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「ワン・モア 〜もう一度会えたら〜」という短編を少し前に書いたので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
「マグニアス名誉伯爵にお仕えできるのは、我々にとってかけがえのないものになることは間違いありません」
報告の最後の言葉を耳に残し、ジャンヌは目の前の4人を一瞥する。新組織立ち上げのための先行投資として派遣した【獅子の咆哮】の2名と部下2人の顔つきは最早、派遣前に見せていた不安や躊躇いのない、清々しさに満ちていた。
アレクセイが実際に何を探して、王国中の城塞地下に行きたがっているのかはついぞ解き明かすことはかなわなかったが、ジャンヌにはおおよその見当はついている。【ジョブ】や【スキル】を付与する、この王国のあり方をさえひっくり返す強大な力に関する何かだと。
彼女自身もアレクセイ・ヴァン・マグニアス名誉伯爵の能力の恩恵に預かっているため、ー生涯胸のうちに秘めておく決意でいる。
聞けば【漆黒の翅】の強さは凄まじく、モンスターと対峙する姿は子供とは思えない程の覇気を有していると言う。シーダーから耳にした現マサテュール公爵が拾ってきた王都の孤児たちの成長ぶりに、背筋が凍る思いをした。本来ならまだ【ジョブ】を持たない年齢なのだから。
全ての前提条件が崩れ去る。15才じゃなくてもジョブ継承を受けられるのではないのか? ジャンヌはこれ以上の思考を止める。自分には過ぎた案件だからと。
(今、考えるべきは新組織よ)
壁掛けの双剣を見ながら、視線を4人に戻す。
「ラナーシャ、フレド、あなた達は一度マグニアス伯爵にダンジョンについて報告してから、許可がおり次第準備を。シーダーに報告はいる?」
自分の部下に指示を出した後、ジャンヌは【獅子の咆哮】からの2人に向きなおる。
「いえ、もう俺たちのリーダーはジャンヌさんだ。なんなりと指示を」
ハキハキした返しに頷く。【獅子の咆哮】も【怠惰の蛇】も裏の組織だ。それ故の移動や縦社会のなんたるかを理解していない人間はほとんどいない。2人共すでにこちら側の人間だ。4人でパーティを組ませてダンジョンで実力を、実績を、経験を積まなくてはならない。アレクセイの役に立てるように。
ギランテッサでの活動報告においても、彼らの活役は単なる道案内だった。授かった【スキル】【ジョブ】も即戦力にすらならなかったとの事。戦闘系の【スキル】【ジョブ】のセットだったのにもかかわらずだ。
地下においての彼らの強さはもう疑うことすらアホらしくなる。
地上はどうだろうか……。
ギランテッサ公爵領。
犯罪が多く、スラムも多い。じわりじわりと貧困域が広がっている。仲間からの報告を拾うたびに重ねたため息はもう天にも届くのではないか。ジャンヌは思わずにはいられなかった。マサテュール公爵領も少し前まではあまり変わらなかった気がするが、その中でもマグニアス領は異彩を放っていた。
横領、専横を良しとしない善良な貴族が治めていたからだ。それが今、公爵領全域に広がり、治安を良くさせている。魔物掃討戦で、王都から人々が溢れるほどに入領して来たにも関わらず。
ギランテッサは逆だ。人々は逃げた。重税に犯罪、理不尽な貴族に、暴利を貪る商人。冤罪をかけられる人の数は人知れない。
ジャンヌはアレクセイ・ヴァン・マグニアス名誉伯爵に各領地の情報を渡している。金貨80枚以上の衣頼ゆえに、求められている「城塞地下」だけでなく、領地の特徴、領主の性格や家族関系、特産品など、得られる情報の全てを。
彼がギランテッサに行く事になった時、正規の手順や方法で入領したとしても、どんな難癖をだれがどのように仕掛けてくるかわかったものではないと進言した。ほぼ全てが敵と言っても過言ではないと。
だから、アレクセイが、魔物と戦っただけだと聞いて安堵したのだ。それさえ、見られていたら、付け入るスキになったかもしれないから。
『なにもするなと?』
『ああ。基本的には何もしない方がいいだろう。痕跡も残さない方がいい。あの領地は全てがもうダメだろう。もしかしたら民の中には良い奴もいるのだろうが、上にいかないのなら余計な事は何もしない事だ。例えそれが危険を排除して助けになるとしても、貴族はなんでも利用して落としにかかってくるからな』
ジャンヌは珍しく饒舌に語ってみせた。彼が上に立つ以上、かかる火の粉は事前に払えるなら追っ払う。自分の言葉を素直に聞いたアレクセイの良さを再確認して、彼女は目の前のカップに手を付けた。
これから忙しくなりそうだ。増えていく人材、その費用や環境整備、表や裏の根回しも、やることは多い。
先を読む事は難しい。
だが、あらゆる事態に備えておく事はそう難しくはない。ジャンヌの危機管理能力は、今だ世間に出ることない。しかし、ゆっくりゆっくりとマグニアスが力を付ける一助となる。
彼女が斬るはその未来。
お読みいただきありがとうございました。




