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四人で卓を囲っている。久しぶりの面々だ。朝食を摂っていたんだけれど。あれだ、周りはいつもとは違う。執事やメイドがいるからね。僕にとってはいつもどおりの風景に【虹色の翅】が加わった形になるんだよね。うーん。表現が難しい。
「いつも」って言うのが、僕の今の環境で言うならその通りなんだけど、【虹色の翅】と一緒のときが「いつもどおりの風景」と表現するならば、周りの環境が違うことになる。どっちにしろ僕にとっては両方がいつもの風景になるんじゃないかな?
【虹色の翅】と【漆黒の翅】がそれぞれ違和感を感じているだけで、僕にとってはまぁ、いつもどおりってこと。
「なんだか、居心地が微妙だな。俺達一般人なのに給仕を受けるってのは……」
「慣れるしかないよ? 頑張ってね。僕はこれ一人でやらされてたからね?」
【漆黒の翅】の面々が吹き出しそうでいる。僕がやーやー言って、なんとか食堂でみんなと食べたいって駄々こねたのを思い出しているのかもしれない。ちらっとクバイトさんに目をやると、やっぱり苦笑していた。予想通りである。
「今じゃ、お貴族様の一員だからそう言っていられないのが残念でならないよ」
「え? 貴族? アレクセイが?」
そう言えば、サリアラーラは寝てたんだっけ? 掻い摘んで成り行きを話したら唖然とされた。まぁ、僕も同じ立場ならそうなっただろうな。
「それでね、マサテュール公爵、前のマグニアス伯爵から僕たちに依頼があってね」
そう切り出すと3人は僕の顔を一斉に見る。それを確認してから言った。
「地下の宝物庫のキングブレスレットの状態を確認してほしいんだって。【魔女】達に。できれば妖精と精霊に協力を願いたいらしい。リンカーラと……しゃぼんに頼む。というか、しゃぼんにできんのかな?」
「おっけー。まかせてー」
「アレクさん、うちをなんやとおもってんの!? 状態確認でしょ?」
心外やわぁ、なんてうるさく騒いでいる中位精霊。中位精霊のしゃぼんとリンカーラの邂逅はすでに済んでおり、二人は仲良く過ごすことが出来ているようだ。主にしゃぼんがリンカーラをかなり慕っており、妖精はまんざらでもないようだった。精霊曰く、「うち、可愛いものには目がないんよ?」とのこと。それでいて日本の過去の偏った知識がしゃぼんを「妖精最高」と思わせているようだった。なんでも、緑の服の少年とワニが嫌いな海賊の物語が大好きらしい。それでリンカーラの事をリン姉さんと呼んでいる。
しゃぼんは光の精霊と違っていつも人型でいられるようだ。残念でならない。うるさいのがずっと続くってことだよね? なんでも、サリアラーラの魔力のほんの一欠片を貰うだけで、一日中人型でいられるらしい。
ピンポンのスペックが高すぎたみたいだ。いや、外車とエコカーの違いよりはっきりとした位階の差が出ているみたい。サリアラーラの魔力量が桁違いなのか、ピンポンの規格外っぷりに驚けばいいのかよくわからない。しゃぼんに言わせれば『「光の」が異常』とのことらしい。
確かにピンポンが人型に顕現した時は、畏怖するほどのオーラを感じたけれど、しゃぼんにはなんにも感じない。いや、おしゃべりが台無しにしているだけで、オーラが無いわけではないのかな? まぁ、とにかく残念ではある。
「あと、護衛として【漆黒】から3人連れて行くから」
そう言ってからクバイトさんに目を向けた。彼は頷きを返すだけ。もう段取りが頭にあるに違いない。流石です。今は全員がこの部屋にいるから、執事長特異のベルは鳴らない。基本的に食事中には主に言葉を使わないのが、彼らのルールらしい。返事はするけれど発言は許可なくしない。完全に貴族に対する応対だね。ダメって言ったのに……食事中は例外なんだって。なんだよ~そのこだわりは。どっちが主かわかったもんじゃないよね?
