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本日2話目
よく知る天井を見上げる。いや、目を開ければ自然に写ったのが我が家の天井。と言っても魔女の部屋のだけれどね。
リリアリーリとクワト、ヒカリが心配そうに顔を覗かせたのがわかった。
「やぁ、おはよう」
寝ていたわけではないから、すぐにおはようってのもおかしなことだけれど、まぁ挨拶は大事だし?
「アレク!?」
「アレ兄」
「兄上」
心配顔で三者の視線が降ってきた。
「お姉ちゃんは!?」
リリアリーリはゆっくりと起き上がった僕の肩をしっかりと掴んでいる。地味に痛いから離してほしいなぁ。
「それが……」
微妙顔で応対すると、3人が真っ青になる。
「いや、リリア。無事だよ……もうすぐ目を覚ますと思う」
だったらどうして!? という顔だ。どうしたらいいかわからない微妙な表情なのがどうも疑念を生じさせている。
「何があったの!?」
「うーん……僕のいないところで本人に聞いてくれる? とにかく無事だよ」
意味深な言葉を残して僕は立ち上がった。だってねぇ……寝ぼけてたとは言え、ねぇ?
サリアラーラを助けるべく精霊界へ行く時に、僕の体はサリアラーラの横に寝かせられたらしい。そして、彼女とおんなじ症状で寝ていたみたいで、3人をとても不安にさせていたようだ。
だけど、時間はそんなに経っていないと思う。
サリアラーラが起きた時に寝ていた弊害が出ないといいんだけど。
「クワト、ヒカリ。どっちでもいいんだけど、もうすぐ目を覚ますと思うから、食事と聖女をここにお願いできる?」
呼ばれた二人は一瞬お互いを見て頷き、すぐに応じてくれた。すばやく部屋を出て駆け出していく。廊下は走るなって言葉が届くよりも前にもういない。打ち合わせなくてもアイコンタクトでどっちが何をするのか判断ができているんだろうか? 不思議だよねぇ、孤児コミュニティの連帯感半端ねぇ。
「リリア、あのさ」
「うん……」
まだ不安そうなリリアリーリを見て思う。姉妹愛って凄いなぁ。僕はそこまでの関係を姉と築いてきただろうか? 姉は僕を大事にしてくれていた。魔物掃討戦から追い出すくらいには心配してくれているのはわかったし。相互理解は出来ていないけれどね。
「めちゃくちゃうるさい精霊と契約して、サリアが解除せずに帰ってきたら、きっと賑やかになるよ。リンカーラは大丈夫かな?」
「そう……どうだろぅ? ねぇ、リン? 精霊と仲良くできそう?」
「わからなーい。でもー。あの子、リリアに嫌われたくないって言ってたから大丈夫かもー。妖精魔法士見ても忌避感示さなかったからー。いいヤツー?」
おお、意外にちゃんとした答えだな。ポッケに隠れていたとは言えしっかり対応は聞いていたみたいだ。
「そうなの?」
「うんー。だから様子見てみるー。『光の』よりはいいと思うよー」
仲良くできるならそれに越したことはないね。ピンポンにはついぞ会うことはなかったけれど、彼よりはまともな関係が築かれることを願おうか。うるさいんだけどなぁ。
「アレク、精霊界でお姉ちゃんとケンカでもした?」
首を振っておく。逆だなんて言えない。彼女が目を覚ますより前にこの部屋を出よう。お互い恥ずかしくていたたまれなくなるに違いない。サリアラーラは寝ぼけてたから、僕だけが気まずくなるかもしれないけれど。
「とにかく、僕はもう行くよ」
部屋を出て、ドアを閉めるその時に聞こえた「なんであんなに顔を真赤にしてるんだろう? 何かに怒ってる?」という言葉に救われる。そう思っておいてもらおう。
呼ばれてサリアラーラの部屋へと向かう聖女リナフレアと対面して「よろしく」頼んですれ違ってから、僕は自室へと辿り着いた。そっとドアを閉める。
サリアラーラが無事でよかった。
力が抜けてドアの前で尻餅をついた。そのまま三角座りをしてぼーっとする。
やっと【虹色の翅】で活動再開できると思うと顔がなんとなくニヤけているのがわかった。そっか。僕の居場所はちゃんと【虹色の翅】だったんだなぁって実感が湧いてくる。
しばらくこのままの姿勢で寝ていたみたいだ。体中が痛い。三角座りのまま寝るなんて初めての経験かも。
ドアのノックでハッと目が覚めた。
「アレク」
赤髪だ。
「何やってるんだ?」
ぎこちない動きで部屋に招き入れたからゲルトレイルには奇行に映ったみたいだ。解せん。体がギシギシいっている。
「変な姿勢で寝ちゃってさ、ちょっと辛い」
「そうか」
帰ってきてからゲルトレイルと二人で話す機会がなかったから、本当に久しぶりな気がするね。苦笑しているゲルトレイルはなんとなく安堵している雰囲気だった。
「アレク……すまなかった。それとまた助けてくれたな、ありがとな」
「っ!? ……そういう事言っちゃダメだよ」
目頭が熱くなる。わずかに滲んだ視界をゲルトレイルは見ないように目を逸らしてくれた。この体はなんでこうも涙もろいんだろうね……。
ゲルトレイルは僕が王都を追い出されてからのことをポツポツと話してくれた。
【鷹の爪】との連携がとても勉強になったこと。【斧術】が【上】になったこと。【虹色の翅】が必死だったこと。僕をいつも案じてくれていたこと。魔族との厳しい戦い。
僕も自分にあったことを話す。
帰ってきてたらこの家の執事が戻されて公爵から遣わされていたこと。呼び出されて孤児達を連れてきたこと。彼らに【スキル】をあげたこと。王都に伯爵軍として参加したこと。名誉伯爵になったこと。これは皆に公言したから知ってることだけど。
そして……。
「もうすぐサリアが目を覚ますと思う」
「!? ほんとか!? それは良かった」
心底安堵しているゲルトレイルを見て、僕もなんとなく実感が湧いてくる。そっか、生身のサリアラーラともうすぐ会える。
そう思うと顔がまた熱くなっていくような……いかん、平常心、平常心。
「彼女には随分助けられたからな。あんな状態じゃ感謝も伝えられないし。やっぱり【魔女】は強いな」
ちょっとした尊敬の声音も混じっている。最後の最後まで立っていた彼女の姿は皆の印象にかなり残っているみたいだ。
療養という形で僕たちの活動はしばらく休みだ。この家に慣れることと、この家の者たちに慣れることと、【鷹の爪】のサポートでもしようか、という話に納まっている。彼らはマサテュール公爵領にあるダンジョンに挑むようだから、時々駆り出されることもあるみたいだしね。楽しみにしていよう。
そう思っていたけれど、そんな休養期間も束の間。
王都から戻った公爵からお呼び出しがかかる。
ジョージには報告してなかったんだけれど、キングブレスレットについての依頼が僕たち【虹色の翅】に届いた。
忙しくなりそうな予感だ。
お読みいただきありがとうございました。




