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見渡す限りに森、あっちに行ってもこっちに行っても森、森、森。
そして目の前にいる少年が……。
エドガ一・フレイツァー(14)
ジョブ:【神門番】【狩人】
スキル:【八卦神門】【鷹の目】【罠】
「おわぁっ!!」
急に現れた僕に驚いて仰け反るエドガー少年。でもちょっと待ってほしい。ギランテッサ城塞地下、【明門】で得たスキルのダウンロードがまだ途中なんだ。パソコン立ち上げた途端に更新開始する時みたいにすぐに起動できない。
お爺さんの話を最後まで聞いていたら、この【切取】は貰えたのかもしれないけれど、納得いかないよね。あんだけボケといて『はい』選択直後に継承とか、なんという間の悪さか……。
でもまぁ……。
ついにきたよ、神スキル。お待ちしてました!!
これで漸く、クグモから継承したスキルとセットで“とんでも”スキルの完成だ。
【切取&貼付】
今まで得られたスキルの傾向からすれば、えげつない運用方法ができるハズ。脳内映像で展開されている【切取】の使用方法と自分なりにこうなったらいいなっていう使用方法をいろいろ試してみたい。
クグモが【貼付】をくれた時点で【切取】か【複写】は、あると思ってたんだよね。予想が当たって大満足です。ヤッホーイ。
今まで【貼付】の単独運用を考えてはいたものの、誰かを壁に貼り付けるとか、ろくな事しか思いつかなかたんだよね。だけど【切取】とセットなら別だ。
「誰だよお前!! いきなり現れやがって……って大丈夫か?」
うん。楽しみが広がるね。最近物騒な事が多かったから、ここでゆっくりしていこうかな? 帰ったら時間経過がないっぽいし、体力的な回復は望めないけれど、ここで得られる知識や経験が役立つ事もあるかもしれないし。
エドガー爺さんのスキル取得速度を早めるために【召喚】されに来たけど、もう目的果たされちゃったからね。わざわざ僕が手を出す必要はないと思うんだ、うん。
だったらもう交流を楽しもう。ようやっとダウンロードも終わった。運用方法を随分考え込んでたから、動かなかったんだけど、心配してくれたみたいだ。
「お前こそ誰だ、エドガー・フレイツァー」
「え一……俺はエドガー・フレイツァーだ!! ってなんで知ってんだ!?」
意趣返しって大事だと思いません? さんざんやられたからお爺ちゃんに。
「実はね、【八卦神門】の関係者だよ。君にわざと【召喚】されに来た。ちょっとは自覚はあるでしょ?」
彼は呆気にとられた顔で、口をパクパクさせた。
いきなり核心を突く事で、話を進めやすくしたかった。逐一説明するやり方が合わない性分なんだよ。ごめんね?
「俺の中の【八卦神門】が始めて動いたんだ、びっくりした。神の門から来たんだ、あんたは神さまか?」
「あはは。違う違う。僕も【神門番】の一人だよ。アレクセイっていう。敵じゃないから安心して」
【召喚】の過程で『アレクセイの【召喚】を受け入れますか』的なガイダンスがしつこく脳内に流れたと思う。ミ一シアの時がそうだったからね。断れない感じのしつこさ(笑)
「で、エド爺は今なにしてたの?」
「エド爺!?」
「エド少年は今なにしてたの?」
ジトッと睨まれた。狩りの途中だったらしい。
クリーム色の髪をセンター分けにした、ちょっと細身の少年。ノースリーブでチュニックの濃いグリーンの服はなんとなく狩人のイメージそのままで、矢筒と弓を背にする姿はなかなかのものだった。村長の息子さんのはずだけど、どういう暮らしをしているんだろう?
「俺は【森の民】だ。森の中で生活し、森の中で生涯を終えるって感じだな!! まぁここにゃ森しかないから森以外にどんな場所があるのか知らねぇけど」
森の世界?
森から恩恵を受け、湖や雨で水を確保して生きているらしい。原住民っぽい。食べ物は主に木の実と動物の肉、湖の魚。畑はないみたい。平地もないから仕方ないのかな? 見渡す限り森だ。
「森の最果てには行ったことないの?」
「ないな!! 行ってみたいとは思う。でもな、【森の民】の縄張りは小さいからな。勢力圏が狭いから行動範囲も制限されてるんだ」
「出たらどうなるの?」
「捕まるだろうな」
【森の民】は少数民族らしい。大森林の中には幾つもの集落があり、それぞれに独立した社会がある。最大勢力はエルフ王国。森の谷に天然の城塞があるとのこと。【森の民】の集落から西に経界が張り巡らされている。足を踏み入れた途端に足下に矢が飛んでくるそうな。おっかない。そして周囲は人の集落もあれば、獣人の集落もあるんだって。ここはまさにファンタジーだね!! エルフに獣人、会ってみたい!!
「それで、アレクセイは何しに来たんだ?」
「それなんだけどね……。目的はもう果たせたんだよね。だから帰ってもいいんだけど」
「はあ!?」
急に目の前に現われておいて何なんだ!? と言う。
「そうは言ってもエド爺のせいったらせいだから。君がお爺ちゃんでボケてるせいで、ここに来る事になったんだよ」
「はあ!? いやいや!? 意味分からん!!」
「気持ちは分かるけど、とにかく君がのんびりして、【八卦神門】をなかなか解放しないから僕はここに来る決意をしたわけさ」
「……」
エドガー少年は混乱の極致にいる様で、思考の海へ航海をしに行ったようだ。森しかないから思考の森の奥深くへ足を踏み入れたようだ。しばらくして言う。
「つまりアレか? 俺の【八卦神門】をなんとかしろって話か?」
「う〜ん。そのつもりで来たんだけどね。なんて言ったらいいのか……別になんとかしなくてもいいような気もするんだけど」
「はっきりしないな一!!亅
だってねぇ……。結局【切取】くれたしさ。時間が解決してくれるみたいだし、僕が介入して何かが変わるのかもよく分からない。
「なあ……もし時間があるならだけど……」
「うん?」
とても遠慮がちにこちらを見てくるエド少年。先程までの威勢はどこへやら、しおらしくなっている。
「俺にこの【八卦神門】について教えてくれないか?」
生まれた時から持っている【八卦神門】のスキルは今まで何の反応もなく静かに自分の中にあるだけだった。そして突然、脳内に【召喚】の選択に迫られたから、まだ何にも整理できていない状態なんだって。それもそうだよね。逆の立場でもそう思う。
僕はスキル継承の儀式で得たスキルなわけだけど、【鍵】は最初から持ってたし。継承者によってパターンが違うのかも。ん? そう言えばエドガー少年、【鍵】持ってないな……。僕とは逆なのか?
「そうだね……分かったよ。僕の知る【八卦神門】の知識も限られたものだけど、何も知らないよりは君の力になるだろう。初めてって事は、【門】の基本スキルすら知らない……?」
なんで? 赤ちゃんのときにダウンロードされてたから? 発動もしない? 分からない事だらけだね。目の前の少年はコクコクと頷いた。
「それじゃ、エド爺。僕のことは“センパイ”として敬うこと」
「いろいろツッコミたいんだが……俺はジジイじゃない!! そしてよろしくお願いしますセンパイ!!」
元気いっぱいの後輩ができちゃったとさ。
お読みいただいてありがとうございました。




