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 かなり綿密に計画されたギランテッサ城塞地下侵入の企み。酷いもんだよね。魔物だけでなく領地外の人間にあっさり入られているんだから。閉鎖されているとは言え、ここまで警戒がザルだと、今後の魔族との戦いが不安になるというものだ。襲ってきたらの話だけれど。


 あれから何の音沙汰もないのが少々気にかかるところだ。魔族の侵攻が止まった。勇者をどうにかするつもりだったはずなのに、ピタリと止んだのが気にかかる。様子見だったのか、手詰まりなのかはさっぱりだ。


 というわけで、【虹色の翅】と【漆黒の翅】、ならびに【獅子の咆哮】から二名、【怠惰の蛇】から二名の大所帯で地下を歩いている。ところどころ通路が瓦礫の山になっていてどかさなくてはならないために、速度はかなり遅い。


 王都にある8門のギランテッサ門から王都中央に向けての通路はかなりひどい有様だったと聞いている。戦死者が多かったそうだ。兵士の練度も低く、士気はさらに低かったみたい。蜘蛛の子を散らす様な逃げっぷりで、死者の殆どは背中の傷が多かったとのこと。戦うまでもなく……。


 そしてギランテッサ大関所からギランテッサ城塞地下への通路を今、まさに進んでいるところなのだけれど、この通路もまた、壊滅的にボロボロだ。ただし、つるはしゴブリンなどの魔物の気配は今の所これっぽっちもない。


 指揮を執っているのは赤髪のゲルトレイルだ。彼のジョブ【軍師】は人数が増えるほど効力を発揮できるみたいで、こんな狭い通路においても、ひとりひとりの役割が彼の指揮で随時与えられている。


 軍隊編成とかできそう……。いや、軍師だからできるんだよね?


 といってもまだ、班を決めて班長をって規模でもないのか、彼は直接指揮を執っているわけだけれど、そのうち大人数を手足のように動かすこともあるんだろうかねぇ。


 ちょうど今、瓦礫の撤去作業が終わったところだ。休憩を挟んでいるところに、僕と騎士長クバイトさん、軍師ゲルトレイルが集まる。


「出発は半刻後でどうだ?」

「うん、問題ない」


 軽いやり口だったけれど、赤髪と僕の会話に騎士長はうなずきを返すだけにとどめたみたいだ。


「そろそろ警戒レベルを上げようか……」

「そうだな」


 嫌な予感がする。静かすぎたから。


 人っ子一人、魔物っ子一人いないんだよね。これだけひどい有様なのに、今までになんの接触もない、生き物の気配もないんだよ?


 何が起きているんだろう……。


 隊列を組んでの進行に、なんとなく緊張感が増していく。


 大関所から城塞までの距離はどこの領地もだいたい同じだ。王都中心から均等に8方向に伸びている明文化された恐ろしいまでに測られた緻密な造り。まるで王国全体が八卦神門の魔法陣が敷かれているような感じだ。まるでどころではないのかもしれないけれど。


 そして大関所にある地下への進入路は【怠惰の蛇】の手のものが手引きしてくれて、すんなりと入ることができた。各地に散っている彼らの仲間はいったいどれだけいるのだろうか。その頭が僕の傘下に入りたいと言った。


 長い長い通路を進行しながら、僕は【怠惰の蛇】の目指すところとはなんなのか考えてみたけれど、さっぱりわからない。考えるのやめよう。


 傘下に入る新組織の名前や活動領域、リーダーであるジャンヌの立ち位置。考えることはいろいろとありそうだけれど、丸投げでいいか、とも思うんだよね。


 手足のように動いてくれるのなら、頭は【軍師】に任せるとしようか。軍隊があるわけじゃないから、内政屋としての軍師になるのかな? ゲルトレイルにできるんかね? スキルがなんとかしてくれるのか? それも丸投げでいいか。


 すると僕いったいなにするんだ?


 自由を得るための行動、これに尽きる。こんなふざけた世界の理を壊すのが僕の使命だ、なんてかっこいいことは言わないけれど。どこまで戦えるのか。


 すっと先頭を行くクバイトさんが右手を水平に上げた。全員が止まる。


 距離にしてどれくらいだろう? 中間地点くらいまでは歩いた気がするね。地上でなら馬車で移動するところだから、結構な距離を進んだと思う。通路はところどころ横穴の空いた場所が出てくるようになった。魔物から開けられた穴だと思う。


 なんとなく嫌な匂いがする。強烈な匂いではない。だけど、進めば進むほど強くなっていくような感覚はある。周りを見渡せば、前にいる【漆黒の翅】の面々が眉間にシワを寄せ始めているのが目に留まった。


