No.10
「待って! お願いだから話を聞いて!」
腕を掴んでくる女の手を振り払い、僕はスタスタ歩き始めた。
「ねえったら!」
あまりのしつこさに嫌気がさす。振り返って言ってやろうかな。
「嫌だって言ってるでしょう? 何故聞かない」
「聞いて欲しいのは私であって、あなたじゃない!」
「だから、お断りです。そんな身勝手な人の話は聞く気にもなれない」
言い合いが最後になったと思ったら、彼女、サリアラーラは膝をついて身をかがめた。DOGEZAだ。ナニヤッテンノ??
「お願いします。私にはもう時間が無い。何でもします。命を捧げろと言うのなら捧げます。どうか、話を聞いてください」
かなり切羽つまった物言いにこちらが困惑を隠せない。
「ちょ、と、とにかく立って。わかった、わかったから! 話は聞くから」
顔や身を起こそうとしない彼女の本気を見て、僕は"騙された"と思い込んでいた事に気付かされる。実際騙されてはいたんだけど。彼女の思いの背後にあるものを汲み取ろうという意思はなかったのだ。ただただ騙された事への怒りが自分を支配していた。騙された自分の弱さに辟易していたんだ。
僕は弱い。
そう改めて痛感させられた。
ギルドの小会議室を借りた。込あった内容だから、他人に聞かせることはできなさそうだったから。沈痛な面持ちのサリアラーラは決意を固めたようだった。
「私を助けて欲しいの」
開口一番の言葉がこれだ。彼女は森に住んでいるのだが、1人では無かった。妹がいるのだが、あの殺風景な部屋の住人なんだとか。彼女は忽然と姿を消す。部屋の物とともに。家出では無い。なぜならクローゼットから放たれていた溢れるほどの魔力が、妹のそれだったから。
サリアラーラは最初はそこに妹が閉じ込められているのかと思ったんだ。邪悪な結界が張ってあり、妹の魔力が側で感じられるから。なんとか救出を試みていたが、埒が明かない。そうこうしているうちに、妹の魔力が感じられなくなっていく。同時に邪悪な結界は日に日に強くなっていった。
サリアラーラは広がりくる邪悪な結界に対抗するため、上から自分の結界を張る。そうすることで邪悪な結界はなりを潜めた。これで助けられる! そう思った彼女はクローゼットに手を掛けた。だけど自分の結界なのに、それは解けなかった。別の魔力が融合したせいで、新たな結界へと姿を変えてしまったのだ。
途方に暮れた彼女はギルドに依頼を出す。この結界を解ける者がいれば、少なくとも妹へと近づける。そんな思いを、希望を胸に冒険者達を待った。
後は僕の知る通りだ。希望の糸口を掴んだと思ったら僕が怒って消えた。途方に暮れた彼女は僕を血眼になって探しだす。そして今日ようやくそれが叶ったところだ。
「あの子、もうダメかもしれない。何度もそう思った。でも諦め切れない。そんなことできない!!」
ドン!!
握り締めた拳は赤くなっている。机ドン。まぁ、それはいい。サリアラーラはもう一度、小会議室の床に手を付いた。
「お願いします。何でもします。助けてください。妹を助けるために、あなたの力を貸してください」
「だが、断る」
「なんでよ!!」
「一度でいいから言ってみたい台詞だよ。じゃぁ、行こうか」
ここまでさせたんなら行くしかないだろ。




