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18章プロローグ


短いです。

 

 アレクセイ・ヴァン・マグニアス名誉伯爵様



 この度の叙爵、誠にお喜び申し上げます。


 我々一同貴方様の今後のご活躍をお祈り致しております。


 これまでの数々のご無礼、何卒ご容赦くだされば幸いです。



 さて、ここからが本番でございますが、まず、ギランテッサの城塞地下の情報をお送りいたします。同封された物がそれに当たります。ご確認を。


 我々【怠惰の蛇】の独自調査の結果、伯爵様の城塞地下への今後のアタックについてご提案がございます。どうぞご一考ください。


 お手紙ではこちらの意図を上手く伝えられることは叶わぬことと思います。ぜひお目通りの機会をいただきたく存じますが、お許しいただけないでしょうか?


 伯爵様のご予定に合わせますので、是非ともご検討の程を。



 怠惰の蛇 ジャンヌ




 -----




 丁寧に封蝋をし、手紙を恭しく持ちながら、ジャンヌは溜息を吐いた。まさかあの少年が名誉とはいえ、伯爵になってしまうとは。自室の窓から遠くを見つめて彼女はそのような思考にふける。


 自身にくれたスキルとジョブ。


 身体能力が上がり、見えてくる世界もかなり変わった。街の兵士たちの強さ、現マサテュール公爵軍の強さなど、肌で感じるものが今までとは段違いだ。彼女は類稀な危機管理能力から、組織を導いてきた。【獅子の咆哮】で鍛えられた組織力や観察眼、持ち前の度胸は言わずもがな。


 この国の制度、スキル一つ、ジョブ一つという原則でさえ適用されなかった不遇な人生を突っ走っていた。それが件の少年によって即時解決されてしまう。もちろん国に報告しているわけではない故に、能力を得たことは未だに秘密ではあるのだが。


「これを名誉伯爵様に届けてきて」

「はっ」


 部下の一人に先程したためた手紙を手渡せば、すぐにその場から消える。かなり優秀な密偵ではあるものの、少年の前ではなんの障害にもならないことは先刻承知の上だ。だから彼女はいつも、『余計なことはせず、まっすぐ正当な経路で渡せ』と厳命する。部下がなにかやらかせば、こちらに何が起こるかわからない。


 与えてくれた能力でさえなかったことになるかもしれない。与えることが出来たのだから、失くすこともできるかもしれない。そんなことを考えると背中がゾクリと反応してしまうのだ。彼を敵に回すことだけは絶対に回避すべき案件である。


 外は相変わらずの晴れやかな空模様だ。


 メイドが入れたお茶を飲みながら、彼女の思考は回転し続けている。優雅に座っているものの、彼女が窓の外を見ながらお茶を飲む時はたいてい邪魔してはいけない時だ。家の者たちは決まって声を掛けることを控える。


 コトリと置いたカップを見もせずに、ジャンヌは壁の双剣の方に顔を向けた。


【双剣術】に適正があり、お奨めされるままに頂いたスキル。すぐに新調した双剣は魔銀と呼ばれている方のミスリル製だ。魔力との親和性が高く、軽い上に丈夫という夢のような鉱物でできた業物に彼女はご満悦だ。一目見る度につい口端が上がってしまう。


「さて、伯爵様は受け入れてくれるのかねぇ……」


 独り言を呟きながら、彼女はついに双剣を鞘ごと掴んで胸元へ引き寄せた。





 少年は一枚噛んでくれるだろうか。


 ジャンヌは両手に持った双剣をクルクル回してから構える。


 彼女が斬るは、未来か過去か。




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