「総員、警戒!!」


 ゲルトレイルの張る声に前衛を務める【漆黒の翅】が全員左手に鞘を持ち、右手に柄を掴む。


 強烈な匂いが一瞬だけ風と共に僕たちのところまで吹き抜けてきた。


 ドドドドドド。


 地響きのような音が風に遅れてやってくる。


 そして……。


「抜剣!!」


 シャランという重奏音が前から響く。


【漆黒の翅】が一斉に鞘から剣を引き抜いた。


「いっくよー!!」


 場にそぐわない可愛い声が響くと同時、キラキラしたエフェクトと共に飛び出してきた妖精リンカーラは前方に向けて炎の大玉を飛ばした。


「「あ……」」


 出鼻を挫かれ、唖然とした【漆黒の翅】はそれでもファイアボールの後を追いかけるように走り出す。満足気にドヤ顔を僕の方に向けた翅人は僕の右肩へやってきた。


 魔物たちがこちらに気づいて、襲ってくるところだったに違いはない。そう踏んでいるのだけれども、先制というかなんというか。その姿が見えるより先に、妖精が魔法を打ち込んでしまった。いや、いいんだけどね? いいんだけどさ。なんというのかな、何が来たのか把握する前に終る戦いって一体なんなのさ。


 地響きは止んでいる。


 だけど、剣戟は鳴り始めた。魔女二人の顔がより真剣味を帯びてくる。


 王都掃討戦後、復帰後初めての戦闘だ。


「サリア、無理しなくていいよ?」


 魔女は首を横に振る。彼女の決意の宿った目は前を向いていた。


 先の戦闘においての功労者、しかし意識を失うほどに消耗した彼女の体力や、精神を休める時間はあったはずなのに。そして、この度も休んでいいはずだったのに、彼女はついてきた。『もう後悔はしたくない』、彼女から紡がれた一言に、僕は彼女を止める術を失った。


 鼻腔を歪ませる匂いは徐々に薄らいでいる。剣の弾き合う音も少ない。僕たちがその場へたどり着く頃にはすべてが終わっていた。また出番がなくなったね。


【漆黒の翅】が全員剣を鞘に収めているところだった。


「兄さん、今終わりました」


 気を抜いたのか、ジョアンサがこちらに気付いて一声を寄こす。でも自身の失態に慌てているようで、すぐに口を噤んだ。「兄さん」ではなく「あるじ」と言わなければならないらしい。僕と個人的に話すときにはもちろん「兄さん」でいいけれど、公の場ではダメなんだって。案の定クバイトさんが険しい顔をしたあと、いつもの苦笑を出している。ジョアンサが自らの失態を悔いていることが見て取れたから、敢えて黙殺することにしたらしい。怒られたほうが気が休まるのだけれどね。なかなかに厳しい騎士長様だ。


 クワトが全員が回収した魔石を僕の前に持ってくる。


 ホブゴブリンの魔石


 相手はホブゴブリンだった。魔石でしか確認できないほど瞬殺された魔物たちの末路を哀れに思いつつも、襲ってくるほうが悪いと思考を切り替える。


「ご苦労さま。早かったね」


 誰ともなしに、【漆黒の翅】へ向けて声を掛けると、彼らは嬉しそうにしていた。リリアリーリが『ワンちゃんみたい』とボソリと呟いたのを小耳に挟んで同じ感想を抱いたことに笑えてくる。尻尾があればもうブンブン振っているに違いない。


「今どの辺だ?」


【怠惰の蛇】から派遣されてきた二人の内、地図を持って僕たちと行動を共にしているラナーシャに対しての質問をゲルトレイルが投げかけると、彼女は答えてくれた。


「はい、城塞地下までの距離としては5分の1といったところでしょうか」


 あと少しだな。結構歩いた気がするけれど。【怠惰の蛇】から来た男女は二人共20歳だった。ジェンヌに散々言い聞かされているのかはわからないけれど、僕や赤髪に対してかなり低姿勢に接してくる。ゲルトレイルは貴族でも何でもないんだけれど、僕と対等に話しているから、無下に扱えない存在になっているのだろうね。


 ジャンヌは今回ギランテッサの地下の見取り図を彼らに持たせ、案内するように命じていた。最初に僕に地図を献上しようとしたけれど、それ無しで正確に案内できるのかと問うと、答えに窮していた。完璧に頭に叩き込んできたらしいが、地図を持たずに発言することの愚かさに気がついて顔を青くしていたのは印象深かった。


 きっと本来、いい仕事をする人たちなんだろうと感じずにはいられなかったんだよね。こんな人材どこからしょっぴいてくるんだろう? ジャンヌの求心力と慧眼さはほんとすごいね。


【怠惰の蛇】と【獅子の咆哮】から来た4人は、【漆黒の翅】の子どもたちの異常な強さに唖然としていた。スキル持ちの力を間近に見たのは初めてのことかもしれない。そもそも闇組織の人間はスキルを持たない人間が多い。過去の王族や貴族の末裔が多いからか表立って活動できずに、王都地下で、つまりスラムで育ってきたから継承の儀式を受けられずにいた。故に危険から遠ざかっていた分、強さとは何か、目にすることがあまりなかったのだろうね。


 さて、八卦神門の部屋にたどり着くまでに何が待ち受けているのやら。





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