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本日2話目
ちょっと長いです。
『あかーん! これあかんやつやー』
シャボン玉風精霊は突然サリアラーラの側から現れて人型にシフトした。途端に僕しか見える者がいなくなり、部屋にいたリリアリーリとクワト、ヒカリの前から姿を消したようになった。いるんだけどね、目の前に。
この状況で僕がしゃぼん(勝手にそう呼んでる)と会話すると、独り言言ってる怪しい人に早変わりになってしまう。
「何がいかんの?」
でもそんな事を心配している場合ではない。
しゃぼんをこの部屋に連れてきてから、精霊はすぐにこの場で精霊の世界に移動した。といっても距離はゼロだ。どうやら表裏一体の世界が存在するらしい。精霊が目に見えないのはその世界で生きているからだ、というのがしゃぼんの言だ。
『このサリアさん? うちとは逆にあっちで繋がれとるんよ』
囚われということか? 意識を取り戻すには、精霊界で開放してあげないとダメみたいだ。契約違反のペナルティが強すぎない? ピンポンの位階が高すぎるのが原因の一つになっているという。高い地位にいる者の契約を反故にする行為として評価されてしまうのかもしれない。例えそれが、どんな理由によるとしても。
「アレク、精霊はなんて?」
リリアリーリが突然消えた精霊が何か言っていると判断したようで、僕に経過を聞こうとする。この辺りの彼女の勘は本当に鋭い。言ってもいいのか判断に迷うところだね……。
「うん……さっき言ってたみたいな契約は難しいみたい」
自分と契約してすぐに解消すればいい、と言っていたしゃぼんだったけれど、いざ精霊が世界を渡ると、彼女は繋がれていると言う。人が渡る時は精神だけが連れて行かれるようで、身体自体はこちらにある。
「他に手はないの?」
『うーん。アレクさんがうちと契約する? 精霊界に行って、そこでサリアさんを開放するとかいいと思うんやけど?』
嫌だなー。こいつすっごいうるさいし。
『なんでそない嫌そうなん!? ショックや! ショックやねんけどー!?』
「ねぇ、アレク。難しい内容? 私では無理なこと?」
『そらぁ、妖精魔法士はあかんやろー。うちは忌避感ないけどな。精霊と相性ゼロやからなー』
聞こえはしないけれど、しゃぼんはちゃんと答えている。誠実ではあるのかな? うるさいだけで?
「リリアには無理だって。妖精魔法士は性に合わんって」
『言葉選んでぇ!? ねぇ、嫌われるやん!? ああああ!! この人に凄い嫌われるやん!? 酷いヒドイひどい!!』
「うっ、それは仕方ないか……確執が酷すぎるからね」
『あら? わりとあっさり?』
「あー、精霊と妖精の仲の悪さはよく知ってるんだよ」
リンカーラはしゃぼんが入ってきた途端に嫌な顔をしてリリアリーリのポッケに入ってしまったから、ピンポンがまともなだけだったのかも。それか、サリアラーラとはどうしても離れられない関係だったから、なんとか許容していただけか……。
まだまだ橋渡しは難しいのかもね。
『それで、どないします? アレクさん、うちと契約しはります?』
「正直言うとね……君との契約はお断りしたい」
『ええええ!! ヒッドイ!! なんでやねん!! うちのどこがあかんの!?」
いや、全部いかんよね?
「いや、君うるさいし……」
『えええ!!! ハッ……』
しゃぼんは両手で口を抑えた。うるさいって指摘が通じたようだ。見えていない3人は僕の言葉しか聞こえていないけれど、なんとなく察して笑いをこらえている。
「契約しないと精霊界に行けないの?」
『えっと……そうやよ? だから彼女を救うにはうちと契約しなあかんの!』
「じゃあ、契約はどこで?」
『精霊界でやよ』
「じゃ、仮契約してから精霊界へ?」
『うちがまず連れて行ってからやね』
「契約しないでも行けるじゃん」
『あ……』
しまった!? というびっくり顔のしゃぼんに呆れた。あんまりおつむの方は良くないみたいだね。余計に契約する気がなくなった。この頭の悪さで僕を騙そうとか……ないわぁ。
「よし、あんまり時間もないし、連れてけ?」
『あ……ハイ』
この時の中位精霊体の眼が白目をむいていたことなど、まぁ、誰も気付く事はない。僕も見たくはないからそっと目を逸しておいた。
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何この雁字搦め!?
