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苛烈な戦いが繰り広げられている。
魔族アングルメールの多彩な攻撃から僕を守るように、【漆黒の翅】や【虹色の翅】が各々のスキルを駆使し、相殺させている。属性魔法には同属性や得意属性を、物理攻撃には彼らの戦闘スキルが対抗していた。
【獅子の咆哮】や【怠惰の蛇】からの人員には最後尾にいてもらう。今回から彼らは正式に僕の傘下に入ると言っていたジャンヌ率いる新組織のメンバーということで、直属の部下という立ち位置になっている。だから彼らにも【スキル】や【ジョブ】を施したけれど、戦闘に慣れていない、経験不足な状態で参加させられない。
アングルメールは僕の矢を警戒している。それは正しい。魔法障壁を破ってしまうほどの威力だったから。あるいは彼の魔法障壁が弱いのかもしれないけれど。
仲間たちは僕を守ることに専念して、決して前に出ない。怯えているわけではないんだ。ただ、邪魔になることを察している。だから魔族の攻撃を逸らせ、僕に攻撃の機会を与えるべく全員が注意を集中していた。
「埒が明きませんね」
そう言うとアングルメールはバックステップを数回繰り返して僕たちから距離を開けた。
悪手だと思うけれど……。
「【矢の雨】」
今回の最大威力を込めた【矢の雨】を彼に放つ。
「くっ……」
苦しげに顔を歪めた彼は、その後すぐに口端を上げた。
「これならどうです?」
一瞬で構築された魔法陣から光が溢れ出す。予め書かれたスクロールによる魔法陣を起動し、かの者は自身の魔力をそれに込めたのがわかった。
無詠唱と同じように、悟らせないような形で展開する彼の機転の良さは今後対処する上での僕の課題だと思う。
強いね。
いろいろな意味で。
「ここは撤退しましょう」
彼は魔法陣の起動を確認するとそう呟いた。
逃がすかよ。
「【爆ぜる矢】」
矢は彼を捉えたと思った時にはそのまま真っすぐに進んでいった。そして、魔族の姿が消えている。
「転移か……?」
敵が使うと、なるほど、厄介だね。
倒しきれない相手がいる。【魔王】ではない存在。本当に何者なんだろう?
アングルメールもそう思っているだろう。
魔族は【勇者】を恐れている。人間が【魔王】を恐れているのと同じ理屈で。でも僕は【勇者】ではないし、彼も【魔王】ではない。
この世界に異質な存在が二人いるとすれば、僕と彼なのかもしれない。もちろん二人とは限らないけれど。この国の、この世界の常識をきっと彼も崩しているに違いない。そんな予感がある。
彼の目的はなんだ?
考えてもわからないし、彼も僕の目的を知らない。答えの出そうにない問に思いを向けるのは、今の時点ではこれで最後だね。
「「主!! 敵です!!」」
【漆黒の翅】の面々が前方を指差し、魔法陣の光が収まった場所を示す。
そこに現れたのはリザードマンと呼ばれる魔物で、かなり強い個体だと思われる。まず大きさが3メートルくらいあるし。手にする盾は多くの突起があって禍々しく、あんなのでシールドバッシュなんかされたら、体に穴が空きそうだ。もう片方の手にある剣は湾曲した大きな剣。
そして眷属のような彼の半分のサイズのリザードマンがどんどんどん増えていく。
ぇぇぇぇ。
ちょっと多すぎませんか!?
わらわらわらわら増えていくリザードマンに戦々恐々としている場合でもない。ゲルトレイルはすぐにクバイトさんに目をやった。
「総員、抜剣!! 突撃ぃ!!」
素敵紳士で凄腕執事の面影が霞んで見える騎士長の咆哮とも言える気合の声が広場に響く。【漆黒の翅】が真ん中を開けて走り出す。
「炎!!」
赤髪の号令で【魔女】たちの魔法が飛ぶ。
「うちもやったるでー!!」
気合十分の可愛らしい声が響いたかと思ったら、無属性のとんでもない数の魔玉がとんでもないスピードで【漆黒の翅】を追い越していった。
あれか?……ロケットマナパンチか?
