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切りのいいところまで。
エドガ一少年に【森の民】の村長の家に連れてきてもらった。森を切り開いた場所にいくつもの家が乱立し、中央にはちょっとした広場が設けられている。人工衛星で上から大森林を見たら、きっとほんの少しだけ緑の中に肌色が混じる程度だと思うけれど。
「して、お客人はどこからどうやって参った? この大森林のど真ん中の【森の民】の集落に」
村長グレイダー・フレイツアー(45)さんだ。息子が連れてきた、革鎧に身を包んだ銀髪の僕を見て開口一番に出たセリフがこれ。威圧感は全く無いものの、来訪者がほとんどない村へやってきた僕への興味は尽きないらしい。入村した時から村人たちが僕をじろじろ見ていたのも同じ感情が乗っていると見ていいと思う。敵意が無いからね。前を歩くエド少年のおかげではあると認めるけれど。
「エドガー君の異能に関係するんですが、彼の中にある力はご存知ですか?」
部屋には村長とおそらく長男、そしてエド少年と僕の4人が囲炉裏を囲んで会議中だ。どうやら家族はエドガーの持つスキル、こちらでは異能と呼んでいるらしいが、【八卦神門】について認知されていなかった。何かあるんだろう、程度のものらしい。
また、この世界のスキル持ちはこの【森の民】の中にしかいないらしい。つまりエルフも獣人も人もスキルを持っていないんだとか。特別な力を持つ、つまりスキルを持つ者だけが【森の民】と呼ばれ、この集落に集められている。彼らの保護のためでもあるし、力を悪用させないためでもある。人にしか発現せず、一般的に弱いとされている種族が力を得ることで生じる様々な軋轢がこの世界にあるこの集落に集中するようだ。
最大の強さを誇るエルフの王が、この【森の民】を大いに嫌っているため、小競り合いが絶え間なく続いているんだって。
「それではお客人はエドの能力でここに来たと?」
頷く。ある程度のスキルの説明をして、これからエド少年の力を引きだせるかどうか試してみることを告げる。知識は力だ。そして彼が今後生きやすい将来が得られるのなら、それにこしたことはないはずだということも言っておく。
「そうだな。残念ではあるが、三男には何も残してやれんから。せめてしがらみは取り除いてやりたいとは思っていた。アレクセイ君、エドの力になってくれ。この通りだ」
「「親父っ!?」」
息子2人は村長が頭を下げた事態を心底驚いた。三男に関心を向けることはほとんどなかったものだから、父親としての姿は息子たちに衝撃をもたらしたみたいだね。
「エド、しっかり学んで自立できるようになりなさい。それほど心配しているわけではないが、お前なら大丈夫だろう。村長の権威の一部分もやれんが、せめてお前の自由は尊重してやりたい」
エドガーは父親の愛情に触れられた事に感動し、長男は権威が揺らがない事に安堵しているようだった。どこいっても権力闘争は不安の種であるらしい。今後どれだけエド少年が力を着けても、村は彼のものになることはないと確定された瞬間でもあった。
「アレクセイ君、君の滞在を許可する。納得いくまで居てもらって構わない」
村長宅の離れにエド少年とシェアハウスすることになった。こうして僕にも自由行動のお許しが出て、晴れて彼の師匠になりました、マル。
「アレクセイは荷物はないのか?」
「無いね」
離れに移動してエド少年とコミュニケーションの時間を取る。荷物なんてないよ。こちとら召喚獣で、3食昼寝すら必要ないし。なんなら夜も寝ないでいけるし。2人で胡座をかいて最初の授業を始める。
「それじゃ基本スキルね。【転移】」
「……え!! ええええ!!」
右側にいた僕が突然左側に現れたからエドガ一は仰天した。これが基本とか言われたらね。そりゃ驚くよね。彼にスキルが発現しないのってきっと【鍵】が無いからだろうなぁ。門にしろ扉にしろ鍵が無けりゃ、閂がはずせないなら、その先には行けないのだから。