サリアラーラはベッドで横になっている同じ姿勢なのに、ぜんぜん情景が違った。
「サリア!!」
光のロープのようなもので縛られている。すぐさま外しにかかったけれど、なんの効果もない。むしろ僕の精神が削られている気がしてならない。
解錠。
も、効果がない。なんで? 精霊界ではスキルが使えないのか?
『あかんよ!? 触れたらあかん! お互いの存在が消えるんやよ』
はよ、言えよ!?
『うっ……そない睨まんでもええやんか……』
スキルが使えない上に解くことも出来ない。詰んだ?
『あのな……まぁ、聞いてぇ』
光の拘束を解くには精霊か術士が契約解除を行わなければいけないんだって。精霊界では他との干渉もできるんだとか。そうやって、自分より弱い精霊を紹介したり、強い精霊と交代してもらったりすることが可能らしい。
でも、サリアラーラの中に、どうやら光の精霊の気配があるらしく、しゃぼんでは干渉が出来ないみたいだ。ピンポンの位階が高すぎるせいで、入る余地がないとのこと。ピンポンこんなところに居たのか……見つからないはずだな。リンカーラですら気配がないって言ってたからな。
「で? どうすればいい?」
『うちと契約して、サリアさんの状態を【術士】として確認したらええねん』
どうやら契約は必要みたいだ。このうるさいのと。
「はぁ、よりにもよって、こんなうるさいのと契約とか……誰得?」
『……うえぇぇぇん。ヒドイ言われように泣きそうやよ、うち』
「泣いてるじゃん、すでに」
『ハッ!?』
心の声がまたしても出てしまったみたい。最近よくあるよなぁ。気をつけないと。
「契約内容は?」
『うちの傷心を癒やしてはくれへんの? まずそこからとちゃいますか?』
「あー、調子に乗るタイプ?」
『グサ……アレクさん、心を抉るだけやのうて、折りに来とるん? うちなんか恨まれるようなことしたん!? ねぇ!? そこんとこ詳しく!』
「まず、うるさいのが嫌だね。そしてマウント取ろうとするところとか? そういうの大嫌いだね。そうだね、それと……」
『もうええよ!? 詳しくはええよ!? ごめんなさい! うちが悪いのようわかったから、それ以上は! それ以上は堪忍してぇ。……ひっく、ヒドイ……』
ちょっとやりすぎたかな。泣き止むまでしばしもかからない。立ち直り早いの分かってたし。うん。
『契約内容やけど……』
「うん」
『うちは魔力を貰う。これ精霊の当たり前の要求やね。アレクさんは【術士】として精霊魔法を使えるようになる』
「それだよね」
人型になっているしゃぼんはこてりと首を傾げる。
「それは僕の望みではないね。だから契約は成立しない」
『ええええ!!』
「契約ってね、色々な形があるのは僕も認めるところだよ? でも僕は精霊魔法はいらない。必要性も感じないし、魔力を提供する気も起きない。それじゃ、一方的に君が有利な契約になるじゃん」
『盲点!? いやいや、精霊魔法いらんの!?』
「うん。いらない。そもそも魔法使うの、弓出すときだけで事足りるし?」
ガーン、という衝撃を受けている顔をこっちに向けられてもなぁ。
「それに、僕が見えてるのはスキルのおかげだし、君との魔力が釣り合うとも思えない。契約した途端、魔力枯渇とか洒落にならないし」
『ええええ』
サリアラーラの魔力が膨大だから、光の高位精霊ピンポンとの契約が成立したんだよね。彼女は精霊魔法を使ったらかなり疲弊していた。それでいて高位精霊に近いしゃぼんが魔力低いなんてことある? ないよね?
