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 イケメンが言った。


「ありがとう」


 ただそれだけなのに、歯がキランって輝いたような、効果音がしたようなそんな感じ。何やってもイケメンはイケメンというが、本当のことらしい。


 シェイナの弟、時期公爵だ。


 フェルフランダ・レ・フラクシス(17)

 スキル:【槍術・極】

 ジョブ:【槍士】


 ハイスペック。


 公爵家はなんかあるね。独自のジョブやスキルを操作でもしてるんじゃないか……。ずっこいな。


 病に臥せっていたはずのイケメンは、僕の【解錠】により、その毒の呪いから解かれるやいなや、颯爽と歩き出す。一応言ったんだよ? まだ寝てなさいって。聞きゃしなかったけれども。


 後ろに控える公爵家の面々と、【虹色】と【漆黒】をよそに、フェルフランダは僕に一振りのナイフを手渡してくる。公爵家の者たちが一瞬ざわついた。首を傾げると、イケメンは苦笑気味にその意味を話してくれる。


「紋章入りのナイフなんだけどね。君は命の恩人だから、これを贈ろうと思って。なにかの役に立つはずさ」


 爽やかに流されたセリフだったけれど、紋章入りのナイフの価値は非常に高い。この領地の伯爵達ですら、持っていないものの方が多数だ。公爵家の権威がコレにはある。


 例えば、このナイフ。商人がかざせば、貴族たちですら強権を行使することができなくなる。公爵家の上のものでなければ覆すことが出来ないくらいの、絶大な力。なにかの役に立つどころの話ではない。


 それを僕に?


「僕は時期公爵だ。順当になんにもミスをしなければね。でもそれは命あってのことさ」


 まぁ、つまり「お友だちの印」らしい。


 -----


 フラクシス公爵家を出て、今度は一度王都へ。それからコルトー公爵領へ行くことになっている。


 もしかしたらコルトー公爵家でも同じ様な事件が起きているのかもしれない。金庫に誰も近づけない状態なのだろう。誰かが調べて、呪いにかかった。そして、それを恐れて放置されているのかな。


 王都へ向かう馬車の中で、公爵たちが話していた内容を思い出していた。僕は自分の胸がすごく苦しい状態にあることを、今もってまだ受け入れたくないのだと、そう認めたくないのだと思っているところだ。


 これから向かうコルトー公爵家にシェイナが嫁ぐことになっているらしい。昔から決められていたことみたいで、言わば許嫁がいるのだとか……。


 貴族だから、自由にはいかないのだろうと思っていたけれど、これが現実だ。


 やはり身分違いの恋というものは成立する方がおかしいのだろう。


 名誉貴族になって、少しでも自分の可能性を考えたのか? 僕はこれほどショックを受けている自分に驚いていた。何を他人事のようにって、思うけれど。


 久しぶりに会ったシェイナが病気で、それを助けた自分。


 何を期待していたんだ?


 最初から決まっていた話に割り込めるとでも思っていたのか?


 シェイナに「好きだ」と言った浅はかな自分に嫌気が差した。シェイナの迷惑にしかならないことを僕はしたのだろう。そういう事に今更ながら気付かされた。穴があったら入りたいどころではない。


 どうにもならない現実を受け入れるのに、いったいどれほどの時間を要するのだろう。欲しいものは手に入れろ? なんとしてでも? それでどれだけの人が苦しみ、迷惑を被るのか考えた。答えは今の僕には出せそうにない。


 誰かが話しかけてくるけれど、生返事しか出せていない。


 思考がぐるぐると巡って、もう何を考えているのかわからなくなってきている。コルトー公爵領での金庫について考えていたと思ったら、シェイナ、フェルフランダ、フラクシス公爵それぞれの言葉が頭をよぎっては消えていく。


 ダメだ。


 ズキズキする胸と思考の渦に呑まれて僕の目の前は真っ暗になった。


 -----


 目を開けると、虚ろなサリアラーラの顔がすぐ目の前にあって驚く。


 眠っていたらしい。


 どこかの部屋のベットに横になっている自分と、僕の手を握って側の椅子に腰掛けてこちらを見ている彼女を不思議に思った。


「王都の宿ね。アレクセイ、馬車で気を失ったからびっくりしたのよ。気分はどう?」


 あいかわらず、察しのいいことで、僕の疑問はすぐに彼女の応えで解ける。


「そっか」


 伸びをしたかったけれど、サリアラーラの手が以外にも強く握られていたからそれは叶わなかった。


「サリアの方が疲れているように見えるけど、休んでない?」


 僕のことを看病していて、眠れていないのではないかと思い至る。少し会話した後、後ろに控えるメイド服に身を包んだ【漆黒】のクワトとヒカリに僕を任せてから、彼女は部屋を出ていった。


「アレ兄、大丈夫?」

「ああ、ごめんね、心配かけた」


 クワトとヒカリは僕と3人でいるときだけは気を許しているのか、とてもフレンドリーでいる。僕がそれを望んでいるのが一番大きい理由ではあるものの、彼女たちも僕を孤児院にいる時の兄のような存在だと思うことにしたらしい。いろいろな話をしてくれるようになっていて、気が緩むんだ。


「兄上、ちょっと言いたいことが……」

「……何かな?」


 改まった感じのクワトに警戒していると、それを感じ取ったのか、クワトはすぐに自分の緊張を少し解いた。器用な子だなと思う。親のご機嫌を感じ取る時のような、子供のあざとさのような、いたずらっ子のような表情に、僕の頬もちょっと緩む。


「サリア姉上ね……」

「うん……」


 ゴクリと唾を飲む。何を言い出すんだろう。二人は顔をまずお互いに見て頷きあった。


「「ぜんっぜん、怖くないじゃないですか!!」」

「あ~、うん、そうか、な?」


 騙された~、と二人で騒ぎ出す。


 一緒に旅をしている間に、サリアラーラの為人を知る機会がたくさんあり、彼女たちは打ち解けるのに時間はさほど必要としなかったんだって。サリアラーラが、世話してくれたことをとても感謝してくれて、優しくしてくれたそうだ。


 おお、なんか変な仕込みをして、罪悪感の方が後から後から襲ってくる。


 ごめんね、サリア。


 寝ぼけていたとは言え僕のことを好きだと言ってくれたサリアラーラ。


 応える事を恐れて逃げている自分。


 叶わぬ恋と分かっていてショックを受け、沈んでいる自分に嫌気がさす。自分の身勝手さ加減に吐き気がするほどだ。


 忘れたいのに忘れられない。


【鍵】による記憶施錠に頼る勇気もない。






 胸のモヤモヤと痛みを抱えながら、コルトー公爵領へと足を向けた。




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