2話
クローゼットの前にいる。
『妖精族の結界門を開けますか』
はい/いいえ
「はい」に意識を向けた。僕には、クローゼットの奥が観音開きに開いたように見える。横を向くとサリアラーラが驚いた顔をしていた。だけど、門が見えた訳では無いらしい。魔力の動きでも感知したのだろう。
「行こっか」
手を差し出すと、魔女はおずおずと手を重ねて顔を赤らめる。熱でもあるのか? 違うんだろうなぁ。状態ロックしとこうかな〜。なんかやりにくいし。でも解除した時の反動とかあったら怖いから、とりあえず現状維持でいっとこう。
クローゼットに足から入るなんて、子供の隠れんぼ以来だ。すぐ見つかっちゃうんだよね~、クローゼットって。隠れるとこ代表みたいな感じ? 違うか。意外とベンチの下が見つかりにくいんだよ。わざわざ鬼役が屈まないからかな?
サリアラーラと手を繋いで扉をくぐる。
神秘的な場所に出ることもなく、だだっ広い草原に異様に建つ門から出てきたところだった。
「門になんか書いてあるね、読める?」
手を離して門の上空に掲げられた文字を指さすと、"あっ"と言う小さい声と残念そうな顔をしたサリアラーラはブンブンと首を振った。慌てて僕の指さす方向に目をやる。
「わからないわ」
「そう」
僕は門を鑑定る。
フェアリーゲート
妖精族の結界門と対を成す門。下界への入口
"下界はコッチ"
なんか緩いなぁ。
なるほど。ここは妖精族の世界ってわけね。エルフでもいるんだろうか……おおう!! ファンタジーだな。エルフ、いるならぜひ会いたい。なんかワクワクしてきた。
先程から僕の脳を行ったり来たりする言葉にようやく意識を向けようか。なんかさっきからチラチラチラチラよぎってきて鬱陶しいから。で、なんです?
『【鍵】のレベルが上がりました。範囲指定可能になります』
へ?
範囲指定? なにその【鍵】!?
キーレスエントリー!? いや、ちょっと違うか? 別に触れなくてもできてたし。えぇぇ、どゆこと??
なんでレベルが上がったのかもわからなけりゃ、この範囲指定も意味わからん。でも凄そうだな。あ~検証してみたい! でもそれどころじゃないんだよな〜。放置してたサリアラーラを見ると、彼女はムッとしていたが、待ってくれていた。
「どっちに行けばいいんだろうね?」
草原にポツンと建っている門だから、正直どこ行けばいいか見当もつかない。するとサリアラーラはまともな事を言った。
「この門が境界ならまっすぐ進めば中心に行けるんじゃないかしら?」
驚いた……。理にかなってる。
「ちょっ!! 今なんか失礼な事考えてなかった!? ねぇ!」
目を逸らしておこう。それらしく伝わるのも面白いかも。この辺でちょっと好感度を下げておく。乙女ゲームじゃあるまいし、好感度もクソもないんだけどね。
「大丈夫だよ、ねぇ知ってる? 冒険者登録したら最初に解体用のナイフ貰えるんだって、僕はもらってないんだけど、どうしてかな?」
「それ、申請いるんだよ。って露骨に話題変えられてる!? ねぇ、さっき私の事考えてたでしょ? 失礼な方向でっ」
「そうか~申請いるのか~、知らなかった。まだ間に合うかな?」
「答える気はないんだね……ハア」
随分実のならない話をしながら僕達はまっすぐにまっすぐに進んだ。
しばらく歩くと進行方向に薄ら森が見える。だけど歩き疲れた。休憩にしよう。立ち止まるとサリアラーラは少し息を切らせていた。気遣いが足りなかったらしい。悪いことしたな。
「休憩にしよっか。疲れた」
「………そうね」
強気の口調とは裏腹にゼェゼェ息を吐きながら肩を揺らしておられる。多分妹のことで僕を巻き込んでいる手前、言い出せなかったのかもしれない。
見ておいてあげないとだな。あんまりやり過ぎると好感度が上がってしまうから注意もいる。なんつー無理ゲーだ。乙女ゲーム舐めてた。ん? 攻略対象僕? いや違うか。じゃぁ、サリアラーラ? 狙ってねーし! てか僕は乙女でもオトメンでもない。この話題止めていい? いいよね?
落ち着いてきたサリアラーラを見る。彼女もこっちを見ていたが、目が合うと俯いてしまった。
「仕事の話をしようか」
僕は真面目な口調を心掛ける。魔女も居住まいを正した。
「まずは認識の擦り合わせね。1、妹を助けに来た。2、君は僕を雇った。3、ここは妖精族の世界」
指折り数えながら言う僕の言葉に頷いていくサリアラーラ。
「まずは1。なにをもって成功とする? 安否は? あんまり言いたくないけど、救えないとわかった場合どうする?」
大事なことなので嫌な話もしておかなくてはいけない。僕達は友達ではなく、雇用関係にあるから。と言ってもお願いされている立場で、上下でいくと僕が上にいるんだけどね。
「あの子が亡くなっていても、あなたに対する報酬は変わらない。私のできることは何でもする。お金の場合は扉代で消えたから、働いて返します。妹が生きていたら、あの家に帰してあげたい」
頷く。処遇を考えないといけないのか。面倒臭いなぁ。タダって訳にもいかないし、格安でもいいけど。恩を売っておくのもいいか。これで1と2を同時に答えるあたり、彼女は頭のいいタイプなんだろう。アホの子っぽいのに。あ、なんか嫌な顔された。女の勘ってやつかな。
「妖精族の世界って言っても私も初めて来たから、持っている情報は少ないわ。精霊も着いてきてくれなかったし」
なるほど。どおりで彼女の周りにいたふよふよがなくなっているわけだ。それからしばらくサリアラーラとの今後の打ち合わせをして休憩を終わらせる。
僕達は遂に森の入口へやってきた。




