4話
泉に着いた僕達は翅人と遭遇する。玉虫色の翅を持つ小さな人々だ。その背丈約10センチ相当。彼女達は魔女の妹リリアリーリを知っていた。少し前まで一緒にいたらしい。だけど、今はいない。
真相を知るために彼女達の長に会わせて欲しいと願ったところだ。顔を寄せ合って会議していた翅人達はこちらを向くと。
「「王に相談ー。ここで待つー?」」
と言った。しっかしこの子達の声の揃い様に感心するなぁ。僅かに声の高さが違うだけで、全部ハモってるし。癒されるー。何人かの翅人達は急いだ様子で飛んで行った。
王がいるらしい。翅人達の王かぁ。どんな人だろうね? 期待を胸に僕は泉の傍に腰掛け、サリアラーラは複雑な表情で腕を組んだ。暇を持て余した僕は泉に手を入れてみた。冷たい。
難しい顔をしているサリアラーラに僕は水飛沫をお見舞した。親指で止めた4本の指を彼女に向けて解放したんだ。ギョっとする魔女、笑う僕。
「つ、冷たっ! 何するのよー! もう!」
なんか面白いな。追撃。えい、えい。
「ちょっと!? やめなさいよっ、冷たいってば! このっ」
顔を背けて手で防ごうとしているサリアラーラはハッとした。あ、反撃体制。冷たっ。にゃろう! あんまりやると泉の水が濁りそうだな。ここに残っている翅人達は心配するといけないから止めるかな? あ、羨ましそうだ、可愛い。よーっし、こいつらにも!
「「アハハー!! 面白い! 攻撃ぃー!」」
翅人達も水遊びが気に入ったようだ。チラとサリアラーラの様子を見る。呆れた顔をしているからちょっとは肩の力が抜けたかな?
暇を潰しているとようやく報告に行った翅人達が帰ってきた。
「「王が会うー!! 謁見えっけんー!!」」
このゆるい世界の王とはいかに。
と思っていたら、あちらから来たようだ。一回り大きい(15センチ位)の翅人だったからすぐ分かった。ここの翅人達は全員緑の髪をしている。それに対して王は若干薄い緑かな? 成長した分頭の栄養素が抜けたんだろうか? この人が王だろうな。なんか雰囲気もちょっと偉そうだし。
王様だけど、どうだろう軽くいってみるかな?
「やぁ! こんにちは!」
「「ぇぇぇ!! 軽ー! アハハー」」
ダメだったか。ワナワナ震えてる。お怒りかしら……。やっべー。ここまで来たらこれで通してみよう。
「あ、ダメだった? まだ子供だから礼儀作法知らなくて、ごめんね」
しれっと謝って様子を見る。
「お、お、お、お前らー、何だこの無礼な奴はー!!」
「「アハハー! 王が怒ったー!!」」
わあ、すげー可愛いな!! なんだこれ!? ここはパラダイスだな! 横をチラ見したら魔女が呆れを通り越して口を半開きに笑っている。なんかヨダレ出そうだな。大丈夫かな? ハンカチ渡してみようか……ぅわ、めっちゃ睨まれた。お巫山戯が過ぎたようだ。反省反省。
いっちょやりますか。どこぞの騎士を真似て跪いてみる。空気が少し変わった。
「王様。私は人間の王都ルクセンからやって来ました。名をアレクセイ・ヴァレントと申します。そして、隣がサリアラーラ・コネット。こちらにお邪魔したリリアリーリ・コネットの姉です。この度は謁見の機会を賜り、恐悦至極にございます。さしてはこのサリアラーラ・コネットのお話を聞いていただきたく参上致しました!」
淀みなく言えたよ! オラ頑張ったー! ドヤ顔で隣を見れば、魔女はフリーズして口をあんぐりと開けたまま放心している。おいおい、君の出番だよ!? さっきまで騒いでいた翅人達も王と共にびっくり仰天していた。
ん? どした?
