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「それで『勇者』達はどんな者たちだ?」
40十代半ばの4人の男たちが、低い長テーブルを囲うようにセットされたソファに深々と腰を落とし、話し込んでいた。
王城の宰相執務室。
コルトー公爵の仕事部屋であり、国の中枢と言っても過言でない、正に王国の核とも言える部屋である。
そこには公爵家の半分が、すなわち4大公爵が揃っていた。
コルトー公爵。
フラクシス公爵。
ドヌマン公爵。
そして、新マサテュール公爵。
ルクセン王国第一王女によって【召喚】され、早速その力を見せつけた『勇者』達についての情報収集の場である。と言っても、宰相がわざわざ彼ら、3大公爵を呼びつけての会合だ。
「彼らは15歳の少年2人と少女の3人だ。全員黒い髪で、黒目だな。ほっそりした背の高い男と、中肉中背の小さめの男、その男と同じくらいの身長の女。全員目鼻立の整った者たちだ」
コルトー公爵が信頼を寄せるフラクシス公爵とドヌマン公爵、そしてフラクシス公爵が最も信頼している他領の貴族、ジョージ・レ・マサテュール公爵。彼らを呼んでの会合は今回が初めて。国の8大貴族の半分が個人の招集で一同に介することなど、これまでに無い出来事である。
不可解なことが多すぎた。
「勇者召喚」に「失踪した王子2人と全滅の騎士団」、「崩壊した冒険者ギルド本部」など、国の一大事が一気に押し寄せてきた。もちろん先に押し寄せてきたのは魔物と魔族だが。
「彼らのスキルやジョブは公開する事はできないが、まず間違いなく【勇者】はいる」
宰相は断言した。
直接見たわけではないものの、魔族への倒し方、対処法、繰り出されたスキルなどの報告から、伝承や歴史書、王家の記録を調べさせた。そして一致する勇者の情報を持って、確信へと変わる。
召喚された者たちを『勇者』とするものの、ジョブとしての【勇者】がいるのかどうかはわからなかった。70年前に起動され、つい最近、正確に発動した召喚陣からの魔法。
発動者は皮肉にも王がその権威を生まれたときから削いでいた第一王女だ。
国は第一王子か第二王子が継ぐはずだった。彼らを競わせて優れた方を国王にする方針が暗黙の了解で流れていた。それが覆されることになるなど、だれも予想できる者はいなかったに違いない。
血眼になって王子を捜索させているものの、希望薄だろう。それほどの凄惨な情景だったと見た者たちは口をそろえる。騎士や冒険者たち、王国兵士のみならず、多くの魔石に魔族の屍。皮肉にも魔石が残ったのが不幸中の幸いだった。損害に比べれば大した利益にもならないが、無いよりはましという。
勇者たちの今後の活動や、立ち位置などを聞かされ、3大公爵たちはある程度納得済みだ。予想の範疇に入るからだ。
「それで宰相殿、いやコルトー公爵」
ある程度の話し合いが済み、解散間近になってからドヌマン公爵は意見があるという難しい顔をしながら発言を試みた。
「なんだ?」
宰相と呼びかけながらも訂正して「公爵」と言い直す辺り、対等な立場での話がこれから行われるのだと、誰もが理解できた。
「キングブレスレットだが……お前たちのところは無事か?」
問われたコルトー公爵だけでなく、3人をも見渡してドヌマン公爵は少し眉間にシワを寄せる。
「どういう意味だ?」
娘からの情報だが、という前置きをしてからドヌマン公爵は切り出した。
「地下の宝物庫の金庫に、魔族の呪いが掛けられていた。魔物の襲撃直前にな。あっさり侵入されるだけでなく、呪いまで掛けられていた。この意味がわかるか?」
深妙な顔で全員が視線を交互に合わせる。
「魔物の侵入という観点で言うなら、デラーマで起こっているゴブリンのダンジョン拡張でわかるし、デラーマで魔族の侵入ならわからんでもない。だが、うちに侵入できたことが不思議でならん。地下には一匹たりとも魔物などおらんしな、今の所」
お前たちのキングブレスレットは無事なのか? そう問いかけられて、全員は僅かな冷や汗を感じる。確認しなければわからない。普段はレプリカを装着しているから、本物の状況などほとんど見ることはない。
「こいつが劣化してきてな……新しく新調するために開けようとしたんだが、呪いがかかっていることがわかった。精霊術士の契約精霊や妖精魔法士の妖精が時間や種類を言い当ててくれてわかったことだが、ぞっとしたぞ」
マサテュール公爵は話の流れでなんとなくアレクセイの影を感じた。ドヌマン公爵領へ行っていたなんて報告はなかったが、彼らは冒険者だ。何をしていてもおかしくはない。彼のパーティーメンバーには【魔女】が二人もいるし、そういうことだと瞬時に思いついた。彼らにマサテュール地下の宝物庫に眠るキングブレスレットの状態を確認してもらうことを脳の隅に置いておく。
「もしかしたら、全公爵領のキングブレスレットはすでに何らかの罠が掛けられているのではないか?」
「ドヌマン公爵、情報に感謝する」
コルトー公爵は「困ったことになった」と人差し指でこめかみをトントンと叩いている。きっと他領への情報開示の方法を宰相としてどうするか考えているのだろう。
不穏な影を感じて幕を下ろした公爵達の会合。
狙われた王の腕輪。
ルクセン王国を静かに転覆させる楔なのか……。
3人の公爵達は各々が自領の対策を考えるべく、それぞれの持場へと帰っていった。




