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 例えるならアレだ。スキルボタンが一つしか無いゲームのコントローラーと、キーパットがたくさんあるゲーム画面との差だね。ファミコンとプレステのボタンの数の差とか?


 何かって?


 リックとゲルトレイルの差だよ。


 今、城塞街にある宿をとったんだけれど、暇に任せて庭で模擬戦しているところなんだよね。それで、ゲルトレイルが一方的にやられているところなんだ。致し方なし。


 一つのスキルに一つのジョブ。最早通説と言っていいこの世界の、正確にはこのルクセン王国の理だ。


 魔族には多数のスキルがあったし、この国以外ではもしかしたらもっと多くのスキルを持つ国もあるのかもしれない。この世界がどんなものかは全然わからないけれど、国境を越えればそれもわかるんだろうか?


「強いな……」


 赤髪は【斧術・上】の【戦士】だから、この国のレベルでは相当強いはずだ。近衛騎士にも負けないくらいの強さはあると思っていい。でもリックに防戦一方だし、手も足も出ない様子には驚かされる。


 ゲルトレイルは経験を活かした攻撃に転じようとしているけれど、リックはそれをさせないように立ち回っていた。攻撃するスキさえ与えないように動き回っている。バックステップで距離を開けたと思ったら拾った石で足を狙ったり、振りかぶろうとしたところを斧の柄に剣を当てるとか。なにその技!?


「はい、そこまで!」


 リリアリーリが元気よく終わりの合図を叫ぶ。


「「ありがとうございました」」


 お互い握手を交わしてお礼を言い合う。戦闘職同士の固い絆が結ばれた瞬間なのかな? いや、知らんけど。


「手も足も出なかったな……」


 悔しそうだ。


 年下だしね、彼からしたら5つ下にボロ負けだから。でもゲルトレイルはこの国の理不尽をよく知っている。僕からしたら到底受け入れられない現実をちゃんと理解しているから。


 スキルとジョブで全てが決まる。


 クソだよね。


 だから僕はあの言葉を贈ろう。


「ゲルト……力が欲しいか? ブフッ」


 いかん、言ってて自分で笑えてきた。なんだろうね? この言葉を口にすると、いや口にする機会があったことにまず笑える。


 ゲルトレイルはバカにされたと思ったのか、だんまりでショックを受けているようだった。あちゃ、メンタル弱いの忘れてた。


 ミーシアに教えてもらった適性、努力で得られるはずの才能の扉をイメージする。ゲルトレイルに強くなってもらおう。


『【双剣術】を解錠しますか? はい/いいえ』


 はいを選択。


『【斧術】と【双剣術】取得により、スキルを【双斧術】に変更可能です。解錠(アンロック)しますか? はい/いいえ』


 あ、面白そう! はいを選択。


「なっ!?」


 きっとゲルトレイルには【双斧術】という訳のわからないスキルがインストールされて、各技なんかがダウンロードされているんだろうね……。これ8人分やったから僕もだいぶ慣れてきたもんだ。


 さあ、どうだろう、これでリックとどれくらい戦えるだろうね? まだまだ及ばないとは思うけど。スキルの量が違うからなぁ。


 もうゲルトレイルは実験要員ということで徐々に強くしていこう。なんかごめんね? いいよね? 強くなれるし?


 もともとゲルトレイルは仕込み斧とか、斧いっぱい持ってるから、左右に斧持ったらどうなるんだろう。だいたい双剣って力が分散される分、現実的には強くないんだよね? 手数とか速さ重視なら何となく分かるけれど。


【身体強化】なんてのも付けてみようか? 力の分散気にしなくて良くない? うん、素敵な提案だね。よし赤髪よ、そなたに力をやろう! ブフッ。いかんいかん、平常心ダイジだよ、アレクセイ。笑いに耐えるべし!


