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『お願いやぁ、助けてぇなぁ』
あら、無作為に叫んでたわけじゃないのか……明確にこっち見てるな。
ピタリと止まった僕に、ついてきているヨンザとジョアンサが訝しんでこっちを見てきた。僕は指を指す。
「ここに精霊が繋がれてる」
「「え!?」」
彼らには見えないから仕方ないけれど、歯がゆいね。もっと【鍵】のレベルが上がれば見させてあげられるかな? いや、ジョブ【精霊術士】があるか探ったほうが早い?
ちょっと時間が惜しいから後回しでいいよね?
「なんとなく助けて欲しそうに見えなくもないんだ」
『いや、聞こえてるやろ? めっちゃ眼があってるやん!? うちにはわかるんやから!! ちゃんと意思疎通できるやんかー!!』
「助けないんですか?」
『そんな摂政な!!』
「うーん、助ける義理がないし?」
『酷い!? 酷いでぇ!!』
「なんで繋がれてるんでしょう?」
『よくぞ聞いて……』
「さぁ? 悪いことでもしたんじゃない?」
『ええ!? 聞いて! ちゃんと聞いて!?』
「ちょっと黙れ」
行動施錠。
うぐっ、あがっ、って呻いているけど、うるさくて会話が阻まれるのは正直イラッと来るんだよね。
「お兄ちゃん、ちゃんと聞こえてたとか……」
いやぁ、まぁ。ハハハ。ポリポリ頭をかいたら二人共執事長の苦笑を覚えたようだ。
「なんというか、うるさい系?」
「そうなんですね。どんなうるささかわからないのが残念です」
「ほんとそれ」
「そうか~、僕が黙らせたの、感謝すると思うけど?」
3人で顔を見合わせて笑った。なんか久しぶりに笑った気がする。
行動解錠。
『ああー!! 喋れん!! 動けん!! 動けんのは今更やけどぉ!!」
行動施錠。
『ハッ!? しゃべ……うぐっ!?』
うるさーっ何こいつ!? 元気すぎない? 縛られたてか?
縛られながらも首を動かして喚き散らしてる雰囲気はしている。行動施錠してるのになんとなく暴れてる感じがしてるんだよねぇ。
「だめだ、こいつ。うるさすぎる。きっと悪さしたんだよ」
「ますます聞こえないのが残念です」
「お兄ちゃん、この辺にいるの?」
「そうそう、その辺。わーわー喚いてるから施錠中だな」
なんとなく二人から「お気の毒に」って雰囲気を感じる。あれか? 模擬戦の時の行動施錠がどうしようもないトラウマとか? なんにもできなくなるみたいだからなぁ。呼吸までは止めてないよ? できるけど。
「大人しくなるまでちょっと座ろうか」
縛られた精霊の側で胡座をかいた僕に二人も追従する。お? なんか諦めたっぽい?
行動解錠。
『しくしく……酷いわぁ、こんな仕打ち酷いわぁ』
あちゃ、ダメージ甚大? でもなぁ、この手のタイプすぐ復活する感じしない? 様子をこのまま観察してもいいけど、時間も惜しい。だけど、事情がわからないうちは勝手に開放していいかもわからないしなぁ。
「とにかく、コレが縛られてる理由が分かればいいんだけど」
「事情……」
「本人から聞かないの?」
『本人て!! めっちゃ口止めされてるやん!! 喋れるようにしてからゆうてぇよぉ。あれ? しゃべれる!? おおー!? しゃべれるやん!!』
甲高い声でまくしたてるからほんとうるさいね……勘弁してよ。
「ちょっと静かにしてくれる?」
『やったー!! って、はい。スンマセン……黙りますハイ……』
声を少し低くして言ったら全員が息を呑んだ。あ、なんか溢れ出る負の感情を撒き散らしたっぽい。【鍵】が僕の感情を抑えるのやめて、周りに出すようになった弊害がこんなところにも出るのか。怒らせるほうが悪くない? 腑に落ちないんだけど。対象を仲間に向けないようにしてくれない?
