No.11
小さな部屋にいる。
小窓が1つ。
物はクローゼットのみ。
生活感がまるでない不思議な部屋。
かつて少女が住んでいた部屋だ。少女と共に部屋の全ての物はクローゼットを媒介に忽然と姿を消す。姉さん、事件です。
僕はクローゼットに手を掛ける。あっさりと開いた。何も無い。
「この辺りからだけど、妹の魔力を感じていたの。今は別の魔力を感じる」
「ふむ」
クローゼットの奥を凝視した。
クローゼット
【転移の扉】:森の妖精族の結界門
招かれた者しか入れない。
なるほど。さっぱりわからん。転移、妖精、結界門。ニューワードに頭を悩ませる。サリアラーラは魔力を"邪悪な"と表現した。何が起こっているのか。
『結界門を開けますか』
はい/いいえ
選択肢を無視する。時期尚早だ。事態を整理してみよう。サリアラーラは妹が誘拐されたと思っている。だけど、違う場合もある。"招かれた者しか入れない"というのも気になるし、彼女の私物が全部無くなっているのも不可解だ。
訳あって妖精界に連れて行かれたのは察せられる。でもそれが強制されたものかはわからない。行ってみるしかないのだろう。ふと気になって僕はサリアラーラを鑑定る。
サリアラーラ・コネット(15歳)
森の魔女
職業:【魔女】
スキル:【魔道・極】
状態:不安・極
武器:精霊の杖
武器スキル:【消費魔力・極小】
僅かな魔力で詠唱を可能にする。装備時パッシブ。
いろいろツッコミたい。何だこのチート女。装備品も半端ない。冷たい態度取ってたけど大丈夫だったか? 後で消し炭にされたらどうしようタスケテ。
とにかく落ち着かせよう。僕は彼女の肩にそっと触れた。セクハラじゃないよ? 僕の方が年下だし! そして"大丈夫だよ"という言葉と同時に不安・極を解錠してあげた。施錠しても良かったけど、施錠状態がずっと続くと他の案件で不安を感じなくなるのも不都合が生じると思うんだ。解錠なら、その時の状態を解放できる。
施錠も解錠も結局僕の都合のいい方向で機能してくれる。スキルとは"使い方次第"という姉が通った学院の教えそのものだ。応用力の差で実力は大いに変わるのだろう。
そういえば宝魅了されたポーターに施錠したままだけど、どうしよう。ま、いっか。ずっと無欲でいるといい。
「あ……うん、ありがと」
ほっとしているのか、サリアラーラは程よく力が抜けたようだ。そして真剣な顔をした。うん、切り替えができたようだ。今までずっと切羽詰まっていい判断ができなくなっていたのかもしれない。
「万物の事象を司る精霊よ、我に力を与えたまえ……」
なにやら詠唱が始まった。ブツブツ言ってるサリアラーラを他所に僕は彼女の状態をもう少し詳細に見てみようと目を向けた。興味本位だったんだ。
サリアラーラ・コネット(15歳)
状態:詠唱中
対象:クローゼット
状態:平穏
対象:自分
状態:信頼
対象:アレクセイ
状態:興味
対象:アレク▼※□⚫
状……
不味いものが目に入りかけたところで僕は彼女から目を背けた。もうサリアラーラを見るのをやめよう、そうしよう。
詠唱が終わった。彼女は精霊の力を借りて目の前の事象を理解しようとしていたらしい。ふよふよ浮かんでいる光の玉が彼女に語りかけているようだ。アレなんだろう?
精霊
光の精霊:高位精霊体。
この世界に存在する精霊の中の希少精霊。光に関する事象を操る。
説明の意味がふわっとしかわからん。うーん、ファンタジーだね。もうそれでいいや。難しいことはみんなファンタジーで片付けようっと。一連の流れが終わるのを待つこと暫し。
「わかったわ。妖精族の門がここにあるみたいなの。どうやら妹はそこへ連れて行かれた可能性があるみたい……」
予想通りだ。そこまでに至る思考が彼女より圧倒的に早い。精霊という強力な味方がいても、【鍵】で得る僕の情報の方が遥かに早く正確だ。【鍵】の凄まじい威力を改めて感じる。地味人生の始まりなんて思ってごめんね、鍵スキル!
また不安が押し寄せているようなので、僕は彼女の肩に手を置くパート2。
「助けに行こうか」
同時に不安を解錠パート2。ますますサリアラーラの僕に向ける顔が蕩けていく様な気がしないでもないが、無視だ。
「……!? でもどうやって……」
「僕は鍵屋だよ? そこに扉があるのなら開けるまでってね」
こうして僕達は妖精の世界へと旅立った。
※アレクセイの施錠・解錠の脳内イメージ解説
状態=檻
症状=獣
状態解錠は檻の鍵を開ける。
状態施錠は上から鍵付きカバーを掛ける。
例えばサリアラーラの不安という獣が体内の檻の中で暴れているところをアンロックで解放すると、不安獣は檻から出ていく。
ロックすると体内の檻の中で暗い状態で不安獣は眠りに着く、でも居座っている。他の不安獣は入ってこれない。
アレクセイのイメージに過ぎません。




