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「何度見ても心臓に悪いな……」
ゲルトレイルが失礼なことを後ろで宣った。サリアラーラとリリアリーリもなんとなく頷きあっている。
ちゃんと解錠したから大丈夫なのに。
呪いの掛かった金庫の呪いをまず施錠。そして鑑定眼で確認して、状態施錠されているのを見る。
うん。
問題なし。
お次は王の腕輪だ。
キングブレスレット
装備者に状態異常無効をもたらす。
正常であることを確認。
でも、術者はなぜこのブレスレットには何も施さなかったのだろう。隠し補正でもあるのかな? 魔除け的な何かがあるのか? それとも状態異常無効が効いていて、このブレスレットには呪いも効かないのだろうか? その方が納得しやすいね。魔族には触れないとか? 金庫事態開けられなかったりしてね。
というと、これ装備してたら呪いにもかからないのか……。呪いも状態異常って言えばそうだよね?
「公爵、こちらは無事ですよ」
僕はキングブレスレットには触れずに、後ろで覗き込んでいるジョージに声をかけた。
公爵や子爵またお付の人たちは僕たちのやり取りを見て、ようやくそれはそれは深い深い呼吸をしている。息を止めていたのかもしれない。空気感染かどうかもわからないのにね。呪いなんて受けたこと無いからわからないけれど。こうブワーッと霧のようなものが出てきて、浴びると麻痺になるとか? 怖っ。
「そうか」
ジョージはほっとしている。就任したてでキングブレスレットに異変がありましたじゃ辛いものがあるもんね。どんな責任を取らされるのかわかったものじゃないし。
「どうします? 呪い、消しときますか?」
「できるのか!?」
「ええ、一応。ドヌマン公爵領ではやらなかったんですが、できるのはできます」
以前は相手が公爵ではなく、令嬢だった。だから自領の懇意にしている魔術師なり、聖職者なりに確認をしてもらうようお勧めしておいたからね。勝手にやってしまったら狂言とも取られかねないし。そう説明したら、ジョージやマシュラーン子爵は「賢明な判断」と褒めてくれた。やったね。
「では、頼んでもよいか?」
「ええ」
声に出すのはちょっと恥ずかしいから、今回は金庫に手を当てて静かに解錠を施した。金庫の呪いの状態は綺麗サッパリ無くなった。こいつに一工夫しておこう。
金庫
状態:【保存】【施錠】
単独でこの状態をキープさせておこうと思ったんだよ。ややこしいけれど、【保存】した状態の金庫に【施錠】して、このままをキープできるかな?
この説明は皆にはやめておこう。こうしておきました、なんて言ってあっさり破られたら目も当てられないし。
「じゃ、リンカーラと無の精霊に確認してもらいますか?」
リンカーラに目をやると頷いて僕の肩に移動してくる。妖精はほんと可愛い。
「うん。なんともない! 魔族の呪いと魔力はないよー!」
無属性精霊は羨ましそうにしていたけれど、サリアラーラの横に来て確認してくれた。
「確かに。何も感じない」
訛りを出さないね。フフ。
おお、と感嘆の声がみんなからあがる。ちらっとみたリックやメリーヌ、ジョアンサは尊敬の眼差しのようなキラキラした目を僕に向けていた。
9つあるというキングブレスレットはきっと無事だろうけれど、保管している金庫や部屋がもしかしたら何かされているんじゃない?
不用意に確認した人たちが状態異常をきたして、被害に遭っている可能性もあるのかもしれない。
魔物掃討戦の前に打たれたこの魔族の呪い。
何を意味する?
陽動?
何に対する?
考えてもわからない。
勇者召喚と関係があるのかないのか……。
そもそもキングブレスレットってなんのための装備品なんだろう。古の盟約ってことしかわからない。ルクセン王国と周りの8つの公爵領を繋ぐ大事なものであることは想像に固くはないけれど。
「アレクセイ・ヴァン・マグニアス名誉伯爵、ならびに【虹色の翅】。此度の功績誠に大儀だ。マサテュール公爵領の名誉を守ったそなたらの行いに報いよう。おって伝える」
「ハッ」
茶番感があるけれど、いっちょ跪いておこう。即座に【漆黒】の3人も続いた。流石クバイトさんに鍛えられた僕の騎士達だね。慌てたように赤髪と魔女も跪いた。
この呪い、明確な悪意が存在する。呪いの時点でそうではあるんだけれど、全領地に仕掛けられているのか? 部分的な嫌がらせの可能性もあるかもしれないけれど、そうすると魔族と組んでいる領地があるのか?
謎は深まるばかりだ。
僕たちが関わることでもないのかもしれないけれど。
各公爵が責任を持って対処すればいいだけの話ではあるよね?
この後何が待ち受けているのかがわからない以上、打つ手は特にない。
だけど、後手に回っている不安感と、何が起こるかわからない恐怖に怯えていたくはない。立てられない予測に振り回されたくもない。
「あの、公爵?」
「うむ」
「フラクシスのキングブレスレットも見てきましょうか?」
ふと、思った。シェイナのところが危険なら、そっちも対処しておきたいって。他は知らん。特に知り合いでもなければ、助ける義理もないし。
思案顔の公爵は僕と目を合わせる。
「うむ。もし頼めるなら、コルトーにも行ってもらえないか? 宰相殿に恩を売っておきたい。知らせはこちらでしておく。もちろん、無理にとは言わないが」
おお、まさかのコルトー公爵領。城塞地下に潜るいい機会かもしれない。あそこは情報が全く入らなかった領地だからね。
どうする? この機会を逃したら、城塞地下の八卦神門へのアクセスを最後に回して、なおかつ強硬手段で入らなければならない可能性もある。
「城塞地下に入る許可は取れますか?」
「無理だろうな」
即答である。なんでも、コルトー公爵領の地下は軍備の倉庫になっているらしく、堅く守られているのだとか。
はあ、無理かぁ。そんなにあっさりオーケーが出るとは思ってないけれど、即答で無理とかどうなの……。軍の秘密がたくさんあるんだろうね。どうやっていけばいいんだよ、八卦神門。
「わかりました。では公爵に段取りなどはお任せします。どちらから行きましょう?」
とりあえず、公爵が恩を売るのなら、なにかしら僕にもその機会は訪れるだろう。無理だとしても、コルトー公爵領に入る大義名分ができたと思えば儲けものなのかもしれない。ポジティブに考えよう。
「そうだな……早急に2領地に早馬を出す。宰相殿に判断を仰ぐとしようか。もし、確認していないのなら、手は出さないよう言っておこう。もちろん術士が対処している可能性もある。何もなければそれに越したこともないしな」
確かにそうだね。宰相やフラクシス公爵たちとどうやら会合をもっていたようで、そこでマサテュールの金庫も調べてみようってことになったみたいだから。もしかしたらもう対処済みかもしれないし。
「では、僕たちはこれで失礼します」
2領地からの返事は早く、まずはフラクシス公爵領へと行くことになった。
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