「で? なんでこんなところに縛られてるの?」
『よう聞いてくれました! 実はうちの必殺技「ロケットマナパンチ」を魔族に打ちまくってたら、お味方にも当てちゃいまして! それはまぁ冗談やけど』
ロケットマナパンチって……思わずずっこけそうになった。座ってるのに。てゆうか、ロケットって、こいつまさか……。
ん? 魔族? ここにも来たのか?
『ちゃいますちゃいます。地下通路みたいなとこで戦ってたぁおもたらね? 急に契約者の魔力が消えましてねー、そない急に契約切らんでもー! って突っ込んだら「スキルなくなってもうた」ゆうから仕方無く契約解除なってもうて。こればっかりは違反ゆうても殺生やから、合意の上解消したんよ。そしたらここに自動的に縛られてたんよ。うちのペナルティはいつ解けるんやろ……』
「なんだ自業自得?」
『ねぇ、ちゃんと、うちの話し聞いとった!? ねぇ!?』
なんとなく話の核心に迫りつつあることに息を呑む。ペナルティがどちらにもあるのか? ピンポンが消えたのもペナルティ? いや、まだ結論を急ぐところじゃないな。
「あのさ、契約違反はどんなバツがあるの?」
『だからー!! 違反やのうてぇ!! ……あ、いえハイ。オハナシしますハイ』
途中で冷たい視線を向けるだけで分かってくれたこの子、なかなかして空気読めるタイプかな? うん、見直した。
『違反は契約者同士が決めることではあるんやけど、精霊側の違反なんてほとんどあらへんよ? 魔力もろて、術者のイメージ再現したるだけやからね。だから違反はたいてい術士側にあるやろね。その場合の話だけでええ?』
彼女の話は続く。曰く。大概は違反に準ずる副作用が延長されるのが一般的らしい。魔力の提供義務不履行を行なった場合は魔法が使えなくなり、魔力供給ができなくなった場合は魔力枯渇の状態異常、つまり昏睡が続いたりするようだ。サリアラーラの場合は後者に類するペナルティということだろう。
「3日、目が覚めない状態なんだけど、どうしたらいい?」
『3日て、長いやん……』
縛られたまま精霊は一生懸命考えてくれている。なんかいいやつっぽいな。『うーん、うーん』唸っている。
『急ぎやったら、うちと一回契約して、すぐ解消したらいい、思うよ? どないする?』
「は? そんなんでいいの?」
『たぶんやけどね。そのお人、結構高位の精霊と契約してはったんちゃう? 3日は長い思うけど……』
「うん、光の高位精霊体」
『うえっっ!? 光の!? そらやばいんちゃう? うちでもギリギリ契約できるかどうかってとこかな……』
魔力量の問題が付随するらしい。サリアラーラは下位の精霊が恐らく見えていなかったんだろうって事みたいだ。【魔女】の強みはそのまま弱みにもなるのか。精霊術士の中には低位精霊とたくさん契約できる者もいるらしい。それが彼女には不可能なのだ。見えないから。術士は自分と合う精霊をちゃんと視認できるらしい。
この中位精霊体はもうすぐ高位精霊体になれるんじゃないかってくらい位階が高いそうだ。まぁ自称だから好きに言ってるかもしれないけれど。言うのは自由だ。
『はぁ、でも。うちもこんな状態じゃなんもできひん……って、ええええ!!』
まぁ、チャンスがあるなら解錠も吝かではないし。
『おおきに!! おおきに!! 自由やぁ!! やたー!!』
今はこの子に縋るしか思いつかない。かなりの浮かれ具合だけど、サリアラーラを治してくれるなら、多少の騒音も我慢しよう。精霊界の掟とか事情はわからないけれど、勝手に開放してごめんね?
声は聞こえないものの、精霊はシャボン玉のような薄い玉になって連れの二人にも見えるようになった。
こうして特殊個体、無属性中位精霊体「しゃぼん」を連れ、僕たちは帰路についた。
お読みいただきありがとうございました。




