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今章エピローグ

 

 深い眠りから覚めたような、夢見心地がする。


「サリア……」


 わたしを呼ぶ愛しい声に歓喜の震えがした。随分長くこの声を聞いていなかったと思う。聞きたくて聞きたくて堪らなかった声。


 でも、目を開けたそこは、精霊との絆が途絶えた場所と同じだった。涙がこみ上げて、自然に両脇へと流れていく。ああ、寝てる状態なのか、とぼんやり思った。


 魔族との戦いで、ついにわたしの魔力は底をついてしまった。後悔していないかと問われれば、返答には困る。精霊との約束を破る結果になったから。だけど、最後まで立っていたわたしにはああする他なかった。結局魔族の手にかかってわたしは……。


 あれ?


 生きてる?


 契約が切れたのはいつ?


 わからない。


 でも、魔族との戦いで枯渇した魔力のせいで契約は終わった。それは間違いない。





 次々と倒れていく仲間に恐怖した。


 魔法による攻撃は確かに魔族に効いていたのに、戦況は芳しくない。張られたマジックシールドの効果が、聖女リナフレア様の疲労具合で徐々に弱まっていく。彼女が膝をついた時、魔族の猛攻は苛烈を極めた。


 聖女を守る位置にいた、才賢のライバーと疾風のエチュレーラが奮闘し、魔族の一人をかなりの程度削ったのが功を奏した。


 リリーとゲルトは魔法と、投斧で援護射撃していたものの、前衛を突破した魔族の一人に吹き飛ばされてしまう。中間にいたわたしを飛び越えていった魔族の敗因はわたしに背を向けることになったこと。


 最後の一人がとても強く、抵抗も激しさを増していく。でも負ける気はしなかった。流石王都が誇るランクA冒険者だ、頼もしい。最強の剣士と名高いドレクスラーと鉄壁のディーバの連携は素晴らしく、あと少しでこの戦いも終わる。


 そんな確信めいた感覚は誰も否定できなかっただろう。眼の前の魔族にさえ。


 変化は突然やってくる。


 膨大な光の奔流が通路を駆け抜けていったと思ったら、力が抜けた。


【スキル】と【ジョブ】の効果が無くなった。恩恵が突然受けられなくなり、体が急に重りを付けられたかのように鈍くなるのが嫌でもわかる。


 まずいと思った。


 だけど、魔族もまた力を失っている様子。怒り具合が相当だった。


 力と力のぶつかり合い。人と魔族の間で拮抗していた、いや、若干押していた状況は逆転された。攻撃を反らせていた技も、回避できていた立ち回りも、スキルの力を失った人間には最早、意味をなしていなかった。


 ディーバが倒れ、ドレクスラーが膝をついて意識を失った。後はわたしの魔法だけ……。内包する魔力のみの魔法しか使えない。


 ありったけの魔力を叩き込んでわたしは……。





『よくがんばったね、サリア』


 優しい声がする。


 目の前には優しく微笑む愛しい人。


 違うよ、アレクセイ。わたしは最後まで貴方を守れなかった。


 いつもわたしを助けてくれるこの人の瞳からそれは綺麗な雫が流れてる。


 どうしたの?


 夢の中のアレクセイが泣いている。


 先立つわたしを痛んでくれてるの?


 ありがとう。


 最後に貴方に逢えてよかった。


 最後があんなのじゃ、嫌だったから。


 もう一度逢えたら言おうと思ってた事があるんだ。


 聞いてくれる?


「あのね、アレクセイ」


『うん』


 もう叶うことのない夢。


 貴方と過ごす未来。


 全てを捧げると誓った過去。


 果たせない約束。


 もう何も残らないわたしの日々。


 せめて伝えたかったこの想い。


「わたしは、あなたが好き」


 どうしてそんなに驚いているの?


『お、ぉぅ……その、ありがと?』


 夢でもこの反応なのかぁ。アレクセイらしいね。


 フフフ。


『しゃぼん! 笑ってないで早く僕を戻せ』


 え?


 しゃぼん?


 戻せ?


 わたしの中の血がサーッと引いていくのがわかった……。


 え?


 うそ!?


 わたし今なんて言った?





『えーっとおはようございます? サリアさん?』


 目の前にはとても可愛らしい精霊がフヨフヨとわたしの目の前にいる。光の精霊ジームス・エドウィル・リーバインととても良く似た背格好だったからすぐにわかった。光沢のある黒い髪が印象的だけど、目もパッチリ開いていて少しタレたところが目を引く女の子。


「おはよう?」


『気分はええの?』


「えっと……わたし生きてるの?」


『ばっちり生きてるやん。さっきまで縛られてたんやけど……。起き明けにいきなり告白とか聞かされて、うち、もうかなわんわー。熱い暑い』


 なぜだか顔を赤らめた精霊は手で顔を冷ますようなジェスチャーをしている。しばらく会話もないまま彼女を見つめていると、はっとしたように話しかけてきてくれた。


『あんな? ちょっとええ?』

「うん」


『今、サリアさんは自分がどんな状況かわかる?』


 少し考えてみたけれど、よくわからなかったから首を振った。


『そっか、そうやんな……』


 精霊は教えてくれる。わたしは光の精霊との間にあった契約の違反により、精霊界にて拘束状態にあったと。高位の精霊との契約の反故による精神の隔離。肉体は3日ほど意識不明にあるという。


 そして今、アレクセイが精霊術士として、わたしの拘束状態を解除してくれたんだって。


 今!?


『うん。今さっきやよ?』


 彼は精霊との契約をすぐに切り、元の世界へ帰っていった。わたしを帰すために、目の前の精霊が残っているんだって。


『アレクさん酷いんやよ!? うちとの精霊契約を一瞬で切るんやもん。それも魔力一つもくれへんかってん……鬼や、悪魔や』


 アレクセイはまたわたしを助けてくれえたの?


 彼への恩が返せないまま、積もっていくこの状況に焦りが加算されていく。


「どうしよう……わたしアレクセイに助けられてばっかりだよ……」


 つぶやきははっきりと彼女にも聞こえていたみたい。


『どうしよて……身も心も捧げたんちゃうの? 今さっき』


 え?


『マネしたげよか? 「わたしは、あなたが好き」、「お、ぉぅ……その、ありがと?」ゆうてはりましたやん。きゃー!! 熱いわぁ、熱いわぁ』


 精霊はセリフごとに右を向き、左を向いて夢の中の私達を再現した。


 え?


「ゆ、夢じゃ……?」


 恐る恐る彼女を見ると、彼女は、わたしが戦った魔族が見せたような、おぞましい笑みを浮かべていた。


 ああああああああああああああ。







『では、契約しましょ。サリアラーラ・コネット、我が真名を唱えよ』


「ショコウ・サオウ・トウメ」


 私達の新しい精霊契約がここに成立した。





寝ぼけたまま話すとろくなことはない。


お読みいただきありがとうございました。

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