依頼者の名前をどうぞ、正確にね。開けるかどうかはそれ次第だよ」
逡巡した挙句、シーダーはこちらを睨みつけてから目を瞑った。
「依頼者は、ジョージ・フォン・マグニアス伯爵。これを持ってきたのは従者だったがな」
僕は金庫の鍵を開けて、中身が見えないように開け口をシーダーの方へ向けてから差し出した。
「はい、まいど。銀貨1枚です」
シーダーも後ろの男も唖然として固まっている。ちゃんと行動制限解いたのに。解せぬ。
ジョージ・フォン・マグニアス卿は、シェイナが紹介してくれた顧客だった。とても感じのいい方で、この国の将来を憂いている優秀な貴族なんだ。彼はスラム街のために炊き出しを行なったり、孤児院の援助もしていたはず。
投げられたコインを受け取り、ポケットにしまう。
僕達はスラム街を後にした。
時代の流れの渦に巻き込まれていく感覚に、僕は嫌なものを感じながら帰路についた。