『で、でも契約せんと……助けられんよ?』
「うん。だから条件を調整しよう」
僕はサリアラーラの状態をなんとか知って、開放できればそれでいい。はっきりいって精霊との契約はデメリットしかない。知りたい情報は大概【鍵】がくれる。ピンポンに頼るサリアラーラより圧倒的に早く。僕が知りたいのは今の彼女の開放方法だけだ。それ以降は無用だよね? ずっと魔力を搾り取られるのってどんな罰ゲームだよ。
『罰ゲームとか!? 精霊契約を罰ゲームとか!? よく精霊界でそんなんゆえるね!? うちびっくり!?』
「それにさ、君を開放してあげたの、このためだよ? 僕は君を開放してあげた。君は僕に何をしてくれるの?」
『え……だから契約を……』
「それは僕のためにならないよね?」
『えええ!!! 未だかつて精霊契約を罰ゲームとかデメリットとか言ったことある人間見たことないんやけど!? ためにならないとか……』
「だから僕の助けになることをしようね?」
『どうしたらええのん?……こんなん初めてやよ……』
精霊しゃぼんは頭を抱えて途方に暮れた。さあ、考えろしゃぼん。いや、めんどくさいから答えをあげよう。
「簡単だよ? 契約して僕を【術士】にして、サリアを開放したら契約終わり。シンプルにいこう」
『シンプルに……』
「そう。シンプルに」
『あの、一言物申すけど、ええ?』
「うん、どうぞ?」
『精霊のごちそうが魔力って知ってて言ってるん?』
「うん」
『悪魔ぁ! 鬼ぃ! 一瞬で終わる契約とか!? しかも魔力いっこももらえへんとか!? めっちゃくちゃや! 横暴や!』
うるさー。くそ、精霊界で行動施錠できないから止められないのが悔しいね。
「助けてあげたよね? 誠意見せような?」
『誠意……暴力団か!?』
あー、やっぱりこの娘、転生者だね。日本からお越しの。ロケットとか暴力団とか鬼とか悪魔とか色々挟んでくるからなぁ。まぁ、それはいい。
『どうしても、魔力はくれへんの?』
ものすごく物欲しそうに上目遣いで見てくるなぁ。やらんけど。いきなり魔力枯渇とか嫌だしね。
「無理だね。さっさと契約済まして、解約もしようよ」
『成田離婚ばりのスピード解約やん……』
がっかり感を隠そうともしない精霊しゃぼん。成田離婚って……僕よりかなり年上の世代かな? 知識として知ってるだけかもしれない。どっちでもいいけど。
転生の疑いが確信に変わった瞬間でもあった。
「そんなに魔力が欲しいなら、無事に済んでから彼女と契約したら?」
それが一番いいんじゃない?
『それはうちも思ったんやけど……光の精霊が許してくれるん?』
「さあね? でも契約切れたんでしょ? じゃ、大丈夫じゃない?」
そんな言葉に納得しているのかいないのか。彼女は続けた。
『うーん。見劣りするんやろうなぁ、うち……』
「見えなかったりしてね」
またもやガーンが似合いそうな顔をしているしゃぼん。浮き沈み激しいな。魔力が釣り合わない相手には見えないって、不思議だよね。そもそも精霊が見える人も稀有なのに、条件設定がかなり厳しい世界だ。違反のデメリットも厳しいし。
こうして、なんとかサリアラーラにかけられた光の拘束を外すことが叶った。
口車に乗せられたしゃぼんと、まったく魔力を消費しなかったアレクセイ。
ようやくサリア回復へ
お読みいただきありがとうございました。