でも。
【鍵】単体でスキルが使えるように、【門】も使えるんだから慌てる必要はない。それに、クグモやミ一シアの時に経験したことだけど、召喚者とされた側、どちらがスキルを使っても互いにそれを理解できたから、決して無駄にはならない。新しいスキルは使うだけ共有し、体感できるんだから使わない手はない。
彼がさっき二重で驚いていたのは、自分でもできることが分かったからだろうね。促してみようとしたけれど、まだダウンロード中なんだろう。動きが鈍いもんね。
「すっげぇ!! これ、狩りで超便利じゃね?」
感想がしっかり【森の民】だった。後ろに回って矢を射るイメージがついたのか、興奮気味のエド少年。あ一あ、僕は【鍵】を教えてあげたいのに。
「物の送還も出来るよ。【門】を繋いで送ったり、こっちに届けたりね」
「……っ!!」
壁に立てかけている彼の弓と矢筒を僕の手に移動させてみる。【門】で出来る事をひたすら教えたら、時間はもう夜だ。食事を辞退して僕は物思いにふける。エド少年はベッドに横になったまま、自分の能力についてあれこれ試行錯誤しているようだった。
一一一一一一一一一一
「そうだ、明門に行こう」
「何、ヤブから棒に」
工ド少年が起きたから、早速作戦を伝える。だってね。70才で『明門』に来るよう促されたんでしょ? 今行ってもいいじゃないか。何らかの事情で【鍵】を手に入れたのか【門】に促されたのかは分からないけれど、スキル側に催促されるってどれ程のんびりしてたんだよって思うし。エド爺のボケ具合いから察するに、継承もギリギリだったんじゃないか?
確か北に祠があるらしい。
「ほこら……あれか!!」
わかったらしい。これで知らないって言われたら八方塞がりだったよ。ホッ。
自由にしていいと言われている通り、彼の行動は誰にも妨げられることはなかった。集落でも彼の立ち位置は微妙なものだから、我関せずの人も多いようだね。ある意味かわいそうだ。本人は全く気にした様子はないけれど。
「どんな準備がいるんだ?」
「遠いの? だったら旅の準備しときなよ。一日で辿り着けるなら君の食事だけでいいんじゃない?」
転移できるんだし。そう付け加えると、ハッとしたエド少年だった。転移出来るだけで、全ての考え方や準備の仕方が変わる。もう一度来たければ、場所を登録して、家のベッドで寝て、登録先に戻ればいいんだから。行きだけの苦労はどうしようもないけれどね。さすがに行ったことも無い所へ行けるハズもない。
森の中をガンガン進んで体感で3時間くらい歩いたときに、祠に着いた。
「ここなのか?」
間違いない。僕はすんなり入れたけれど、エドは窪みの先の扉には気がついていなかった。【鍵】がないせいだ。脳内アナウンス『明門の扉を開けますか はい/いいえ』がないんだろう。だけど彼は有資格者だ。
『エドガー・フレイツァーを入れますか はい/いいえ』に『はい』を選択。彼に八方向から段々狭くなりながら登るべき階段の先へ促した。
「さぁ上に行って、模型に触るんだ」
ゴクリと唾を飲んで、エド少年は僕に目配せしてから前に進んだ。恐る恐る一段一段足を上げて、祭壇に辿り着いた少年は僕の言った通りに、おそらくそこにあるだろう八卦神門のレプリカに触れた。
彼を中心に輝く光の奔流が広がる。収束と同時に光の柱が祠の天井まで突き抜けて消えた。
「【切取】?」
彼の守護門とも言うべき【明門】からついに【八卦神門】のスキルが手に入った。何とかして【鍵】を入手したいけれど、こればかりはまだ情報が足りないね。
【切取】を足掛かりにエドガ一・フレイツァーの大躍進の手助けになればいいな。
そんなことをつらつらと考えていたのだけれど、これから起こるとんでもない事件なんて当然予想できるわけなかったんだよね。
お読みいただきありがとうございました。