リンカーラは相変わらず僕の方に乗り耳たぶをつり革のようにして掴んでいる。めちゃくちゃ羨ましそうにしているしゃぼんにはお断りした。耳元がうるさいの嫌だし。そう言ったら泣かれた。慰めはサリアラーラから貰うといい。
しゃぼんはしょんぼりサリアラーラの肩に座っている。
だけど、【漆黒の翅】には大人気だ。僕だけが見て喋れたのに、サリアラーラと契約したおかげで、顕現することが叶ったから見て話せて喜んでいる。
「そういうわけだから、これからマサテュール城塞に行くことになるよ」
全員が頷いた。
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城塞には転移で飛べるものの、滞在場所もないから馬車で行くしか無い。幌付きの大型の馬車で7人全員が乗れたのには驚いた。幌付きといっても上側だけ、つまりタープみたいな屋根のついた馬車だ。周りは見放題。見晴らし最高だね。襲撃に遭ってもまぁ対処しやすい作りで安心。
今回護衛としてついてきたのはリック、メリーヌ、ジョアンサ。どうやら何らかのゲームで勝利した3人のようだ。詳細は教えてはもらえなかったけれど。みんな口を揃えて「大した事ではない」と言う。なんだよ、勿体つけて。
カタコトと揺られ馬車はまっすぐに城塞街へと進む。
城塞はマサテュール領の中心地だ。
各8大公爵家の城塞は必ずその中心に位置する。中央へ直線上にある関所が、王都の門と繋がっていて、王都から8方向へ均等に配列されている。気持ち悪いくらい均整の取れた作りだ。街道も当然真っ直ぐに敷かれている。
「リック。この石でさ、あの木の枝の付け根に当てられる?」
僕は手に持っていた石を軽く上に上げながら【投術】を最初に【上】にまでのしあげたリックに、街道沿いの大きめの木を指しながら話しかけた。
全員が興味深そうにこちらを見る。リックは「任せて」と言わんばかりに僕の石を受け取ろうと構えた。下から放物線を描くように彼に投げる。リックは受け取った瞬間に反応した。すぐにモーションに入って、腕を振り抜く。
カコン。
小気味良い音がした。
ほう。と感心の声が上がってリックは満足気に座り直す。受け取った手を後ろにやってからすぐに振り抜いて、手から放たれた石は、見事に僕の指定した木の枝の付け根に当たっている。【投術・上】は伊達じゃなかった。
「流石だねぇ、リック」
殊の外嬉しそうにしているリックを見て、メリーヌとジョアンサがそわそわしだした。なんか対抗意識がふつふつと出てきている気がする。面白いから彼女たちにもやってもらおうかな?
「二人もやってみる?」
嬉々として応じる二人にも同じような石を、馬車から飛び降りて取りに行かせて、また乗り込ませる。途中軽くなったのを感じて馬がヒンっていなったけれどお構いなしだ。飛び乗ったらまたヒンといなないた。御者のおじさんが首を傾げてこちらを向いた時には全員で何事もなかったかのようにすました顔をしておいた。
身体能力が人間離れしている【漆黒の翅】の面々にはこれくらいの技は朝飯前にやってのけるからなんとも思わなかったけれど、赤髪と魔女たちはびっくりしている。普段のメイドぶりや執事然とした態度とはかけ離れた動きだからね。致し方なし。
僕が指定した木の両サイドに生えでた枝の付け根を指差すと、二人は自分たち寄りの枝をアイコンタクトで決め、投げる。
カコンカコン。
ほぼ同時に当たった石も、わずかながらに時間差を生じさせて伝わる。音は正確だ。二人共にピタリと当てて、ドヤ顔をリックに向けた。リックはどこで覚えたのかクバイト式の表情ができるようになっていて、少しだけ口端をあげる。
「見事ね」
短くサリアラーラが感嘆の声をあげたのを聞いて、メリーヌとジョアンサはお互いを見てからはにかんだ。うん、可愛い顔もできるようで安心だね。
「あの、アニキ。これになんの意味があるんですか?」
なんの意味があるんだろうね? さぁ? って首を傾げておいた。
「君たちが知らなくてもいいことだよ」
意味深に言葉を残しておくことも忘れない。これを聞いた【漆黒】の3人はなんとも言えない奇妙なものを感じたらしく、顔色を青くした。
いや、ただの意趣返しだよ? 付いてくる3人をどうやって選んだか教えてくれないから、僕もなんか気になることをやって、教えてあげないというね? 器が小さいって? フフ。なんとでも言うといいよ。
「彼ら凄いでしょ? 自慢の騎士たちだよ」
実はちょっとでも【虹色の翅】に彼らを知ってもらおうと思ってデモンストレーションというか、紹介をしたかったんだよ。彼らは護衛として実力がありますよっていう。はっきり言って僕たちより遥かに強いからね。
僕も【解錠】していけばいいんだけど、なんとなく自分に施す事に戸惑いを覚えるというか。やるとは思うんだけど。
まだまだ続く道のりを色々なことを訓練として、スキル磨きを続ける【漆黒】の純粋さも見習いたいものだ。最初は感心し通しだった僕らもだんだん感化を受け始めた。
さて、もうすぐ城塞に着くね。
キングブレスレットはいったいどういう状況下にあるんだろう?
お読みいただきありがとうございました。