【槍術・極】とか【棒術・極】とか、公爵様達のスキルがえげつないくらい強いから、対抗できるくらいの力は持っておきたいよね。いざ、対面して拘束されたじゃ目も当てられないし。彼らの慢心をへし折ってあげられる力を手にしておかないと。自由が脅かされるのはもう御免こうむりたい。


「リック。悪いけど、もう一回やってあげて」


 僕は少し好戦的に目を上げたゲルトレイルのためにリックに再戦を申し入れてあげた。獰猛な目付きをした二人の野獣がまた相まみえる。


 本来のハルバートをやめて、肩に潜めていた投斧を両肩から取り出して、ゲルトレイルはいつも以上に口端をあげた。勝算でもあるのだろうか? 【軍師】がこれまでに経験した事を踏まえた作戦を彼に導いているのかもしれない。


【総斧術】が火を吹いた。


【身体強化】も相まって、リックは斧を弾くことは出来ず、受け流すので精一杯になっている。受け流すこと事態がもう凄いんだけど。


 まぁでも、コントローラーにボタンが急に1つ2つ増えたところで、ゲーム機のスペックが違うんだから結果はしょうがない。ジョブでさえリックにはたくさんあるんだからどれだけ頑張っても赤髪には勝ち目はないよね?


 あれ? そうでもないの?


 うん、そうだよね?


 やっぱり数が物を言うんだよ。


 この世界の理不尽が嫌いだ。


 僕は大の字になって寝転んでいる斧戦士を見下ろしてそう思った。



 -----



「アニキ……ゲルトのアニキが急に強くなったんですけど……」


 不思議そうに尋ねてきたリックを一瞬理解できなかった。だけど合点がいく。


「ミーシアだけの力だと思ったかい? あの子が言ってたろ? 『わたしから直接強くしてもらったと思ってますか? 違いますよ?』って。まあ正確に覚えてないけどさ。そんなこと言ってたと思うけど?」


「言ってました……」


 はぁ、クバイトさん強くしたの僕なんだけどなぁ。直接見てないから仕方ないとは言え、彼女がこっそり帰る前に施していったんだろうって言うのが今までの彼ら【漆黒の翅】の共通認識のようだった。


 いいけどさ。


 リックは跪きそうなくらい目をキラキラさせていた。そんな目は向けなくてよろしい。


「この力ね……」


「……はい」


 ちょっと溜める。


「奪うことも可能なんだよ。やってみようか?」


「え……」


「正確には消す? いや止める? 失くす? そんな感じ」


 少年は怯えた。与えられた能力が無くなることを想像したのかもしれない。実際、地下通路で【スキル】【ジョブ】を消された経験があるからね。あれを体験したら、もう恐怖しかおきない。


『リックの全能力を施錠(ロック)しますか? はい/いいえ』


 はいを選択。


 すぐに解錠(アンロック)


 僕はリックの肩をポンと叩いた。


「皆にも内緒だよ?」


 僕はこれみよがしにニヤッと笑った。


 何を思ったのかはわからないけれど、リックは首が取れるんじゃないかってくらいに何度も首を縦に振った。脳震盪起こさないか心配だなぁ。



 -----



 晩の食事は魔女二人と一緒に3人で食べた。ゲルトレイルは疲れで部屋で食べるようにしたし、リックもそれに付き合うようだった。メリーヌとジョアンサは護衛として隣の席に座って食べている。


 一応彼女たちが食べ終わらないと部屋には戻れないから雑談を楽しむことにしようかな。僕たちが席を立つと、きっと悲しい顔で食べ物を後にするんだろうしね。


「あの、アレクセイ」

「うん」


 もじもじしているサリアラーラを見ると、精霊界を思い出すから控えてほしいなぁなんて思っているんだけれど、お互い様かもしれない。


「貴族になって、大変なことにならない?」


 彼女の心配はもっともだね。だけど「名誉貴族」のシステムをジョージから教わったように話してあげたら、安堵のため息が聞こえた。本当に心配してくれていることに胸が熱くなる。


「これからは王族にも邪魔はできなくなるって思えば少しは楽になったよ」


 二人共、僕が追い出された時の事を思い出したようで、苦い顔をしている。でももう終わったことだ。そんな顔しないで欲しい。僕がそうさせたんだけど。


「でもさ、やっと【虹色の翅】復活だね。こうやってみんなと出かけるの楽しみにしてたんだ」


 嬉しいよ。そう言うと彼女たちは今日一番の笑顔を向けてくれた。


 うん、この顔が見たかった。


「サリア、リリア。心配かけたね。それにちゃんと帰ってきてくれてありがと……ま、サリアはぜんぜん起きなかったけど」


「……台無し。さっきの涙返して」

「アハハ。アレクらしいねぇ」


 二人はすぐには涙をこぼさなかったけれど、いっぱいに雫を瞳にためている。感動した瞬間に落とす。湿っぽいの嫌いだし。




 キラリと頬を伝った水晶はとても美しかった。




お読みいただきありがとうございました。

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