「う、う、うむ。よき挨拶じゃっ。中々の口上。では余も名乗ろう!! 余は、この妖精の森の王ディンガーベルト・フェアルである!! 妖精王とはこのワシじゃー!」
ぇぇぇ!! なんだってー!? 妖精王はエルフじゃなかったの!? 衝撃だよ、なにその裏切り。ダメだよー、ガッカリだよ!! あー……そっか。意識がRPG過ぎたのかな。ピーターのパンピーの方は確かにそんな感じのキャラいたよね。ティンカー○ルの名前も若干被ってるし。そっちだったか……。
「して、サリアラーラとやらは何が聞きたいのじゃ?」
おおう、話が進んでる。ガッカリして意識が会話に着いて行ってなかった。だけど、もう僕の出番は無くていいよね? 随分頑張ったと思う。静観していよう。
結論として、リリアリーリはここにはいない。
妖精のダンジョンに行っているとの事だ。なんでも、彼女には妖精魔法の適性があり、マスターするためにダンジョンアタックに挑んでいるとか。同時に妖精王との契約により、捕えられているクィーンを解放する任務を負っている。本命はコッチらしい。
「なぜ妹が選ばれたんです!? あんな急にいなくなるからわたしっ」
サリアラーラは堰を切ったように涙を流す。
翅人、基、妖精族の皆があわあわし出す。魔女が泣いているところ大変恐縮ですが、あわあわしている妖精族可愛すぎる。僕はこんなに幼児後退してしまったのか……違うな。逆だ。日本の意識合わせると35歳くらいだから、普通に可愛いものを可愛いと思えるように、言えるようになったんだよきっと。そういうことにしとこう。
「だが、リリアリーリは余の条件を快く受け入れてくれたぞ。誘拐した覚えはないし、文句言われる筋合いはないのじゃ! 余とて人間の少女に頼らなくてはならぬ現状を憂いておるのじゃ、察せい」
膨大な魔力を持つ魔女の森の2人の少女は、この妖精族の森でも有名になっていた。妖精族の好奇心の成せる技だそうだが、人の世界の森に結界門を設けて行き来しているという。ひょんなことから見つけた魔女の2人。クィーンが魔族に襲われて囚われるという事態が発生したのもこの頃だ。
厄介なことに妖精族の魔力は魔族に効きにくく、対抗手段がない。でも人の魔力なら魔族に対抗可能なのだそうだ。そこで白羽の矢が立ったのがリリアリーリ。彼女は二つ返事で来てくれたという。
「あの子の高潔な判断に余は痛く感動しておるのじゃ!」
でもなんでサリアラーラじゃなくて妹の方だったんだろう? そう尋ねると王はフンと鼻を鳴らした。
「姉の方は精霊の匂いがプンプンしていたのじゃ! そんな邪悪なオーラはお断りなのじゃ! ん? 今は精霊のオーラが無いの? 清らかなのじゃ……今の状態なら声をかけていたかもしれんのじゃ」
「じゃ、邪悪……!?」
頭が混乱してきた。サリアラーラはここへ来た時、邪悪な気配がすると言っていた。妖精族の結界門の時も。そして、妖精王はサリアラーラを邪悪なオーラがあったと言う。どうなってるんだ?
「あ、もしかして精霊と妖精って仲悪いの?」
そう聞くと妖精達は可愛さ全開で精霊に対して罵詈雑言を吐いた。うわー。めっちゃ嫌いっぽい。お互いを邪悪と表現するあたり、ほんまもんの確執がありそうだ。と言っても精霊側の意見は聞いたことがないが、サリアラーラが"邪悪な気配"って言うあたり、精霊からの刷り込み具合は伺える。魔女は愕然としていた。
「ってことはリリアリーリは精霊魔法は使えないのか」
「うん……それで悩んでた事もあるわ」
なるほど。姉にある種のコンプレックスがあったのかもな。仲の良い姉妹でも、比べる対象が自分と姉しかいないのなら、それも仕方の無いことかもしれない。
こんなスキルで全てを決めてしまう世界なのだから。
大体の事情がわかってきた頃、それは突然やってきた。
妖精が1人傷だらけで飛んでくる。
「「王ー!! リリアが帰ってこないー!! 中でなにか起きてるー!」」
サリアラーラは焦りから立ち上がった。




