7の巻
「こちらが最後の物件ですね……本当に見ます? ここはあんまりお勧めできませんが……」
夕方の早い時間、僕は商業区の隅っこ、スラムへのギリギリの区画内にある、店舗スペースがほぼ宝くじ売り場とか金券ショップ位の狭い案件に案内されている。
ギルドのお姉さんが連れてきてくれたそこは、まさしく僕の理想そのものだった。いや、鍵屋さんだよ? スペースなんてほんとに要らないし。南京錠置くとこあれば事足りますのよ、奥さん。
だけど、奥はちゃんと部屋がある。生活スペースの方が広いんだ。それがいい。僕はきっと冒険者もやらないと直ぐに干からびちゃうよね。鍵屋に需要がそう多くあるとは思えないし。そんな時の拠点が欲しかったんだ。宿にずっと泊まるのももううんざりだし。
もうすぐ出ていくと言うと、宿屋の女将さんには涙ながらにお別れを告げられちゃったんだ。僕の分の収入が減るんだから泣くのも仕方ないけどさ、露骨過ぎない?
最後に案内されたここに決める。
今日から我が家だ! よろしく!
「今ならまだ間に合いますよ? 止めるなら今しかないですけれど……」
どうやらスラムからの色々な被害が多発しているらしく、この辺りは人気がないのだそうだ。商業ギルドも遠く、治安も悪い。物流も中央へ近ければ近いほど活発だから、隅っこのここは不便極まりないんだと。
「問題ありませんよ。僕にとってはここが良いんです」
ギルド加入で収めた金貨5枚から、この店舗の買取まで差し引きしてくれるから、契約まであっという間で終わる。手続きのすべてを請け負ってくれるサービスには舌を巻くね。商業ギルドのクオリティに何度も驚かされてばかりだ。
僕はここがいいとハッキリくっきり言っておく。
きっと僕の目がキラキラしていたんだと思うよ。お姉さんはため息をついてから了承してくれたから。傘下に入ったファミリーを大事にする事が商業ギルドのモットーなんだって。
「では、こちらが鍵です。これでアレクセイさんの建物になりましたので、ご自由にお使いください。ではアレクセイさんの商売繁盛をお祈りしていますね。困り事は遠慮なくご相談ください」
「ありがとうございました!」
お姉さんの姿が見えなくなるまで見送ったあと、僕は早速入口に鐘を取り付けた。小気味よくカランカランとなる爽やかな音にニヤける。
狭すぎて鐘が鳴る前にお客さんの来訪がわかってしまうけど、それもまた一興。
僕は自分の家となったこの場所にとりあえず範囲指定の施錠を掛けた。今日はもう休もう。1日かけて物件を回ったから流石に疲れたなぁ。
店舗スペースを随分眺めたあと、奥にある生活スペースへと入り、泥のように寝た。
さあ、今日から鍵師として開業するよ!
僕は用意した南京錠を並べ、それに対応する鍵ケースを机の下において、準備を整える。
看板を表に掲げた。
「キーセレクト・アレク」という文字と鍵のマークが、日の出の光に反射して輝いた。




