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 残酷物語ここに開幕!!


 と言うかね、エグいです。こんな仕打ち無いわぁ、と思うわけですよ。


 横恋慕が分かってテンションダダ下がりの上にですよ? その相手の許嫁フィアンセのところへ行かなきゃいけないんだって。それで、その人の問題を解決して来いと。


 酷くないですか?


 いやぁ、そりゃあ勝手に自爆してる自覚ありますけど?


 誰にも責任はないし、ダメージ受けてるの僕と……あと、察しのいい数人。


 いっそ失敗してやろうかなんて考えが浮かんでいる僕は最低だ。自己嫌悪が津波のように押し寄せる。まだそこに辿り着いているわけでもないし、わざとミスするような馬鹿でもないと自負しているし、それこそかっこ悪いところを当人たちに見せたくもない。


 我ながら厄介な性格をしているなと思う。


「ゲルト、キングブレスレットだけどさ」

「ああ」


 コルトー公爵領へ馬車を走らせ、金庫に仕掛けられている罠、呪いを特定、または解除するのが僕たち【虹色の翅】の請け負っているミッションだ。


 コルトー公爵領と言えば、ルクセン王国最強の軍隊を擁する軍国主義的な領地で、戒律も厳しいと聞く。治安が良いのは恐怖政治であるという噂もあるところだ。闇組織が徹底的に排除されているという。


【獅子の咆哮】や【怠惰の蛇】さえ情報入手が困難だという領地だから、徹底的な管理社会なのだろうか? 不安と興味が絶えない土地だね。


 そこへ堂々と入る機会がある。


 それが今だ。


 魔族の侵入を許している時点で、警備が完璧であるとは言い難い。けれど懸念すべきはそこではない。闇組織ですら入れなかった領地に、魔族があっさり入っているってところだ。どうやって? そんなのがいっぱい居るのなら人間界は一瞬で終わる気がするね。でもそうではないと思う。


 勝手な推測だけれど、こんな芸当をやってのけるのは少数精鋭だろう。もしくは一人か。


 アングルメール。


 今の所、全部こいつの仕業だから。


 もしくはグループ? いや、信用できるかどうかはわからないけれど、「術者:」ってなってたから個人を指しているようにも思うし。実際グループだったとして、どんな表示になるのかも今の所わかってはいない。


「どうして9つあるんだろうね?」

「建国神話によればだが……古の魔法使いが伝説の鍛冶師と協力して作ったものとされているな。ルクセンを囲む領地が盟約を結ぶ証にと初代ルクセン王から贈られたってことしか俺もはっきりは知らない」


 コルトー公爵領で王の腕輪の、正確には金庫や部屋の確認をして病に倒れたのは誰だろう? ご子息か、その縁者? もしくはコルトー公爵領の管理を委ねられている伯爵か? 今の所推測することも出来ない。情報が入ってこないからね。


「ふーん。でもさ、キングブレスレットって言わなくて良くない? 国に王は一人なんだし。皆が装備してしまったら、9人の王ってことにならない?」


 コルトー公爵はこの国の宰相を務めているってジョージから教わった。領地にほとんど帰ることのない公爵が病に倒れたってことはないだろうけれど、厳重な金庫部屋に入ることのできる者は相当に位が高い者と考えていいはずだよね? フラクシスでは、長男長女が二人、未遂に終わったけれどドヌマンでは令嬢だったから。それにマサテュールでは公爵自ら確認に同席していたし。


「それは……前にシーダーが言ってた8つの国だったって事で納得するしかないんじゃないか? 盟約って言ってるわけだから、意外と対等な関係から始まったのかもしれないしな」

「うん、それはあり得るね」


 赤髪は手斧の手入れをしながら、途中で顔を上げて目を合わせたり、刃を真剣に見たり、柄の具合を確認しながら会話を成立させている。器用だよねぇ。馬車の中でやることがないっていうのもわかるんだけれど、武器の手入れをやるかね? 酔わないのか? そんな心配を他所にゲルトレイルは一本目のメンテナンスを完成させた。


 僕はリック、メリーヌ、ジョアンサにやってもらった石の投擲技術訓練を、弓でやろうと思い至る。【弓術】を【解錠】せずに、まずは自分でやってみようと考えた。ミーシアのように無理矢理こじ開けるやり方もあるけれど、自分の訓練のために自重した。孤児達を最初に見た時のように、また【獅子の咆哮】や【怠惰の蛇】の人間に選択肢が出たみたいに、僕にも選択肢が出るようにならないかなと思ったから。


 極々少量の魔力で作り上げた矢をつがえる。


 的は木の幹。


【投擲・上】持ちと一緒にはしないでもらおうか。あんなの比べても意味はない。こちとら純粋に【魔弓師】のもたらす恩恵だけの技術だ。期待しないでほしいね。といってもジョブはジョブ、一般人とは隔絶した壁があるのもまた事実。