先を見るとリザードマンの多くがのけ反って倒れている。
しゃぼん強いんだ……意外……。
彼女は褒めて褒めてと言わんばかりにサリアラーラと目を合わせていた。ニコリと微笑むサリアラーラに満足した精霊は彼女の肩にそっと移動する。ドヤ顔をしているけれど、めんどくさいから目は合わさないでおこう。
「アレクセイ、あのスクロールの魔力が尽きない限り、魔物が絶えないよ」
なんですと!? 無限に湧き続けるの? 込められた魔力に比例した魔物が出るのではなく、それに比例した数を出せる召喚魔法陣なるものがあるんだと。
凄いインチキというか、チートというか。酷いね。モンスターハウスの人意版? 魔意版? なんて表現するかわからないけれど、意図的にモンスターピードを引き起こす災害級のスクロールに唖然とする。
え? じゃああれに施錠したらよくない?
アングルメールに効かなかったけれど、スクロールにはどうだろ?
施錠。
あ、止まった。
湧き出てきたリザードマンを【漆黒の翅】に任せてスクロールの回収に向かう。道すがらリザードマンの様子を見ようとしたけれど、ダンジョンの魔物のように屍は残らなかった。ちょっと安堵のため息が出る。だけど、魔石も残っていないね? なんで?
召喚獣だから?
そして【鍵】は召喚獣の彼らにもちゃんと効いた。アングルメールにはキャンセルされる何かがあるようだけれど……。
スクロールの近くにいたリザードマンを斧戦士が捌き、魔女が焼く。
手にとったスクロールに込められた魔力を無理やり解錠して追い出しておいた。世の中にはとんでもない兵器が隠されているものだな。僕の魔力を注いだらどうなるんだろう?
やるしか?
「アレク、なんか悪い顔してるよ?」
苦笑いのリリアリーリに咎められる。あ、わかりやすかったかな? でも試してみたいじゃない?
いや、これ、魔力量が圧倒的に多い彼女たちがやったらどうなるんだろうね?
「アレクセイ、それちょっと見せて?」
ワクワクした顔でサリアラーラが手を差し出してくる。まあいいけどさ。そう言えば魔法陣得意だよね? なんかわかるのかな。
「ん」
サリアラーラは「ほう」とか「へぇ」とかすごく楽しそうに魔法陣を眺めている。得意だけあって、好きなんだろうね。
「なんとなくわかるけれどさ、どんなの?」
待ってました! と言わんばかりの顔で彼女の講釈が始まった。周りに戦闘を終えた全員が集まってくる。三角座りして全員が彼女に注目した。
本当に戦闘後の光景とは思えないね……。なんかゆるいわ。
「このスクロールは召喚陣ね。リザードマンが出てきたけれど、召喚者の魔力によって数が決まるタイプのものみたい。一番大きなリザードマンは固定されて出てくる仕組みのようよ。小さい方は、眷属と言って、召喚者の魔力の注いだ量で数が決まるわ」
「リザードマンが必ず出てくる?」
「ええ。リザードマンの記号が刻まれているから間違いはないはずよ。術式が単純になっている分、無駄がなくて強力なものになってるね。とても綺麗な配列だし、この発想が凄い……」
彼女の熱量に、その素晴らしさがわかる……のかな?
「人間が召喚したらどうなる?」
「術式的に、召喚者の敵に攻撃が仕向けられるようだから、味方には危害を心配する必要はなさそうね」
じゃあ、いいの拾ったんだね。
「ただし、これ使い捨てのスクロールだから、緊急事態にしか使えないかな」
なるほど。アングルメールを少しでも追い詰められたって事か。
でもなぁ、これ「使用後消滅」の部分に施錠したら良くない? うは。いい事思いついたよ。いつでもどこでも使えるじゃん。
「アレク……また悪い顔してるよ?」
リリアリーリが僕の頬を指先で突いてきた。
アングルメールから貰ったプレゼント(違)なんだから大事に使わなきゃね。とことん使い倒そうっと。奥の手を持っておくのは大事だしね。
あれこれ使いみちを考えながら戦闘後の休憩を終える。
さぁ、城塞地下中央まであと少し。




