10
今章エピローグ
頭を抱えているのはこの国の宰相だ。
その名をグレンジミール・レ・コルトーという。
コルトー公爵領の領主でありながら国の中心人物だ。
彼には2人の息子と1人の娘がいる。
長男が家督を継ぐよう鍛えに鍛えられ、次男は補佐役として徹底的に教育されていた。継承権争いなど起こることもなく、生まれたときから野望すら抱く暇なく教え込まれ、息子たちは立派に育っている。娘は気立てよく、貴族として、淑女として大事にされ、領地経営の教育も本人が望む限りに施してきた。順風満帆。そう思っていた。
魔族の侵入の報が届くまでは。
ドヌマン公爵からもたらされた金庫の侵入と呪いの呪符。
誰も気付くことなく行われた蛮行。
彼はすぐに王城から早馬を出し、自領へ指示を出した。【魔術師】や【呪術師】など、自領が抱えるエリート達がそれにあたるよう時期公爵である息子に手配。
迅速に事は進む。
問題はすぐに片付いたように見えた。
しかし、相次ぐ凍傷患者に驚かされる。毒や麻痺を警戒していた。まさかの【凍結】。しかも温めているにもかかわらず伝染していく人々。
増えていく被害に焦りが出始める。
自分の子たちまで倒れ、宰相は自領へ帰る算段をつけ始める。流石に自領の一大事に帰らないわけにはいかない。任せている時期公爵も倒れているのだから。
そんな時に吉報がもたらされる。
『解決。冒険者パーティー【虹色の翅】がコルトーへ向けて馬車へ乗った』
という内容の手紙がフラクシス公爵から届いた。
マサテュール公爵からの推薦で【虹色の翅】を『2領地へ派遣できるが、どちらから行くがいいか』という問いに、フラクシスからと返事を出した後の自領の問題だったから、コルトー公爵は、自領から先に来てもらえればよかったと後悔しているところだったのだ。
フラクシス公爵から届いた2通目の手紙には、麻痺毒に侵されていた子供らを、マサテュール公爵が自身の名を与えたマグニアス名誉伯爵が癒やしてくれたという。才能のある若者を確保している新公爵の手腕を垣間見た気がしていた。
しかし、コルトー公爵領からの手紙には、【虹色の翅】は呪いの特定が終わるとすぐに金庫室を退出した後『消えた』というものだった。
何が起こった? 嫌な予感がする。
宰相は、やり取りの詳細を催促した。
届いた詳細に唖然とする。
グレンジミール・レ・コルトーが後手に回ることは珍しい。いや、これまでほとんどそんなミスは起こさなかった。些細なものから重大なものまで精査に精査を重ねて慎重に物事を進めていく彼のやり方に、今まで間違いなどほとんど起きたことがない。
しかし事は起こった。
自身のいない領地で。
すぐさまマサテュール公爵への謝罪と、呪いの特定に対する感謝の手紙を出す。マサテュール公爵は切れ者の一人だ。敵に回すのは今後の国営にも影響しかねない。僅かな歪も生じさせるわけにはいかないこの混乱期には尚更。
特定された呪いの詳細から、術者たちが駆けつけ、なんとか自領の問題は払拭されたものの、後味の悪い結果に終わってしまった。
恩と貸しを同時に作るという事態もいただけない。
グレンジミール・レ・コルトーは執務机に膝を乗せ、組んだ手の上に顎を置いた。
左手にはめられたキングブレスレットのレプリカを一瞥した後、目はドアに向うが。
この国の行末と、自身の領地の安寧を得るために、遙か先を見据えている。
お読みいただきありがとうございました。