 真ん中とは程遠いけれど、幹に当てることには成功した。馬車に揺られながらの射出だからと言い訳したところで意味もない。ギャラリーが少ないしね。当てられる事はわかったから、今度は精度を上げていこう。


 なんとなく木々の破損が環境破壊になるんじゃない的な思考に襲われたから、鳥を感知して狙いを変えることにした。


 といっても、そんなに鳥がわんさかいるわけでもないから、集中力の方が鍛えられていくような気がするね。感知能力、発見から射出までの緊張感、獲物を狙う視線などなど、様々な要素が絡んで、【狩人】や【弓師】の素質、【弓術】などのスキルって改めて凄いなって思った。



 -----



 コルトー大関所からは、窓のない締切の馬車に乗せられる。


 あー、景色すら見せないつもりなのか。徹底してるねぇ。僕が名誉職とは言え、爵位持ちだからという事で、VIP待遇という意味も兼ねているのだろうけれど、酷いね。旅行気分すら無くなるじゃん。


 城塞に入ってからようやく外に出ることが出来た。といってもまっすぐ通されるから結局なんにも見ることはない。見るのは壁だけ。つまらん。


 伯爵と思しき人に案内されてすぐさま地下の宝物庫へ。


 まずは言われない内に確認だ。


 金庫

 状態:【凍結】【連鎖】

 連鎖:呪い、祝福問わず、前術の効果を連鎖させ、触れた者から触れた者へと状態を繋げて広がりを見せる

 術者:アングルメール(魔族)


 なかなかにえげつないな……。【拡散】みたいな一回きりではなく、持続性があるんだろうね。全員が一気に呪いに侵されるわけではないから発見しにくいのに、触れた者は言わば感染してしまうってことだよね? しかも凍傷になるんだ? 


「サリア、リリア。準備をお願い」

「「ええ」」


 サリアラーラは詠唱を開始し、リリアリーリは相棒にポッケから出てきてもらう。


 そして、僕が鑑定眼で見た通りのことを、精霊と妖精が述べて終わり。実にあっけないミッションでしたと。


「では私達はこれにて」

「え…‥」

「まだなにか?」


 自己紹介すらなく挨拶もそこそこにこちらに連れてこられ、実に淡白な応対に少しイライラしていたりする。一応成り上がりとは言え、僕は伯爵位だ。この応対はないと思うから、コルトー公爵領の基質がどうあれ、用が済んだらさっさと撤退だね。


「依頼内容はここで終わりですね」


 僕はマサテュール公爵の依頼書を突き付けた。


「ここはかなり合理的な領地とお見受けしました。流石はコルトー公爵様の領地でございますね、わたくし感服いたしました。その皆様に習い、依頼を終えることが出来ましたのでここにいる理由がもうありません。それでは」


 さっさと踵を返し、案内されてきた道を颯爽と戻る。慌てた【虹色の翅】と【漆黒】の3人が付いて来た。貴族として来ているため、他領地にいる今彼らが僕に気安く話しかけることは出来ない。


「どうしたアレク?」


 右後ろにつけたゲルトレイルはこっそり僕に耳打ちしながら聞いてきた。


「きっと試されているんだと思う。だけどね、それに応える義理はないよ。ここではもう何もしない」


 きっぱりと言い切る。


「わかった」


 さっと赤髪は意図を汲み取って距離を元の位置に戻した。


 ジョージの依頼は確かに「呪いの特定」だ。最初はそれにちなんだ種々の問題も解決できるならしようと思っていた。それこそシェイナの嫁ぐ領地だから、ズキリと痛む胸も抑えて最善を叩き出そうと思ったりもした。


 依頼達成でジョージが目論む恩を売るのも最低限できたと思う。もっとできるけれど、調子に乗っていい場合とそうでない場合とがあると思うんだ。不義理に感じるかもしれないけれど、僕に対する応対は、代表できているんだからマサテュール領への応対と同じだ。一個人がした行動に過ぎないかもしれないけれどね。使節団に対する歓迎の仕方を考えてみればいい。


 明らかな失敗だと思わない?


 試されたんだとしてもコレはない。だから冒険者としての【虹色の翅】への対応だったんだろうね。名誉伯爵がいるってことは聞いてなかったのか? それなら仕方がないかもしれない。でも、それなら確認する必要もあるし、この時点で止めに来てもいいはずだ。


 0点だね。


 コルトー公爵領恐るるに足らず。


 誰が『凍傷』になっているのかももう興味がなくなった。


 マサテュール領舐めんな。


 城塞地下はいずれ実力行使で来てやる。





 城塞を出てすぐに僕たちは転移して我が家へ帰る。


 行きしなに得られた【弓術・下】だけが僕を癒やしてくれた。





お読みいただきありがとうございました。

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